米国と日本が数十年ぶりに協調して実施した円買い介入について、トランプ米大統領は「友好の証し」だと述べた。ベッセント米財務長官も「トランプ政権は米国の信頼できる同盟国・パートナーのために成果を出している」との認識を示した。

もっとも、大半の市場関係者は、事態はそれほど単純ではないとみている。

ワシントンの国際金融協会(IIF)のシニアエコノミスト、ジョナサン・フォーチュン氏は「トランプ氏がどのような人物かは分かっている。うまい話はない」と指摘した。

フォーチュン氏らアナリストは、対ドルで約40年ぶりの円安水準から円相場を押し戻すために米国が支援に乗り出した背景には、米国のさまざまな利害が関わっていると指摘する。昨年のアルゼンチン支援と同様、その一つは、トランプ氏が保守系の指導者である高市早苗首相を後押しすることにある可能性が高いという。高市首相の支持率はこのところ低下している。

米政権は、日本が5500億ドル(約88兆円)の対米投資を着実に実行することを望んでおり、通商交渉ではさらなる譲歩を求める可能性もある。日本政府は安全保障関連の主要3文書を改定する予定だ。トランプ氏は防衛費の増額を求める可能性があり、これまでも同様の要求を行ってきた。

トランプ大統領(左)と高市早苗首相(2025年)

米国が7月31日に日本と協調介入に踏み切った最大の理由は、ベッセント氏が日本市場の影響が31兆ドル(約4900兆円)規模の米国債市場に波及することへの懸念を一貫して示してきた点にある。同氏は、米10年国債利回りを最も重視する指標と位置づけており、同日、就任以来の最高水準に達していた。

ベッセント氏は8月2日のX(旧ツイッター)への投稿で、日本がドル売り・円買いを行う際に米国債を売却せずに済む制度に言及し、今回の介入と米国債市場とのつながりを強調した。日本は米国債の最大の海外保有国であり、この点は重要だ。同氏は今年1月にも、日本国債の下落が米国債市場へ波及する事態を抑えるよう、片山さつき財務相に強く働きかけていた。

【動画】日米両国による協調介入を解説

ワシントンのアトランティック・カウンシルのチャールズ・リッチフィールド氏は、「米国債利回りの急騰を防ぐことは、地政学的な駆け引きよりも優先順位が高い」と述べた。

ホワイトハウスはコメントの要請に対し、2日のトランプ大統領の発言を参照するよう回答した。米財務省にコメントを求めたが、返答はなかった。4日の円相場は協調介入前の水準を大きく上回る円高で推移している。

エコノミストらは、ベッセント氏が今後、日本銀行による追加利上げを求める公算が大きいとみている。利上げは円相場を下支えするとともに、日本国債市場の混乱が他市場で波及するのを抑える効果が期待される。

みずほ証券の松尾勇佑シニアマーケットエコノミストは、米当局者の狙いは日本の利回り上昇が米国へ波及するのを避けたいということだとした上で、「為替介入と日銀の利上げ強制はセット」だと述べた。

ベッセント氏は昨年から日銀への言及を強めている。インフレ対応で日銀は後手に回っているとの認識を示すとともに、政府に対し、日銀がインフレ抑制に取り組むための裁量の余地を与えるよう求めてきた。7月31日のXへの投稿では、日本との「緊密な連携」に言及し、8月に植田和男日銀総裁と会談することを楽しみにしているとした。

米財務省が先月公表した外国為替報告書では、金融政策の正常化がインフレ期待の安定につながるとともに、過度な為替変動の抑制にも寄与するとの見方が示された。

ただ、高市首相はこれまで金融緩和を支持する立場を取ってきた。これは、故安倍晋三元首相との関係が残した政治的な遺産がある。安倍氏は2006-07年の日銀による利上げを支持したことを後に悔やみ、前例のない金融緩和を推し進めた。

IIFのフォーチュン氏は、「当時の出来事は今も強く記憶に残っている」とした上で、「実際には、円相場をより安定させるには金利を引き上げていくことこそが必要だ」と述べた。

日本銀行本店

エコノミストの間では、先週の協調介入前から、日銀が年内に利上げに踏み切るとの見方が広がっていた。3日の翌日物金利スワップ市場では、9月会合での利上げ確率が約50%、10月会合は約90%と織り込まれていた。

SBI FXトレードの齋藤裕司エグゼクティブ・アドバイザーは、日米双方に為替市場への圧力を抑え込む共通の利害があると指摘する。日銀の次回利上げまで時間を稼ぎ、債券市場の混乱が一段と深刻化するのを防ぐ狙いがあるという。

ここ数週間で日本国債の利回りが数十年ぶりの高水準まで急上昇する中、その抑制策として資産運用のあり方を見直す案もある。片山財務相は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に国内投資を増やすよう促すとともに、日本国債を非課税の少額投資非課税制度(NISA)の対象として保有できるようにする案も示している。

みずほ証券の松尾氏は、米国側は金利を大幅に上昇させるような財政・経済政策は取らないよう求めている。そういった意味で、こうした提案は「有効という可能性もある」と述べた。

対米投資

日本政府が予定する安保関連の文書改定によって、国内総生産(GDP)比約2%という現在の目標を上回る防衛支出を米国が求める可能性がある。米国はこれまで、北大西洋条約機構(NATO)やその他の同盟国に対し、防衛費をGDP比約3.5%まで引き上げるよう繰り返し要求してきたが、日本に対して同様の要求はしていない。日本政府関係者が明らかにした。

一方、日本が昨年9月に日米関税交渉で合意した対米投資計画では、個別案件の契約締結が遅れている。その一例が、ソフトバンクグループが主導する米オハイオ州での330億ドル(約5兆円)規模のガス火力発電所計画だ。

前例のない今回の協調介入は、こうした投資公約の履行を加速させる上で、米国にさらなる交渉力を与えるとともに、日本が約束を実行しやすくする効果もある。

アトランティック・カウンシルのリッチフィールド氏は、「日本に米国への投資を続けてもらいたいのであれば、そのための余力が必要だ。円安が行き過ぎれば、それは難しくなる」と述べた。

原題:Bessent’s Yen Rescue to Boost US Pressure on Japan Trade, Rates(抜粋)

--取材協力:Alastair Gale.

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