■医療の厳しい現状「非常に悔しい」「医療の敗北じゃないか」


田代院長
「ちょっとぐったりしてるな」
「元気ないね、大丈夫?うわ、冷や汗かいている」

患者の妻
「元気なかったんです」

田代院長
「僕のこと、分かります?」

都内に住む83歳の男性。末期のがん患者で、28日、新型コロナの感染が確認されました。

がんはすぐさま命に関わる状態ではありませんでしたが、医師が訪れた際には、症状がかなり悪化していました。

田代院長
「意識もちょっともうろうとしていて。コロナのせいで急変しているから」

医師と相談し、妻は救急車を呼ぶことにしました。119番の電話がつながったのは、
約1分後でした。


消防庁の職員
「消防庁です、火事ですか?救急ですか?」

患者の妻
「救急です」

消防庁の職員
「救急車が向かう住所を教えてください」

症状は、医師が伝えます。

田代院長
「コロナウイルスで、意識障害を伴う呼吸不全がみられています」

事態は急を要しますが、ここにもコロナの影響がありました。

消防庁の職員
「非常にいま救急要請が多いので、到着まで1時間近くかかるかもしれません」

患者の妻
「そうですか、お願いいたします」

それでも、約20分後に救急車が到着。訪問していた医師は、そこで現場を離れました。

到着した救急隊は、男性の症状を診て、入院できる病院を探しました。しかし、2時間かけても病院は見つからず、再び医師が訪れ、状況を確認します。

救急隊が問い合わせた病院の数は・・・


救急隊員
「100件以上かもしれない」

田代院長
「本当にありがとうございました。これが現実というところで」

患者の妻
「本当に頭が下がります」

100件以上問い合わせても、男性が入院できる病院はありませんでした。

救急隊
「大変申し訳ないです、救急隊の方で病院見つけられなくて」

患者の妻
「いえいえ、そんなことないです」

田代院長
「今後どうなるかは分からないけど、僕らは出来ることをするとしか言いようがなくて。この悔しさは僕もそうだけど、救急隊の方もものすごく悔しさを感じる」

救急隊は、男性にも「申し訳ない」と声をかけ、自宅をあとにしました。

救急隊
「お大事になさってください」

患者の妻
「ありがとうございます、一生忘れません」

その後、自宅でできる処置が夜遅くまで続きました。

しかし、29日未明、男性は息を引き取りました。

死亡診断書の死亡原因の欄に書かれたのは「新型コロナウイルス感染症」。感染確認から、わずか半日後のことでした。


患者の妻
「私を置いていかないでねってしょっちゅう言っていたんですけど、(夫は)『そうはいかんよ』って言っていたからね」
「本当に穏やかな人間でした」

妻は最後まで、医師や救急隊への感謝の言葉を繰り返していました。

田代院長
「やはり非常に悔しいですし、入院できずにこういう結果を迎えるっていうのは、我々の“医療の敗北”じゃないかなと僕は思っていて。まともに医療が機能していないという現状には、厳しさを感じざるをえません」


新型コロナの新規感染者は、29日も全国で増加しています。

東京都が発表した29日の感染者数は3万6814人。自宅療養をしている人は都内だけで、17万8862人に達しています。