残り50秒の1点差 選択した戦い方は「勝負所を作らない」

南波キャスター:
最後の第9試合が大きなポイントでした。日本32点、カナダ29点。3点差ありましたが、第9試合が始まって2分30秒の段階でカナダが1点取りました。そして残り1分47秒で日本がもう1点取りました。ただ、点を返されて残り50秒のところで1点差になりました。残り50秒を上野選手がどう戦っていくのかという判断が見事だったということです。

選択肢は3つあります。(1)攻め型をこのまま続けて攻め続ける、(2)攻めつつ、守りも重視する、(3)勝負所を作らない(時間切れを狙う)という作戦がありましたが、選択したのは「勝負所を作らない」でした。攻め型で、攻めて点が開くだけではない、日本の技術がありました。

ロンドン五輪 フェンシング男子フルーレ団体銀メダリスト 三宅さん:
ざっくり言うと、9試合目は時間切れを狙うことがかなり効果的です。1試合実働3分ですが、この3分間がなくなったときに点数が高い方が勝ちなので、何とかして上野選手は時間を使って、相手に気づかれないように時間を経過させたいというのが今回の目的でした。

今回、上野選手は相手の陣地に攻め込んで点差を広げたい場合と、相手に「来ていいよ」と言われて何とかして徐々に点差を開きたい場合の2つの選択肢がありましたが、「残り50秒」というところが結構リスクになります。

実は残り50秒で奪われた点は、相手に走り込まれて突かれてしまったんです。だから後ろに引くのは得策ではない。これでもう1回相手に攻めさせると、もしかしたら追いつかれてしまうかもしれない。

ポイントになるのが、1分34秒のときは不用意に攻めようとしてカウンターをもらってしまっています。だから攻めでも守りでもない、どうしようかとなったときに勝負所を作らないということを上野選手は覚悟して決めたんですね。

実際に残り50秒からの流れは、6秒8のところ以外は上野選手は突きにいくことすらしていません。とにかく相手の剣をいなして時間切れを狙いました。

実際に相手に近づいて、背中に剣を回して突くこともできますが、突いてしまうとタイマーが止まってしまいます。なので、あえて近づいて試合をそのまま続ける、タイマーをとにかく動かすという戦法をとりました。

とにかく剣に近づいて突かせない方法をとるために今回、上野選手は50秒間を有効に使っています。これは本当に怖いことなので、解説の方も相当ドキドキしてたと思います。

産婦人科医 宋美玄さん:
相手から見たら攻めようと思っても、攻めさせてもらえないから結構イライラしてくるんじゃないですか?

ロンドン五輪 フェンシング男子フルーレ団体銀メダリスト 三宅さん:
そうやって相手に無理をさせてカウンターを狙いたいのも我慢して、とにかく時間をなくしていき、最終的に1点勝っている状態を作ったというのは、すごく経験値があるからこそ取れた戦略なのではないかなと思います。

本当にもうどうなるかわからないので、残り6秒からの攻防でどんどん時間が減るというのがドキドキしました。

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<プロフィール>

三宅諒さん
ロンドン五輪 フェンシング 男子フルーレ団体銀メダル
日本パラフェンシング協会理事