「宇宙線」は知らぬ間に私たちの身体を通過している

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「ノーベル物理学賞を受賞した故・小柴昌俊さんは、『ニュートリノ』と呼ばれる素粒子からなる『宇宙線』の観測研究で業績をあげました

『ニュートリノ』はなかなか物質と反応せず、(私たちの身体や地球さえ)透過してしまうので、巨大な水のタンク(小柴さんの指導・監督のもと岐阜県の神岡鉱山地下1000mにつくられた観測装置「カミオカンデ」)を設置し、少しでもニュートリノと水分子が衝突できる可能性を高くする工夫をして、その観測に成功しました。

【画像④】ニュートリノが水分子と衝突して生じる衝撃波を観測する

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「カミオカンデで観測しているのは、ニュートリノが水中を通過した時に発せられるチェレンコフ光という光です。チェレンコフ光の正体は、衝撃波です。(【画像④】参照)

水中では光の速度は遅くなりますが、ニュートリノはお構いなし。つまりほぼ光速で水中を突き進みます。そうすると、水上を航行する船が残す航跡同様に、チェレンコフ光が発生します。航跡から船の通過を確認するような手法です。

『宇宙線』といっても頻繁に観測されるものもあれば、存在を確認するのも困難なものまで様々です」

では天体写真に写り込む「宇宙線」は何なの?

――観測困難な「ニュートリノ」のような「宇宙線」ではなく、天体写真にしばしば写り込む「宇宙線」はどんなものなのでしょうか。

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「ノイズとして映ってしまう『宇宙線』は、普段は邪魔者扱いしていますが、よくよく考えると、とても興味深い物理現象です」

「『宇宙線(主に陽子からなる)』が上層大気の原子と衝突して、『μ(ミュー)粒子』といった粒子が多数生成され、シャワーのように降り注ぎます。衝突前の『宇宙線』を『一次宇宙線』、衝突後に生成される多数の粒子を『二次宇宙線』と呼びます。この『二次宇宙線』が"ノイズ"の原因のようです」

「『一次宇宙線』と大気との衝突は、数km上空で発生します。このμ粒子の寿命は、50万分の1秒に過ぎません。光速(秒速30万km)で地上に向かったとしても、600mしか進めず、地上に辿り着くことはできません」

「しかし、現に我々は『二次宇宙線』を地上で観測しています。これには、物理法則のマジックが関わっています。アインシュタインの相対性理論です。光に近い速度で移動していると、時間の流れがゆっくりになるのです」

「μ粒子の速さを光の99.9%とすると、時間の流れは20倍以上遅くなります。よって、地上にμ粒子が辿り着くことができます」

――目には見えないけれど、シャワーのように降り注いでいるんですね。

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「【画像⑤】は、ハワイ島の標高4,200mのマウナケアにある、すばる望遠鏡を用いた天体観測中に写った『宇宙線』を、あえて強調して表示したものです。多くが同じ方向を向く線状に写っています」

【画像⑤】すばる望遠鏡が撮影した「宇宙線」のシャワー

「これらが同じ方向から飛来していることから、同じ『一次宇宙線』を起源とした『二次宇宙線』であることがわかります」

「二次粒子も多くは大気にブロックされますが、標高4,200mにあるすばる望遠鏡は、より多くの『宇宙線』に晒されているので、観測データに『宇宙線』が頻繁に写り込みます」