半導体エヌビディア好決算「次の産業革命始まった」

ーー株式市場は依然として神経質な展開のようだが、アメリカのマクロ経済の状況について。
5%を超える政策金利にも関わらず、依然としてとにかく景気が強いと思う。また、物価も強い。これはどういうことなのか

伊藤 元重氏:
よくわからないが、金利を今の状態で置いといても景気が失速しない、という安心感がある。
一つはやっぱりコロナの反動が大きく、皆が想定した以上であったということと、もう一つはアメリカの財政の影響が大きいと思っている。
インフレ抑制法案などで、いろんなところに民間の投資が回るように相当激しい財政資金追加が出て、これが景気をかなり後押ししてるんじゃないかなと。

ーー半導体工場への投資とかEV工場への投資とか、そういうものが景気刺激で?

伊藤 元重氏:
政策的に言うと、金融の引き締めをしてきているわけで、当然ポリシーミックスでその反対側で財政を出していくというのはどこの国もやっているが、それがアメリカでも非常に顕著に出ているということだと思う。

こうした中、FRBパウエル議長は慎重な姿勢だ。
「1-3月のインフレ指標上振れで物価目標2%に自信を持てない」「我々は忍耐強く、引き締め的な政策が役割を果たすのを待つ必要があると」と発言した。

ーー今後のアメリカ経済のポイントというのは、どこにあると見ているか。

伊藤 元重氏:
一番ベストなシナリオは、少しずつインフレ率が下がってきてそれに応じて金利も下げて、安定的にソフトランディングすること。
心配なのはインフレ抑制のために金利を高いままにしておいて、どこかで景気が大きく落ちて、いわゆるハードランディングになるということ。

今の段階で見ると、多分ソフトランディングのシナリオの方が高いんじゃないかなと。秋あるいは年末ぐらいにかけ、インフレが少しずつ減ってきて、金利を下げていくということになるんじゃないかと期待している。

ーーただ金利がこれだけ高いと、住宅ローン、クレジットカードなどの借入金利も上がっている。どこかに我々が見えない大きな落とし穴がないかというのが心配。

伊藤 元重氏:
中央銀行もそれは当然見ていて、単にいろんな重要な指標だけじゃなく、全体的に高金利が持っているマイナス効果で見てると思う。
マイナスの部分もあるが、全体的には今すぐに金利を下げる状態ではないというふうに判断しているのだと思う。

エヌビディアの決算に関して、今月エヌビディアの日本代表の大崎さんのお話を伺ったが、今回もすごい決算だった。
エヌビディアが22日に発表した2-4月期の決算は、売上高が前年同期比で3.6倍となる260億4400万ドル。純利益が7.3倍となる148億8100万ドルで、いずれも市場予想を上回り過去最高となった。

利益が1年で7.3倍。260億の売り上げで148億の利益ということは、半分以上。こんな商売が認められていいんだろうかと言いたくなるような決算。
またこれを受けて株価が急騰。23日は9.32%高の1037ドルで取引を終え、24日も続伸し、1064ドルとなり、わずか1年5か月の間で株価は7倍以上値上がりしている。

ーー先ほど堀古さんも言ってましたように、AIが引っ張っていく新しい経済への期待感というのは非常に強いとのことだが、これは本当か

伊藤 元重氏:
こういう話をこの20年30年ずっと聞かされてきて、一方でイノベーションが経済成長を引っ張るんだといういう、イノベーション信奉派というのは結構強い。
他方でイノベーションはあるが、それは簡易型でやっているので。

ーー経済学の世界でもなかなか見方が分かれるのではないか。

伊藤 元重氏:
今回AIという一歩進んだ技術が出てきて、少し考え方ががかわったもしれないが、本当にAIが経済成長させるのであれば、エヌビディア以外の普通の企業の株価も上がってもいいはず。
そうなってないということは、まだみんな様子見だということだろう。

エヌビディアのCEOはこういうメッセージを残している。

「次の産業革命が始まった」「企業と国は我々と連携提携して、従来のデータセンターを高速化した1兆ドル規模のAI工場で人工知能という新製品を生み出している」

ーー次の産業革命が始まった。だから単なるイノベーションではない、革命なんだと言っている。

伊藤 元重氏:
20世紀の後半のITバブルのときもそういうこと言っていた。今回もかなり多くの人が期待してるということが株価に現れていてると思う。

ーーそこが生産性向上に本当に繋がるかどうかの見極めは、これから先ということ?

伊藤 元重氏:
産業革命と違うのは、AIの場合には、いろんな産業に繋がっていくスピードが多分早いだろうと思う。だからそこを期待したいところ。

ーー実装化されていくプロセスが蒸気期間の普及なんかにはもっと短い時間に起こってくる。そのときに乗り遅れないようにするってことが大事ですよね。

(BS-TBS『Bizスクエア』 5月25日放送より)

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<プロフィール>
堀古英司氏
NYの投資顧問会社の最高運用責任者
ヘッジファンドの運用に携わる
著書に「リスクを取らないリスク」

伊藤 元重氏
東京大学名誉教授 専門は国際経済学
経済財政諮問会議民間議員など歴任
近著「世界インフレと日本経済の未来」