「ドラえもんで日本語を学んだ」川口のクルド人家族

まだ少し肌寒い春の夜、チョーラクさん一家の川口市のアパートを訪ねた。私たちの分の夕食も用意していてくれた。メインはロールキャベツと焼いたチキン。独特の香辛料が、ピリっと辛い。床に布を敷いて、その上で食べるのがクルド式だという。
2歳で来日した長男はいま中学校3年生。小学4年生の二男とともに、日本語を問題なく操る。
長男
「ドラえもんとかアンパンマンを見て学んできて。それで日本語がぺらぺらになった。漢字ドリルも訓読みのところを見ながらよくちっちゃい頃勉強してたので、書くのもできます」

穏やかに夕食をとり、その後、子どもたちは宿題に取り組む。将来の夢を聞くと、長男はサッカー選手。次男は「悪い人をつかまえたい」から、日本の警察官だという。
トルコで生まれたチョーラクさんは、高校生のときに地元の「ネウロズ」に参加したことで当局に逮捕、暴行された。トルコを去る決意を固め、同じ事情から先に来ていた兄を頼って、妻と長男とともに日本に来た。観光ビザで成田空港から入国し、難民認定を申請したが2度却下されている。
「自分の力で生活できない…」 クルド人と「仮放免」

一家は在留資格のない「仮放免」で12年間暮らしている。同様の状況のクルド人は700人ほどいるとされる。就労は禁止され、埼玉県外への移動にも許可が必要。子どもの修学旅行なども例外ではないと聞いて、そこまでかと思った。
健康保険にも入れず、医療費は全額負担。約7万円の家賃も含めて、就労資格のある兄の支援で生活を成り立たせているが、日々の生活は厳しい。チョーラクさんは、クルド語とトルコ語まじりでこう嘆いた。
チョーラクさん
「本当に大変です。日本に来たけど、自由に動けないですし、何より働けない。自分の力で家族を養えないのが哀しい。生きているのか、生きていないのか分からないような状態です」

そんな不安定な環境で暮らす一家に、何がもっとも気がかりかを聞いた。夫妻は間髪入れず、日本語で「強制送還」と答えた。
実は、これまでの入管難民法では難民申請中は強制送還が停止される規定があった。しかし、その規定が“送還逃れ”に悪用されているとして、政府が去年、法律を改正。今年6月10日から3回目の申請以降は特別の事情がない限り、強制送還の対象となったのだ。
チョーラクさんは、3回目の申請の結果待ちが続いている。その立場は私も理解していたが、自宅での慎ましく穏やな生活をまさに目にしているだけに「強制送還」の言葉が不思議に響く。