世界中の映画ファンが7月中旬から映画館に足を運び始めた。クリストファー・ノーラン監督がホメロスのギリシャ叙事詩を映画化した「オデュッセイア」を鑑賞するためだ。

観客の半数以上は、何らかの高品質スクリーン形式でこの作品を見ている。高コントラストのレーザープロジェクターを備えた劇場に加え、ノーラン監督が最も好むのは、自ら撮影に使用した70ミリフィルムを投影する方式だ。この形式はIMAXの巨大スクリーン向けに驚異的な精細さを実現する。

映画会社や映画館は近年、高品質上映方式の宣伝を積極的に進めている。高さ約52フィート(約15.8メートル)と標準的なスクリーンの約2倍に達する大型スクリーンなど、自宅では再現できない鑑賞体験を提供できるためだ。

映画館はこうした上映方式でチケット価格を引き上げることもでき、ニューヨークやロサンゼルスでは1枚33ドル(約5400円)に達する場合もある。この増収は、興行収入を分け合う映画館運営会社と映画会社の双方に恩恵をもたらしている。

IMAXのリッチ・ゲルフォンドCEOが語る

IMAXとは

カナダのトロント郊外ミシサガに本社を置くIMAXは、ニューヨークとロサンゼルスのオフィスから事業を統括している。同社の中核は技術ライセンス事業であり、大型スクリーン向けソフトウエア、知的財産、劇場設計、専用機材を世界で1900近い施設に提供している。

IMAX作品の撮影に必要な中核技術は、高解像度で撮影できる専用カメラだ。1コマ当たりのフィルムサイズが大きいため、通常の撮影方式よりも高い解像度、色の階調、鮮明さを実現する。

一方、カメラは騒音や振動が大きく、それに耐える特殊なクレーンなどが必要となる。高精細な映像を実現するため、より強力な照明も求められる。

ノーラン監督と長年の撮影監督ホイテ・ヴァンホイテマ氏はIMAXと共同で新型カメラを開発した。このカメラは、昨年死去したカナダの映画プロデューサー、デービッド・キーリー氏にちなんで命名された。同氏は大型スクリーン上映の普及に力を注いだ。

IMAXスクリーンの特徴

IMAXの大型スクリーンは観客の周辺視野の端まで映像が広がるよう設計されており、リアリティーの高い没入感を生み出す。IMAXカメラで撮影された高解像度映像は、特に大型スクリーンへ投影した際にその違いが際立つ。

IMAXの収益源

IMAXは映画会社からグローバル興収の一定割合を受け取る。これは作品をIMAX仕様にリマスターし、IMAXスクリーンを備えた映画館へ配給する対価だ。また、映画館向けIMAXシステムの販売や保守サービスでも収益を得ている。2025年の調整後EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は1億8500万ドル、売上高は過去最高の4億1000万ドルだった。

AMCバーバンクで開催されたワーナー・ブラザース作品「デューン 砂の惑星PART3」のグローバルIMAXファンイベント(7月8日)

IMAX公開に必要な条件

映画制作でIMAXカメラを使用すると、IMAXスクリーンで上映される一定期間の公開枠が保証される。それ以外の作品については、映画会社がIMAX上映スケジュールを巡って競い合い、上映枠を確保するため公開日を変更することも少なくない。

IMAXのリッチ・ゲルフォンド最高経営責任者(CEO)はブルームバーグテレビジョンとの20日のインタビューで、今年公開予定の映画12作品がIMAXカメラで撮影されたと明らかにした。

IMAX作品はどこで見られるのか

IMAXは世界で1798の商業施設を展開している。博物館や科学館などの施設を含めると、前四半期末時点で91カ国・地域に1865システムを設置していた。

これは世界全体の映画スクリーン数と比べればごく一部に過ぎない。このためIMAX上映のチケットは争奪戦となることが多く、米国では、オデュッセイアをIMAXで鑑賞するため州外まで足を運ぶファンもいる。

なぜIMAXの重要性が高まっているのか

映画館業界は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による混乱からの回復が遅れている。さらに、動画配信サービスとの競争も激しさを増している。映画館へ通っていた人の一部は公開初週に劇場へ行かず、自宅向けの配信を待つようになっている。

そうした中、IMAXは大作映画を売り込む上で極めて効果的なブランドで、IMAXという名称自体が、自宅では再現できない映画体験を連想させる。また、高価格のチケットは作品の興収を押し上げる効果もある。

IMAX作品の歴史

IMAXは1960年代後半、カナダの映画制作者とエンジニアのチームによって設立された。

IMAX形式だけで撮影された最初の作品は、1971年の「North of Superior」で、オンタリオ州北部を描いた18分の短編映画(1970年の大阪万国博覧会で公開された「虎の仔(とらのこ)」は、IMAX方式を使い一般公開された最初の作品)。North of Superiorでは空撮映像が多用され、その後長年にわたりIMAX作品の特徴となった。

IMAXのナターシャ・フェルナンデス最高財務責任者(CFO)が語る

ゲルフォンドCEOは自然ドキュメンタリー中心だったIMAXをハリウッド市場へ拡大した。ノーラン監督のような著名な映画監督による同社技術の活用を支援し、「罪人たち」や2021年公開の「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」など、多くの作品が全編または一部をIMAXで撮影している。

なぜ全ての大作映画がIMAXで公開されないのか

IMAX作品の制作に必要な機材は、通常の映画より制作費が高くなる。また、公開日を変更したくない映画会社や映画制作者も多く、その時期にIMAX上映の利用枠を確保できないケースもある。

例えば、IMAXは契約に基づき12月18日から「デューン 砂の惑星PART3」を上映する。そのため、同日公開予定の「アベンジャーズ/ドゥームズデイ」はIMAX劇場で上映できない。ウォルト・ディズニー傘下マーベル・スタジオのアベンジャーズ次回作は、IMAXと競合する新たな規格「Infinity Vision」で公開予定だ。

ディズニーがこの規格向けに認定する劇場は、幅50フィート以上のスクリーンとレーザー映写機、ドルビー・ラボラトリーズの7.1チャンネルサラウンド音響システムを備えている必要がある。

原題:Why Christopher Nolan Wants You to See ‘The Odyssey’ on Imax(抜粋)

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