東京都町田市の木曽東にある地域食堂「みなさんの居場所『ぼくはぼく』」は2023年10月、装いを新たに開店しました。2021年から町田市鶴川に店を構えていましたが、週に3回・夕方のみの営業だったため移転。今は週5日(火曜・日曜定休)、午前10時から午後8時まで営業しています。
ハンデがある人もない人も、誰でも来られるお店
食堂は、もともと介護の仕事をしていた松並朱さんが中心となって営業し、松並さんの三男でダウン症の伸尚さんが店長を務めています。この食堂を開いたきっかけについて、松並朱さんは以下のように話します。

「みなさんの居場所『ぼくはぼく』」松並朱さん
「色々な方が来てくださるお店で、生きづらさを抱えていたり、ハンディある方ない方、とにかくいろんな方に来ていただきたいと思って開店しました。息子がダウン症候群で、その経過も思いながら、やっぱり別々の道を歩むことが日本の中では多く、触れることもなかったり、喋ったこともないという方も多いので、そういう状況も変えたい。良さも悪さも含め、皆さんにわかってもらいたいなと思ったのがまず第1のきっかけでした。LGBT当事者、ハンディがある方、ケアラーズさんと一般的に言われている介護や医療に関わっている方たちもいっぱい来てくださってます」
お店に来た人からは好意的な意見が寄せられていて、「このような所を待っていた」「自分のままでいられる」という声があるそうです。
お店の名前は、伸尚さんのある一言がきっかけ
そして、ユニークな店名の『ぼくはぼく』ですが、その由来は伸尚さんの言葉がきっかけでした。伸尚さんの店長としての働きぶりと併せて朱さんは以下のように話します。
松並朱さん
「私と息子が高校に行く通学練習をしてた時に『ノブくんは将来何になりたいの?』と聞いたところ、本人はすごくキョトンとして『ぼくはぼく』だよって、何言ってるのっていう顔をされて言われて、すごくそれが心に響いた。そのころ、私も仕事で忙しくて少し疲れていたのもあり、果たして『自分は自分』って胸張って生きてるかなと思い、店名はこれにしようとなりました。伸尚には主に空気作り、雰囲気作りをしてもらってます。私たちの会話を聞きながらそれに沿った資料、本、情報を持ってきてくれたり、話に加わったりしてます」

取材はランチタイムに行い、伸尚さんはお客さんが来るとカバンなどを入れるカゴをサッと用意するなど、細かなところまで目が届く接客を行っていました。また、お品書きを書くことも伸尚さんの担当です。『ぼくはぼく』では日替わりでランチプレートを提供していて、お店に理解を示している地域の人から野菜などをいただくこともあるそうです。取材当日はナポリタンやインゲンのフライなどが入ったプレートで、多くのお客さんが美味しそうに食べていました。
『ぼくはぼく』に訪れたお客さんはお店についてどう感じているのか。近所のデイサービスに通う認知症の男性とその介助者、高校1年生の女子生徒です。
近所のデイサービスに通う男性
「落ち着くというか、良いお店だよ」
男性の介助者
「和気あいあい。家庭的なのでゆっくりくつろいでいらっしゃいます」
高校1年生の女子生徒
「今日はバレンタインのチョコを作りに。キッチンが借りられると聞いて来店しました。結構イベントも開かれていて、例えばハロウィーンだったりとか、子ども食堂とか、そういう時によく手伝いに来てますね」
『ぼくはぼく』では、料理を作るためのキッチンと、誰でも自由に使えるキッチンの合わせて2つが設置されています。また、お店ではイベントも行われていて、子ども食堂のほか、LGBT当事者の講演会や子どもの人権を学ぶワークショップ、認知症をテーマにした映画の試写会も開かれています。松並さんは「とにかく皆さんが"やりたい"と思うことを企画したい」と話していました。
全国に広がって欲しい『ぼくはぼく』でいられる場所
誰でも来られて自由に過ごせる『ぼくはぼく』。伸尚さんと朱さんに今後の目標を伺いました。
「みなさんの居場所『ぼくはぼく』」松並伸尚店長
「色んな方とのんきに、好きな会話をしながら、ふらっと訪れてビジネスも通常会話にできる。そういう場所として頑張りたい」
松並朱さん
「『ぼくはぼく』10号店とかにしていくのも、とても理想ではあります。ただ、ここに来られない人も多くいるのもわかっているので、全国にこうした場所が増えることを願っています。そして、病院に行くとか、家で悲しい思いをしている人が『あそこに行こう』って思える場が、すぐ歩いていける場に出来ることを願っています」
お店で働く人はもちろん、常連客も気さくな人が多い「みなさんの居場所『ぼくはぼく』」。誰でも受け入れられて、安心して過ごせる雰囲気が作られていました。松並さんが話すように、こうした場所が国内の各地で広まることを願います。
(TBSラジオ「人権TODAY」担当・宮内悠也)