(ブルームバーグ):23日の米金融市場では、中東情勢の悪化懸念に伴う原油価格の一段高を背景に、米金利が上昇し、ドル買い・円売りの勢いが強まった。円相場は一時、1ドル=163円99銭まで下落した。米株も下落。ウォール街では、巨額のAI投資の採算性を巡る懸念も再び強まっている。
北海ブレント原油先物は、約2カ月ぶりに1バレル=100ドルを上回った。イエメンの親イラン武装組織フーシ派による紅海での船舶攻撃に対する懸念が強い。トランプ米大統領はこの日、フーシ派による攻撃が今後も行われれば、イランに責任を負わせると表明した。終息の兆しが見えない戦争で、米国の関与がさらに拡大する可能性がある。
外国為替市場では、中東情勢の緊迫化を受けた有事のドル買いが続いており、円は対ドルで約40年ぶり安値圏で推移している。
円の総合的な強さを示す指標も警戒信号を発している。日本銀行が公表する名目実効為替レート(NEER)は、今年に入って過去最低を相次いで更新。ユーロや英ポンド、アジアの主要通貨に対しても円安が進んでおり、円の弱さが幅広い通貨に及んでいることを示している。
ニューバーガーのシニアポートフォリオマネジャー、ウーゴ・ランチオーニ氏は「円はドルだけでなく、幅広い通貨バスケットに対してみても実質的な価値の下落が続いており、日本の当局にとって懸念材料となり得る」と指摘。そのうえで「今後、十分な効果を上げるには、より踏み込んだ為替介入に加え、他の政策を組み合わせる必要があるかもしれない」と述べた。
CIBCのストラテジスト、マクシミリアン・リン氏は、1ドル=165円に到達すれば日本の当局が介入に踏み切る可能性があると指摘。ただ、原油高を踏まえると、当面は165-168円の水準で推移することも当局は受け入れざるを得ないだろうと、同氏はみている。
7-9月のドル・円相場見通しについては、1ドル=166円に修正すると述べた。従来は162円だった。
国債
米国債相場は下落(利回りは上昇)。原油高に伴うインフレ圧力の増大で、米連邦準備制度理事会(FRB)が早ければ来週にも利上げに踏み切るとの見方が強まっている。
FRBの政策見通しに特に敏感な2年債利回りは、一時7ベーシスポイント(bp)上昇の4.37%と、2025年初頭以来の高水準を付けた。
2月下旬に始まった米国債相場の下落は今月に入り勢いを増し、利回りは大きく上昇した。市場では9月に0.25ポイントの利上げが実施されるとの見方が織り込まれ、スワップ市場では10月の利上げも完全に織り込まれている。年末までには計0.45ポイントの金融引き締めが想定されている。
資産運用会社ブラックロックは米国債について、利回りが引き続き高水準にあることから、投資家にとって損失に対する緩衝材となっているとの見方を示した。
株式
S&P500種株価指数は1.2%安。大手ハイテク企業7社で構成するマグニフィセント・セブン指数は、2025年4月の関税ショック以来の大幅安となった。前日引け後に発表されたアルファベットとテスラの決算を受け、株式相場を押し上げてきたAIブームが持続するのか懐疑的な見方が広がっている。
アルファベットは6.9%、テスラは15%安でそれぞれ取引を終えた。
市場では、AIへの巨額投資が新たな成長につながることを示す具体的な成果を求める声が強まっている。アルファベット、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コムの4社は4月、AI分野への投資として今年最大7250億ドルを支出する見通しを示していた。
ミラー・タバクのマット・メイリー氏は「決算シーズンはまだ始まったばかりで、来週にはハイパースケーラー各社の発表も控えている」と指摘。「そのため、半導体株と同じような決算後の株価下落が起きていると結論付けることはできない。ただ、今回の値動きは『事実で売る』への懸念を一段と強めるものだ」と述べた。
またメイリー氏は、地政学リスクが一段と深刻化しており、リスク資産に逆風になっているとみている。株式市場はここ数カ月、金利上昇をうまくやり過ごしてきた。しかし、利回りが今年の最高水準を更新したことで、近いうちに相場の重しとなる可能性がある」と語った。
米国とイランの戦闘は沈静化の兆しが見えない。双方とも譲歩する姿勢を示しておらず、交渉再開にも前向きな姿勢を見せていない。
ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートのサミール・サマナ氏は「中東情勢の緊迫化で原油価格が上昇し、インフレ再加速への警戒感が強まっている。利下げ観測は後退しており、FRBが利上げに踏み切る可能性もある」と指摘。「原油価格はいずれ落ち着くとみているが、その前に事態がさらに悪化する可能性は十分ある」と語った。
原油
原油は5日続伸。ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物9月限は、前日比5.36ドル(6.2%)高の92.19ドルで終了。北海ブレント先物9月限は6.62ドル(7%)高の100.69ドルで引けた。北海ブレント原油は一時8%余り急伸し、102ドルちょうどを付ける場面もあった。
フーシ派による攻撃で、米・イラン戦争は新たな戦線が開かれた格好となった。米国とイランの戦闘激化を受け、エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡では既に船舶の通航に支障が生じていた。同海峡の航行がほぼ停止状態となる中、紅海ルートは代替の輸出ルートとして重要性を増していた。
CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「焦点はサウジアラビアの対応に移っている」と指摘した。その上で、「原油輸送ルートをスエズ運河経由に振り替えることは可能だが、小型船を使わざるを得ず、航海日数も長くなるため、効率的な解決策ではない」と述べた。
ニュースサイトのアクシオスは、トランプ米大統領が「大規模な攻撃を、過去になかった規模の攻撃を」検討しており、「近く決断を下す」と述べたと伝えた。トランプ氏はこれに先立ち、ソーシャルメディアに「米国はイランに責任を負わせる。フーシ派はイランの代理勢力であり、イランに対して、そしてもちろんフーシ派に対しても、懲罰として大規模な軍事的攻撃を加える」と投稿した。
現物原油価格も、原油先物価格の上昇に歩調を合わせて上昇した。世界で最も重要な現物指標とされるデーテッドブレントは、5月下旬以来初めて1バレル=105ドルを上回った。
世界的に原油在庫が減少するなかで、カザフスタン産原油の大半を輸出するロシア黒海沿岸のターミナルへの相次ぐ攻撃も懸念材料となっている。ブレント先物は月初から35%超上昇している。複数の地域で地政学的緊張が高まっていることが背景にある。
金
金相場は反落した。中東で紛争が激化し、エネルギー価格の上昇が続く中、インフレ抑制に向けて米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策を引き締めるとの見方が強まった。
金スポットは一時2.2%下落し、1オンス=4040ドル台での取引が続いた。前日まで2日連続で押し目買いを背景に上昇していたが、その上げ幅を縮小した。
米国の新規失業保険申請件数は先週、1969年以来の低水準に減少した。労働市場の底堅さが示され、FRBが高金利政策をより長く維持するとの見方が強まっている。金利の高止まりは、利息を生まない金にとって逆風となる。
INGグループの商品ストラテジスト、エワ・マンティー氏は「最近の金相場反発は主に押し目買いによるものだったが、中東情勢を背景とした原油価格の上昇が先行きを複雑にしている」と指摘した。その上で「エネルギー価格の上昇によるインフレ圧力を踏まえれば、中央銀行は利下げに一段と慎重になる可能性があり、利益確定売りを促している」と述べた。
金スポットはニューヨーク時間午後2時22分現在、前日比89.03ドル(2.2%)安の1オンス=4041.22ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は101.70ドル(2.5%)安の4050.20ドルで引けた。
欧州
欧州債市場ではドイツ10年債利回りが2011年以来の水準に上昇した。欧州中央銀行(ECB)は政策金利を据え置いたものの、原油価格の急騰を受けて追加利上げ観測が強まったことが背景にある。
ドイツ10年債利回りは4ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し、3.21%。ECBは主要政策金利を2.25%に据え置いたが、市場では年内に2回の0.25ポイント利上げがほぼ織り込まれている。
中東で戦闘が拡大する兆しを受け、世界的に国債利回りは上昇している。世界最大のエネルギー輸出地域である中東で生産や供給が混乱すれば、価格上昇に拍車がかかる恐れがある。
欧州は石油・天然ガスを輸入に依存している。ラガルドECB総裁は、二次的なインフレ波及効果の兆候は見られないと述べた一方で、9月の利上げの可能性を排除しなかった。総裁の記者会見中には、北海ブレント原油価格が1バレル=100ドルを上回った。
JPモルガンのグローバル投資ストラテジスト、マディソン・ファラー氏は、「今回のECBの据え置きは、ブレーキペダルをいつでも踏める状態で待機していると解釈するのが適切だろう」と指摘。「選択肢を維持しつつ様子を見ていることと、漫然として何もしないこととは全く異なる」と述べた。
イタリア債とフランス債はドイツ債よりも下げが大きかった。イタリア債とドイツ債のスプレッドは、終値ベースで5月初め以来の大きさに拡大。フランス債とドイツ債のスプレッドも2週間ぶりの大きさとなった。
欧州株は下落。企業決算に反応してテクノロジーや生活必需品関連が売られたほか、米国とイランの緊張が激化し原油価格が上昇したことも地合いを圧迫した。
ストックス欧州600指数は1.2%安。スイス食品大手ネスレが8%安と大きく売られ、業種別では食品・飲料が最も大きく下落した。ネスレは北米の販売数量が予想に届かず、フィリップ・ナブラティル最高経営責任者(CEO)の下での業績改善を期待していた株主を失望させた。
7月23日の欧州マーケット概観(表はロンドン午後6時現在)
原題:Stocks Hit by AI and War Jitters as Oil Tops $100: Markets Wrap
Yen’s Slump Extends Beyond Dollar and Stokes Inflation Fears
Oil Takes Out $100 to Hit Two-Month High as Iran War Expands
Gold Falls as Middle East Conflict Reverses Dip-Buying Momentum
Bund Yields Hit 15-Year High as $100 Oil Fans Inflation Concerns
ECB, BOE Rate-Hike Bets Surge With Oil Prices: End-of-Day Curves
European Stocks Drop as Nestle, STMicro Sink; ECB Holds Rates
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