(ブルームバーグ):ヘッジファンドのレバレッジ(借り入れ)が急増している。借り入れた資金はAIブームと国債の両方に投じられ、一つの資産クラスの混乱が他の資産クラスに波及するリスクが高まっている。英国債も投資対象だが、イングランド銀行(英中央銀行)は、ヘッジファンド向け融資をさらに増やす方向で規制を緩和する方針だ。一体どういうことだろうか。
規制緩和は常識に反するように思われ、英中銀内部でも活発な議論を呼んだ。それでもヘッジファンドに起因する嵐から英国債市場を守る別の取り組みが確実に実行されれば、全体としては理にかなう。
英国債利回りは、英経済全体の借り入れコストの基準だ。しかし、国際的役割が大きくないポンド建ての比較的小さい市場ということもあり、気まぐれな投資家が動かすホットマネー(投機的な短期資金)の影響を受けやすい。イングランド銀は適切な防御策で備える必要がある。
ヘッジファンドが借り入れる資金の多くは結局、銀行システムが供給する。英中銀のベイリー総裁は、半期ごとの「金融安定報告」と規則改正案を先に示した際、金融レバレッジで増幅されるリスクに対し、銀行の自己資本規制と市場規制のどちらで対処すべきか問題提起した。議論は完全に決着していないが、中銀は後者に傾きつつあるようだ。妥当な理由がそこには存在する。
いわゆるレバレッジ比率は、銀行サイドの重要な規制だ。自己資本と比較し、銀行のエクスポージャー総額をどこまで膨らませることができるか単純に測る指標であり、リスクウエート調整を行う自己資本比率を補完する一種の安全装置と位置付けられる。
レバレッジ比率は、優良な住宅ローンだけでなく、国債を担保とするヘッジファンドの借り入れといった低リスクの貸し付けを抑制する点が重要だ。英国の銀行に対し、同比率を若干緩和する案を英中銀は今月提示した。他の諸国と整合性を保つことや技術的理由が背景にある。
一方、国債を担保とする全ての借り入れをセントラル・クリアリングハウス(中央清算機関)経由で行うよう義務付けるか、英国債を担保に資金を貸し付けるレポ取引に最低限の「ヘアカット(担保価額の割引)」を導入することで、債券市場自体をより安全にするという別の選択肢も検討する。
ヘアカットが導入されれば、例えばヘッジファンドは100ポンド(約2万1900円)相当の債券を担保に98ポンドの借り入れしかできなくなり、英国債を担保とする借入額が制限される。英国債市場の耐性改善を目的とする別のプロジェクトで、クリアリング(清算・決済)とヘアカットについて英中銀は意見を求めている。
これらの措置が全て実行されれば、中銀は市場で制御可能な対応を行い、安全かつ妥当な住宅ローンの提供を含む他の銀行業務に悪影響を及ぼさない理にかなったものとなるだろう。
大手ヘッジファンドは国際プレーヤーであり、英国の銀行規制でリスクに対処しようとしても、成果は得られないとまず認識すべきだ。他の国・地域で、ゴールドマン・サックス・グループやモルガン・スタンレーからシタデルやミレニアムへの貸付額に影響を及ぼすことを英中銀は期待できない。
さまざまな投資戦略で資金を運用する巨大なマルチストラテジーファンド運営会社が、英国債市場で重要な役割を果たしており、同市場での借入額は2024年以降急増し、年初に約1000億ドル(約16兆2400億円)のピークに達した。イングランド銀によれば、ごく少数の会社が借入額の90%を占める。
少数のファンドの急な動きが、ボラティリティーや市場金利に大きな影響を与える恐れがある。同じ顔触れの会社がしばしばレバレッジを活用し、多くの同一銘柄に競い合って投資する現状も規制・監督当局は問題視する。ベイリー総裁は、ヘッジファンドの投資銀行からの借入額が過去1年で40%急増し、過去最高を更新したと指摘した。調査結果を見る限り、多くのヘッジファンドが同じ複数の半導体企業や、AIブームに乗る他の企業に投資する状況がうかがえる。
記録的なレバレッジが後押しするポジションの集中は、相場が調整に入れば、非常に不安定になる可能性が高い。ヘッジファンドや貸し手の投資銀行が損失を被れば、ファンドは他の市場でレバレッジの解消、すなわち借り入れ返済や資産処分を余儀なくされるだろう。英国債も恐らく売却対象となり、経済に多大な悪影響が生じると予想される。
銀行と市場の安定性リスクを監視する英中銀の金融行政委員会(FPC)の一部委員が、レバレッジ比率緩和の決定に不安を感じた理由は、そこにある。会議の議事録によると、ヘッジファンド向け貸し付けの望ましくない増加を招き、英国債に影響しかねないと懸念が示された。ヘッジファンドがもたらすリスクの軽減を図るため、大手ファンドを対象に別の方策が必要かもしれないと考える委員もいた。
けれどもFPCはレバレッジ比率の緩和を支持した。金融機関の住宅ローン提供を抑制しないという意味以外にも正当な理由が存在する。ささいなパニックや本格的な危機が発生した際、大手銀行が国債取引の急増に対応できる余地をバランスシートに残すためだ。米連邦準備制度理事会(FRB)も同じ理由でレバレッジ比率を緩和した。
20年の新型コロナ禍、そして22年にトラス保守党政権が財源の裏付けのない大型減税案を発表し、財政不安と市場危機を招いた際、マーケットメーカー(値付け業者)としての銀行のディーラー機能が低下し、国債売りが激しさを増した。
米国と英国では、レバレッジ比率の緩和により、いかなる状況でも銀行がマーケットメーカーとして、国債売買を仲介する役割を果たせると期待される。それでも特に英国では、国債市場でのリスクテークを制限する案が必要だ。
英中銀の誰一人として、テック株の熱狂や米投資銀行が巨大ヘッジファンド顧客に資金を投じる意欲に影響を及ぼすことはできない。金融安定の監視者らは、秩序ある英国債取引を守るため、自分たちがコントロールできる領域に集中することが望ましい。
(ポール・デービス氏は、銀行と金融を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ウォールストリート・ジャーナルとフィナンシャル・タイムズで記者経験があります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Hedge Fund Gilt Risks Are Best Ruled by Markets: Paul J. Davies(抜粋)
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