阪神淡路大震災、済生丸は海から援助物資を運んだ

1962年に運航が始まった済生丸はおよそ半世紀にわたり、医師がいない島などを巡って、のべ約62万3千人の人々に医療を提供、また災害時にも支援活動を行ってきました。

(岡山済生会予防医学健診センター長医師 池田修二さん)
「阪神淡路大震災のときに陸路が寸断して、誰も行けなかったときに済生丸が海から援助物資を運んで神戸で活動した。将来そういったことを起きたときに、済生丸ができることであれば積極的に関わっていきたい」

政府が推進する「船を活用した医療提供」とは…

陸路が寸断されても活動できる「海をわたる病院」です。実はいま、国も済生丸が行った「災害援助」の役割を担う船での医療提供に乗り出しています。

(2024年2月2日、参議院本会議 岸田文雄総理)
「船舶を活用した医療提供体制の速やかな構築に向けて、まずは既存の船舶を活用した活動マニュアルの策定等を進める」

政府が推進している「船を活用した医療提供」とはどのようなものなのでしょうか。

(スタジオ)
海をわたる病院「済生丸」は、阪神淡路大震災の際に41日間、災害援助にあたりました。ただ当時、診療船である済生丸が行ったのは医療物資や看護師を被災地に送る支援などで、船内では「医療活動」は行っていませんでした。そこで国は船の中で「医療活動」を行えるようにと法律を制定し施行するというわけなんです。

「国としても阪神大震災の時の済生丸のように災害時の船の活用にも力を入れ始めたんですね」

国の構想としては、自衛隊の艦船や民間のフェリーの活用を想定。また2018年には、冒頭でもご紹介しましたが、船の中で手術を行え、1000床の入院用ベッドを備えたアメリカ海軍の病院船「マーシー」を視察しました。今後「病院船」の建造も検討されています。そういった中で起きたのが今年1月の能登半島地震です。有識者はいま改めて、「病院船」の具体的な活用策などを考える必要があると訴えています。

(日本医師会 細川秀一常任理事)
「今回の地震が病院船、災害時の船舶活用という事についてもっともっと拍車をかけることになるのではないかと感じています。」

日本医師会で救急災害医療を担当する細川秀一常任理事です。今年1月に起きた能登半島地震では、液状化や道路が波打つなどし陸路が寸断。能登半島の一部地域で集落が孤立する事態になりました。海洋国家であり地震などの災害が多い日本。細川さんは、災害発生時においての「病院船」の役割は多岐にわたると話します。

(日本医師会 細川秀一常任理事)
「お手本となるのがですね、アメリカ海軍のマーシーといったあの病院船。あれは本当に病院の機能がしっかりとしている。こういうような船舶活用があれば本当に被災地の近くまで行って、逆に宿泊手段として救護する側の人たちの宿泊所としても、利用ができるんではないかっていうことは今回大きく見直された」

政府の松村内閣府特命担当大臣は、5月24日の会見で、病院船を「東日本・西日本などどの地域に設置するかなどは今後、議論を進めていく」としています。まだまだ過渡期にある「病院船」に関する議論…長年、済生丸に携わってきた医師は、半世紀以上、瀬戸内海の島を巡ってきたノウハウなどを提供できたらと考えています。

(岡山済生会予防医学健診センター長医師 池田修二さん)
「『病院船』というのは非常に良いアイディアではあるんですけど、外洋を通っていくところには非常に役に立つかもしれませんが、この瀬戸内海の小さい島を回るのには大きな船はちょっと使いづらい面もあります。そういったところのノウハウをお伝えできれば非常にいいんではないかと思います」

1日に控えた法律の施行。いま災害時に一人でも多くの命を救う可能性のある船の導入が、瀬戸内だけでなく国全体で進んでいます。

政府は有識者や自治体関係者による作業部会を設け、具体的な船舶活用などの運用マニュアルを2024年度中に作成する予定です。また済生丸では、5月からX(旧ツイッター)を開設し情報発信を行っています。診療活動の様子などを公開しているということです。@saiseimaru100