「政治的な目的のために手段や方法を選ばない」

オッペンハイマーが直面したであろう科学者としての“性”とそれがもたらした結果への苦悩・後悔。それは現在の科学者にもあるかもしれない。なにしろ今や戦争と科学技術は切り離せない。特に第3の軍事革命と言われる“AI”は先端科学そのものであり、AIの研究者たちは現代の戦争に必要不可欠な存在になってしまっている。

そしてAIの悪用・誤用はすでに起こっている。国際人工知能管理協会の協会長に聞いた。

韓国科学技術院(KAIST)国家未来戦略技術政策研究所 チョ・サングン教授
「昨年もウクライナ戦争やガザ紛争でのAIの誤用悪用事例を見つけ論文として発表した。(中略)ロシアや中国のような権威主義国家は私たちと異なる肌感覚を持っている。彼らは政治的な目的のために手段や方法を選ばない傾向があるのでAI兵器を誤用・悪用する事例が実際に起きたことも事実だ」

中国では“官民協力”と言って民間から技術を引き出し、サイバー戦・認知戦はもとより兵站・軍事訓練までAI兵器システムを構築していると話すのは台湾のシンクタンク『国防安全研究院』の王氏だ。中国では“戦争のための科学者教育”ともいうべきプログラムが始まっている。

『国防安全研究院』王綉雯氏
「計画は4年に亘る知能武器システム実験計画で、その目標は次世代のAI兵器研究開発の専門家を育成するというものだ。基本は教育を受けた後、北京理工大学の機械工学・電子工学・AIなどの専門分野にそれぞれ進み、2人のベテラン専門家に指導を受ける。1人は学術の専門家。もう1人は国防産業の専門家だ。若者に実際の研究開発を通じて技術や経験を積んでもらうのが重要だ」

話に出た北京工科大学は軍とつながりが深い“国防七校”の一つ。倍率160倍の難関を突破した18歳以下の31人に軍民それぞれ2人の教官を付け、AIのエキスパートを育成している。さらに現在はロシアと連携し始めたという。

『国防安全研究院』王綉雯氏
「北京理工大学とモスクワ大学は深圳に中露初の合同の大学『深圳北理モスクワ大学』を設立した。両国がAI軍事応用における協力を深め、その機関を使って海外専門家のAI先進技術を吸収しようとしているのか注目している。中国のAI技術がアメリカを抜いてしまうのは恐ろしいこと…」

AI研究が進めば進むほど“歯止め”が懸念される。

西側諸国では…

2015年「国際人工知能会議」が1000人以上のAI科学者がAI兵器を警告する書簡に署名。2018年、グーグルの社員3000人以上が国防総省にAI技術を提供することに抗議。2021年「国防倫理委員会(フランス)」完全自律型AI兵器は認めない…などの動きはあるものの、遺伝子操作やクローン技術への国際的な倫理規定はまだない。

去年、国連総会でLAWS(自律型殺傷兵器システム)への対応が初めて採択されたがそれは「なんとかしなくてはなりません」というだけのもので、それでもロシア、インドなどが反対、中国、イスラエルなどが棄権するなど具体策を作るには程遠い状態だ。