■ 豪雨被害の里山で新たな特産品を
熊本県甲佐町(こうさまち)宮内(みやうち)地区。
山と清流に囲まれたのどかな集落で、今、住民一丸となって取り組んでいるのが…「山椒栽培」です。

きっかけは豪雨災害でした。

2016年、熊本地震直後に集落を襲ったのは、当時、国内観測史上4位となる記録的豪雨でした。地震で地盤が緩んでいたこともあり山の斜面が崩れ、道路は寸断。多くの田畑が流されてしまいました。

あれから6年。現在も復旧作業は続いています。
佐藤 直樹さん
「農地もですね、災害復旧工事ということで、町とか県の皆さんには復旧していただいていたんですけど、そもそもこの高齢者が多い地区で そこを畑に戻そうというよりは、こんな大きな災害もあったから畑ももうやめてしまおうという方が多かったというのが事実なんですね」
復旧後、一面に広がるのは、米や野菜を植え付けることが難しく耕作を諦めざるを得なかった「耕作断念地」でした。

変わり果てた集落を取り戻すため立ち上がったのが、10年前に甲佐町に移住してきた佐藤 直樹さんでした。

これまでも地元を盛り上げるための活動を行ってきた佐藤さんが集落の復活のために選んだのが「ぶどう山椒」です。国内生産量が少なく、希少価値が高い点に目をつけました。

佐藤さん
「山椒だったらイノシシの被害とかもちょっとは少ないし、元気なうちなら収穫もできるよねということで、山椒を植えてみようってことが最初の始まりですかね」
3月、注文していた「ぶどう山椒」の苗が届きました。佐藤さんは 2年前に山椒の生産組合を立ち上げ、毎年苗木を植えています。その数、今年で1200本を超えました。
山際の傾斜地を切り開き、山椒栽培に取り組む園田 豊(そのだ ゆたか)さん。植樹は今年で3年目になります。以前は手広く米を栽培していましたが、水害を機に山椒栽培に切り替えました。
園田 豊さん
「水害は用水路が壊れてしまったけん、田に水が張れなくなってしまって、今は全然米を植えんわけですたい」

実はぶどう山椒、国内の主な生産地は岡山県のみ。栽培方法も様々な見解があり、いまだはっきりとしたものが確立していません。日照条件はどうなのか、どんな土壌が合っているのか、そもそもこの土地に適しているのか、全てが手探り状態です。

園田さん
「どうなるかわからんばってん、そがんとばっかり考えとったら前には進まんけん。そこはやらなしょんなかたいね」
植え付けから3年、ことし初めて収穫の時を迎えました。米から転作した園田さんの山椒は?
佐藤さん
「これこれ。なっとっですね、だいぶんね」
ぶどうの房のように山椒がたわわに実をつけていました。収穫まで5年かかると言われていましたが 3年目の今年、想像以上に実がつきました。

佐藤さん
「ようなっとるけん、よかったなぁと思ってな。楽しかばいた」