岸田総理大臣は24日、「次世代革新炉の開発・建設について年末までに結論を出す」と述べて、原子力発電所の新増設に舵を切る方針を表明しました。これまでは、岸田総理も歴代政権も「原発の新増設は想定していない」との立場でしたので、「建設」という言葉まで使った今回の発言は、福島原発事故後の日本の原発政策の大転換です。コロナ感染で隔離中の総理が一人モニター越しで宣言するような、軽い話ではありません。
この中で岸田総理は、①すでに安全審査を通った7基の再稼働を早期に進め、②既存原発の運転期間の延長を検討し、③次世代炉の新設に踏み込む方針を表明しました。3点はそれぞれ、短期、中期、長期の話ですが、岸田総理としては、参議院選挙での勝利やエネルギー危機を背景に、「国民の反発が少ない今が潮時」とばかりに懸案の原発政策に一気呵成に踏み込んだ形です。
しかし、総理の決断だけで話がうまく進むわけではありません。短期の課題である①の7基の再稼働については、例えば、柏崎刈羽6・7号機にはテロ対策上の不備を受けた再発防止策の確認作業が、女川2号機には審査で求められた安全対策工事が、周辺人口が多い東海第2には避難計画の策定など、それぞれの問題が残っていて、こうした具体的な課題をどう解決すれば、「来年夏以降の再稼働」に到達できるのか、はっきりしません。
中期的テーマである②の運転期間をめぐっては、福島原発事故後に「原則40年、最長でも60年」と決められました。震災後に日本では原発は新設されていなので、経年という意味では、40年に近い原発が目白押しです。膨大な追加コストをかけて60年への延長が認められた美浜3号機や高浜1、2号機も、「残り時間」は15年以下と少なくなっています。アメリカでは60年以上の原発はいくつも現役で運転されていますので、日本でも、運転停止期間を除外して実動年数だけをカウントするなどといった対応が考えられそうです。
ただ、原発のどの部分なら60年経過後も大丈夫なのかといった安全性に関わる問題は、やはり専門家による科学的な議論を経る必要があるでしょう。
そして③の新増設は、「次世代革新炉の開発・建設」という表現になっています。恐らく当面は既存の軽水炉の改良型を、将来的には小型モジュール炉(SMR)などをイメージしていると思われます。SMRは小型の原子炉を工場生産し、地中に設置するなど炉を閉じ込めた形で運転するというもので、安全性、経済性が大きく向上すると期待されていますが、実用化にはまだまだ時間がかかります。当面の改良型軽水炉を「革新炉」と呼ぶのは、少し誇大な表現ですし、次世代型も青写真を示さなければ国民には判断しようがありません。
こうした今後の幾多の課題の一方で、これまで指摘されてきた根本的な課題も何ら解決していません。原料であるウランの輸入依存脱却を目指す「核燃料サイクル」は10兆円以上つぎ込みながらも未完のままですし、再処理で出る高レベル放射性物質(核のゴミ)の最終処分方法も全く決まっていません。
振り返ってみれば、福島原発事故以来の11年間の国の原発政策は「思考停止状態」が続いてきました。政治家たちは「できれば原発がないほうがいいよね」という曖昧な態度でリスクを取らず、「原発を活かし続けるための積極的な努力」も、「原発をゼロにするための具体的な努力」もしませんでした。その挙句、エネルギー危機に直面するや、今度は「いきなりの方針転換」です。
電力が逼迫し、同時に脱炭素も進めなければならない中で、原発の活用は必要不可欠なことだとすれば、何より国民の納得が必要です。福島原発事故を経験した国だからこそ、なおさらです。そのためには「思考停止状態」のツケを跳ね返すだけのオープンな議論が重要で、大きく踏み込んだ岸田政権は、「決意」よりも「具体的な取り組み」を語ることから始めなければなりません。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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