心房細動
次に心房細動ですが、これは不整脈の一種です。不整脈には危険な不整脈と危険ではない不整脈があります。
危険な不整脈の代表は、このドラマでも出てきた「Vfです!」。Vfとは心室細動で、全身に血液を送らなければならない左心室がブルブルと震えてしまって(痙攣してしまって)、全身に血液を送れなくなってしまいますので非常に危険です。AEDを使用することによって救命できますので、一般の方にも知っておいてほしい危険な不整脈の代表です。
一方、危険ではない不整脈に分類される不整脈がこの心房細動です。心房細動の原因は、一つは弁膜症で、弁の機能が悪いと心房に負担がかかり心房細動が起こります。また飲酒、ストレス、甲状腺疾患、高齢などが原因と言われています。
ブルブル震えるのは心室ではなく心房ですのでそこまで危険ではありません。心房から心室に血液が流れる力はどちらかというと、心室が拡張することによって起こると言われています。心室が拡張することにより大半の血液が心房から心室に引き込まれますので、心房が収縮することによる血流はそこまで重要ではありません。つまり心房がブルブル震えていても、きちんと血液は流れてくれるのです。
ただ危険ではない不整脈である心房細動ですが、一番厄介なのは心房がブルブル震えると、少なからず血液の流れが心房の中で停滞しますので、心房の中に血栓(血の塊)ができてしまうということです。流れが悪い川にゴミが溜まりやすいように、血液の流れが悪くなると左心房とくに左心耳に血の塊ができやすくなります。
左心耳は以前も説明しましたが、崩落事故での救急外来で世良先生が縫合した、あの左心耳です。血栓ができ、それが左心房から左心室に行き大動脈から脳の動脈に飛んで行って詰まってしまえば、脳梗塞になって麻痺が出たり、意識障害が出てしまうことがあります。ですので、心房細動がある人で血栓ができやすいタイプの方は血液がサラサラになるお薬を飲んだほうが良いのです。
祥子さんは、術前はおそらく血栓がなかったのでしょうが、カエサルによる大動脈弁手術が終わり、経食道心エコーで観察すると左心耳に血栓ができていました。血液をサラサラにするためのヘパリンという点滴の薬がよく効いていなかったのかもしれません。
いくら院長命令とはいえ、手術中に左心耳に血栓が見つかって、そのまま放置するのはいけません。高階先生は見事にカエサルにより左心耳の血栓を摘出したのでした。
高階先生と専門用語
今回は医療系ドラマで、それだけに専門用語が非常に多く、演者の皆様の努力には毎回頭が下がります。とくに高階先生は説明的なセリフも多く、非常に大変だと思います(もちろん他の皆様も)。
本来私たちは略語を多用しますので、日本語で長いセリフを言うことはほとんどありません。「大動脈弁閉鎖不全症に対して大動脈弁置換術を行う」なら「ARに対してAVRを行う」になってしまいますし、「僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術」なら「MRに対してMVPを行う」で済んでしまいます。ほぼ100%私は演者の皆さんのように正確にセリフを言うことはできない自信があります。
ちなみに高階先生が一番苦労したセリフは「左開胸による両側肺動脈血栓摘出術を行う」だそうです。
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イムス東京葛飾総合病院 心臓血管外科
山岸 俊介
冠動脈、大動脈、弁膜症、その他成人心臓血管外科手術が専門。低侵襲小切開心臓外科手術を得意とする。幼少期から外科医を目指しトレーニングを行い、そのテクニックは異次元。平均オペ時間は通常の1/3、縫合スピードは専門医の5倍。自身のYouTubeにオペ映像を無編集で掲載し後進の育成にも力を入れる。今最も手術見学依頼、公開手術依頼が多い心臓外科医と言われている。