左手だけのフルート演奏に…満場の拍手喝采
楽器職人の山田さんが手掛けるフルートは、1ミリの数十分の1の単位で削りながら作られます。その作業は吹き込まれた“息の束”が楽器全体を震わせ、ホールの後方まで届くことを計算に入れています。畠中さんが試しに吹く音色に耳を傾けて、職人の山田さんはつぶやきました。楽器職人・山田和幸さん「私は楽器を造る立場なので、批評する立場ではないんですけど、とても今のお音も素敵なんじゃないでしょうか」
左手だけで演奏出来る、唯一無二のフルートを得た畠中さんは、今年7月2日、札幌コンサートホールKitara(キタラ)のステージに立ちました。

満席となった演奏会には、友人のピアニスト JaXson(ジャクソン)さんと、クラリネット奏者の畠中さんの妻さおりさんと、3人で臨みました。20分以上続けて演奏できない畠中さんの体調をカバーする形で構成されたプログラムで、「アヴェ・マリア」やオリジナル曲「ラプソディー・イン・ブルー」など、クラシックとジャズを組み合わせた8曲を演奏しました。
言われなければ、片手で演奏していることが分からないほど、力強く伸びのある、澄んだフルートの音色が響き渡り、観客を魅了しました。
「感覚が半分になったとか、2分の1になったとか言われるかもしれないですけど、僕は違う感覚を2つ持ったという点においては2倍以上の感覚を持てたのでラッキーだったと思います。障害は、ハンディキャップだと言われるかもしれないですけれど、感覚ということにおいては、僕は2倍手にしているので、アドバンテージとしか言いようがないということです」
軽やかでコケティッシュ、そして、洒落たガーシュインの音色が3人のスクラムを組んだような力強い和音でステージは締めくくられました。
演奏の余韻のあとに響き渡ったのは、満場の拍手でした。

畠中さんは、自分と同じように障害を持ちながら日々を送る人を励ましたいと就労支援施設や老人ホームなどで出張コンサートを行っています。そうした活動の中で畠中さんが出会ったのは、障害のため音楽を楽しむことが難しい人々の存在です。いつの日か、ステージで障害がある人もない人も一緒に演奏し、客席で障害がある人ない人も、気兼ねなく観賞できる“音楽祭”を開催する夢を膨らませています。
(報告:ディレクター 山田もと子)