計画的だからといって責任能力があるとは限らない?

 ―――今回、山上容疑者は計画的な犯行だったのでしょうか。安倍元総理の岡山市の演説会を4日前に把握していたとされ、銃を作るたびに試し打ちをした、奈良に来ると知り犯行を決意した、というような情報があります。その限られた情報だけを聞いていると、計画的だったのではないかと感じてしまいますが、豊田さんはどう思われますか?
 (元厚労省官僚・元衆議院議員 豊田真由子さん)
 「鑑定留置に限らず、川崎先生もおっしゃいましたけど、精神科の診察・診断というのはものすごく難しくて、すごく本当に経験も豊富な素晴らしい精神科医の方がお2人いて同じ人物を精神科として診察しても、結果が真逆になることだってあるわけですよ。ですし、やっぱりそれだけの時間と信頼関係を作っての上でのいろんな検査もした上で、本人の小さい頃からのいろんな生育歴ですとか考えていることとか、場合によってその周囲の方の話とかも聞いた上で、総合的に『こうかな』という判断をするということなので、そんなに白黒簡単に付くわけではないし、世の中で必ずこれが1つ正解だというものが出るわけでもないという難しさがすごくあるので、やっぱり予断を持ってこうじゃないかああじゃないかということはなかなか難しいんだと思うんですよ。ただ、ご遺族のお気持ちとか考えたら、どんな事件でもそうですけど、刑法39条の心神喪失だから罪には問えないというふうになってしまうことで、持って行き場がなくなるというその切なさ自体は社会にはあるとは思うんですね。ただ、この法律にのっとってきちんとどうかっていうことをやるということですし、今回裁判員裁判ということになると、一般の方が判断するにあたって、責任能力の有無を専門家の方がどう判断したのかということは1つ大事な指標ではあるので、慎重に行われると思います」

 ―――どんな精神科のお医者さんが選ばれるのか、川崎さん教えていただけますか?
 (川崎拓也弁護士)
 「捜査段階のこういう鑑定留置、検察官が請求する場合は検察庁の方で鑑定嘱託という形で選んだ方ということになります。もちろんドクターですので客観的にやられるんだとは思いますが、やはり弁護側からすると、若干どういう人選になっているのかというのを注目するということも十分ありえます」

 ―――鑑定留置を行う検察の狙いというところが1つポイントだと思います。川崎さんの指摘として、計画的だが妄想に支配された状態で犯行を行っていることもあり、責任能力に疑問を抱く人も少なくないと。計画的だからといって、責任能力があるとは限らないわけですか?
 「まず前提として、今出てる事実関係というのは捜査機関から出ている情報ですので、どこまでが真実かということはあるにしても、仮にこれが事実だとしてもですね、計画性があるからイコールすぐに責任能力があるということにはならない。例えば、ある一定の妄想に支配されて犯行に至るというときには、妄想から犯行まではそれなりに合理的だけれども、スタートの妄想が病気の影響を受けているとかそういうこともあり得ますので、計画的イコール責任能力があるというふうには言えないんだろうなというふうに思います」

 ―――検察側が鑑定を依頼するということは、刑事責任能力があるということを証明させるために鑑定を行わせるというのが検察の筋道ですか?
 「基本的にはそういう発想はあると思います。我々よく“片道切符”なんて言いますが、ひとたび起訴すると戻れませんので、起訴する前には全ての争点についてそれなりの立証材料を持っておく必要がある。本件に関してどこまでの見立てを持っているかということは別ですけども、検察官としても立証するために、きちんとこの段階で鑑定をしておく、そして鑑定書という証拠を手に入れておく、これは1つの捜査手法としてよくある形なのかなと思います」