なぜ? 空前の株価乱高下 「円キャリー」の巻き戻し

今月は相場が大きく動く状況になった。まず7月31日、日銀が利上げを決定。その翌日アメリカの経済指標で景気減速懸念が広がったことで、日経平均株価は2200円以上急落した。今週8月5日には4400円を超える過去最大の値下がりとなったが、8月6日は一転、3200円を超える過去最大の上げ幅となった。

――日経平均株価の動きが何百円どころか、2000円安、4000円安、3000円高とすごい数字になった。

ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
滅多になく、何十年に一度だと思うが、不安という言葉から恐怖に近い形になっていて、どういうことが起こったのかは、これから解明されると思う。もう一つ今回、特徴的だったは、海外の下落に比べて日本の下落が大きかったということ。日本の独自の問題がこの中に入っていると思う。

――日銀の利上げ、円高、それからアメリカの景気減速懸念というのが合わさった形で来ている。

ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
一つは2024年から始まった新NISAのタイミングの悪さ。逆戻しで市場が落ちてしまうと新NISAがどうなるのかという国民の不安感情もすごく高まったと思う。

その要素の一つが日銀の金融政策。今週の大きな動きは8月7日の日銀の内田副総裁の講演と記者会見だった。内田副総裁は函館の講演で「金融資本市場は不安定な状態で利上げをすることはない」「株価の変動は政策運営上、重要な要素」「輸入物価を通じた物価上振れのリスクは小さくなった」と語った。

――この発言はサプライズとなって一気に株価が戻り、円高も少し円安にまた戻した。先週植田総裁が言った「これから先もシナリオに変わりがなければどんどん利上げしていく」とは反対だ。

ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
先週、日銀が利上げの話を市場に出したときに、自分たちが想像していた以上に株や為替の反応が大きかった。副総裁の会見が8月7日にセットされていたのは、日銀のファインプレーだと思う。これがなかったら、市場の不安はもっと増長されていたと思う。

――見方によっては、株価が下落するなど、金融資本市場が不安定なときはやらないが、落ち着いたら元に戻ると読めなくもないというのが、不安材料でもある。

ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
「明確にやりません」という見方が出るとすれば、10月に「展望レポート」が出て、そこで先々の見通しを変えることをしない限りは、「市場の変動がなくなったら、またやるという話」と読めてしまうので、情報発信としては、まだ市場は不安視していると思う。

――大企業が破綻したわけでもない、金融危機が起きてるわけでもない、銀行が潰れたわけでもない、まして戦争が起きたわけでもない…にもかかわらず、こんなに株価が落ちた「一番の要因」は何か?

ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
「いろいろな前提が、1~2日の間に全部崩れてしまったから」だと思う。「アメリカがソフトランディングで、これからも大丈夫」だとか、「日本の円高はそんなに進むはずはない」とか、「株価は基本的に、堅調なまま続く」と思っていた話が、1~2日で全部崩れてしまった。崩れたことに対応すると、さらにそれが崩れる方向に一気に動いたという流れだと思う。

その象徴が「円キャリートレードの巻き戻し」。円キャリートレードはヘッジファンドなど投機筋が低金利の円を市場で借りて、高金利のドルなどで運用して金利差収益を得ようとする取引。これが日銀の利上げによる円安修正で円買いが進み、円キャリートレードを巻き戻す動きが出たとみられる。

円キャリートレードはこれまでも日米金利差があったときには何度か起きて、円安の元になっている。日本はゼロ金利、マイナス金利だったので、それでお金を借りる。ヘッジファンドだったり機関投資家だったり、場合によっては個人投資家もいる。円を借りてドルなどで運用するが、運用する人は、預金する人もいれば、債券を買ういう人もいる。

今回の場合だと、エヌビディアに代表されるようなAI関連株をアメリカで買うと、すごい収益が得られる。その間に円安になっているので為替でも収益が得られる仕組み。これまでは、円安株高にかけて、どんどんこの取引を膨らませていた。

ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
この大前提は市場が落ち着いていること。円キャリートレードはいろいろ複合的になるが、実は、収益はそんなに大きくない。何か月もかけて上がっている収益でも、変動が1日でも大きいと数日でマイナスになってしまうので、慌ててこれを逆戻ししてそれが、今回、円高を加速させた要因になっている。

当たり前だが、投資家たちがやっていることなので、元手は借りてきたお金。だからいつか返さなければいけない。あるいは損が出てきたら、ロスカットで損切りしなくてはいけなかったり、追証が発生するので、他の資産を売らなくてはいけなくなる。だから株価や為替が逆回転し始めると、みんなが一斉に売る。

――今は高速売買でコンピュータが自動的にやるので、強烈な巻き戻しが起きたということか。

ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
これがどれくらい戻っているのか、円キャリートレードの残高が残っているのかという議論はあるが、今非常に重要なのは、安定すること。数日間なかなか安定を取れていないので来週以降どうなるのかというのが市場の今の注目ポイントだ。