西孝子さん
「なんと雪の降るときにみんな日の丸の旗を持ってね『先生さようなら』っていって東駅から行かれるのをお見送りしましたけどね、これが先生とお別れした最後の姿ですけどね」
召集令状を受け取った香月は、山口市の練兵場に送られました。その後大陸に向け出征します。
「ああ、いっそのこと自分はアリになって、穴の底から青空だけを見てくらしたい。深い穴の底から見上げると空には真昼でも星が見えるのだそうな」
香月は「青の太陽」に兵士になった自分の心情を描きました。
香月の次男 香月理樹さん
「アリは自由にやってるけど自分はそこに言われたとおり動かなきゃいけないっていうつらさはあったでしょうけどね」
絵を描くための手に銃剣を握り、他人に言われたままに動く。
それは画家・香月泰男にとってとてもつらいことだったと父親の心情を話します。
香月理樹さん
「絵描きとしてほふく前進をしなきゃいけないっていうのはつらかったのでしょうけどね」
1945年8月、広島と長崎に相次いで原爆が投下され、日本は日に日に敗戦の色を濃くしていきます。そして、終戦。
西孝子さん
「配給生活が長く続きましたね。戦争が終わったよって、8月15日きいたときにああごはんがいっぱい食べられると思いました」
戦争中は食べ物も薬も配給制で、自由には買えませんでした。
香月は任務のために乗った列車の中で敗戦を知ります。
「敗戦を知った私たちの貨車は同胞の避難民を満載した貨車と何度も出会った。希望を失いあさましさをむき出しに人たちの貨車と無力の兵となった私たちの貨車が行方もわからずに、すれ違っていった」。
「避難民」にはすべてを失った人々の表情が描かれています。
香月にとっての8月15日は戦争が終わった日ではなく、新しい戦いが始まった日でした。