日本銀行のマイナス金利解除がカウントダウンに入りました。もっともマイナス金利を脱することが目的ではなく、いわゆる「正常化」のプロセスの1つに過ぎません。その後の課題にどう向き合うかがより重要です。

日銀の高田委員が「満を持して」?の発言
日銀の高田創審議委員は2月29日、大津市での滋賀県金融経済懇談会で講演し、2%の物価安定目標について、「実現が見通せる状況になってきた」と明言しました。
その上で「極めて強い金融緩和からのギアシフト、マイナス金利解除などの出口への対応も含め検討が必要だ」との認識を示しました。政策委員会のメンバーがここまで踏み込んだのは初めてです。
高田氏は日本興業銀行出身。みずほ証券やみずほ総研で長らくエコノミストとして活動していたので、メディアで歯切れの良いコメントを見た記憶のある方も多いでしょう。金融機関出身ですから、金融正常化に前向きなことに違和感はありませんが、実は、2022年7月に日銀の審議委員に就任して以来、世間の期待に反して、慎重な発言に終始していました。
というのも、高田氏の前任者は、筋金入りのリフレ派として知られる片岡剛士氏だったからです。この審議委員の交代をめぐっては、当時、安倍元総理が片岡氏と同じくリフレ派から出すべく岸田総理に釘を刺していたにもかかわらず、岸田総理がそれを無視する形で、リフレ派ではない高田氏の起用を決めたため、これに安倍元総理が激怒したとされています。
そうした経緯ゆえに、自分の発言がとりわけリフレ派と言われる人々に無用な波風を立てないよう、高田氏はこれまで細心の注意を払ってきたのではないかと、私は見ています。その高田氏が、いわば満を持して、ここまで踏み込んだ発言を行ったのは、9人のメンバーがいる政策委員会の中で一定のコンセンサスができつつあることの表れでしょう。
植田総裁も「インフレの状態」と発言
高田発言の後、G20会議が開かれていたブラジルのサンパウロで記者会見した日銀の植田総裁は、「私の考えでは、(物価目標が見通せる状況には)まだ至っていない」と控えめに応じた上で、「好循環が回り出しているか、確認していく作業を続ける」と述べました。
もっとも、植田総裁は、2月22日の国会答弁ですでに、日本経済は「インフレの状態にある」と、これまでの「デフレではない状態」という認識から大きく踏み込んでいます。
また、賃金と物価の好循環についても「強まっていく」と、表現をさらに強めており、3月か4月の決定会合で、マイナス金利解除を決める可能性は一段と高まったと言えるでしょう。