(ブルームバーグ):今年、北京で開かれたイベントで、中国のAI業界を代表する複数の幹部は、最先端AIモデルの開発で中国はなお米国に大きく後れを取っていると警告した。ある幹部は「その差はむしろ広がっている可能性がある」との見方を示した。
米国の主要企業も、自社が中国勢を大きくリードしているとの認識を示していた。今週に入ってからも、匿名を条件に取材に応じたアンソロピックの幹部は、同社の対話型AI「Claude(クロード)」は中国の競合より約6-12カ月先行しているとの見方を示していた。
しかし、中国のAIスタートアップ、ムーンショット(月之暗面)が17日、そうした前提を覆した。同社は、より高性能なオープンウエートモデル「Kimi K3」を公開。総合性能では、アンソロピックの「Claude Fable(クロード フェイブル)5」とOpenAIの「GPT-5.6」を除く全ての競合モデルを上回ると主張した。ムーンショット、ひいては中国が、想定以上の速さで米国との差を縮めている可能性を示唆する内容となった。
カリフォルニア大学バークレー校のコンピューター科学教授で、データブリックスとAIモデル評価プラットフォーム「Arena(アリーナ)」の共同創業者でもあるアイオン・ストイカ氏は、「これまでは、オープンソースモデル、特に中国勢のモデルは最先端モデルより6-9カ月遅れていると言われていた。だが今では、その差は2~3カ月程度かもしれない」と述べた。
性能向上が予想を上回ったことは、AI業界の関係者や投資家に衝撃を与えた。昨年の「DeepSeek(ディープシーク)モーメント」を思わせるようなハイテク株安を招き、シリコンバレーによる巨額のAI投資が見合う成果を生むのかとの懸念や、米国の優位性への自信を揺るがしている。
クラウドコンテンツ管理サービスを手掛けるボックスの共同創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるアーロン・レヴィ氏は「これは多くの人にとって間違いなく驚きだ」と述べた上で、「シリコンバレーでは今、この話題でもちきりだ」と語った。
レヴィ氏はK3が示した性能について、「極めて大きなブレークスルーだ」と評価した。オープンモデルは一般に、クローズドモデルに比べて価格が安く、利用者によるカスタマイズもしやすい一方、性能では大きく見劣りしてきたためだ。
ムーンショットの躍進は、米当局による新たなAIモデルの規制にも影響を及ぼす可能性がある。OpenAIとアンソロピックは、ともにトランプ政権から事前審査を受けるよう求められ、最新モデルの公開を延期した。今後も公開の遅れが続けば、中国が差を縮める時間的余裕を与え、ホワイトハウスが掲げるAI分野での優位維持という目標を損なう恐れがある。
ムーンショットの新モデルは、AI導入コストの増大を意識し始めた顧客を相手にするOpenAIやアンソロピックなどに対し、価格面でも競争圧力となる可能性がある。一部の開発者は、コスト効率を高めるため、用途に応じて中国製を含むより低価格なモデルへ自動で切り替える「モデルルーティング」サービスを利用している。
匿名を条件に取材に応じた米AI企業の幹部は、米企業は今後も新たな技術革新によって製品の差別化を図り続けるとの見方を示した。一方で、競争激化により、価格だけでなくデータ連携や利用者体験も含め、より優れた価値を提供できることを示す必要に迫られると指摘した。
OpenAIとアンソロピックの広報担当者は、コメント要請に応じなかった。
ムーンショットはK3の発表に合わせたブログ投稿で、モデルの限界についても認めた。「K3は総合的には極めて競争力の高いモデルだが、利用者体験では依然として『Claude Fable 5』や『GPT-5.6 Sol』との間に明確な差がある」と説明した。
ディープシークの場合、米国勢を大幅に下回る開発コストで競争力のある無料モデルを開発したとの主張が大きな注目を集めた。一方、推計によると、ムーンショットのK3は前世代モデルより大幅に高額で、アンソロピックの中位モデルと同程度の価格設定となっている。ただ、米国のクラウド事業者を通じて提供された場合に価格が変わるのかや、タスク当たりの利用コストが高くなるのかは現時点では不明だ。
開発者のサイモン・ウィリソン氏はブログへの投稿で、「中国のAI開発企業がこれまで公開したモデルの中で最も高価だ」と指摘した。
ムーンショットは、プログラミングやその他の収益性の高いエージェント型AIの用途で優れた性能を発揮する高付加価値モデルとして、高めの価格設定でも受け入れられると判断しているようだ。ムーンショットによると、K3のパラメーター数は2兆8000億に達し、モデルの複雑さを示す指標となっている。
17日午後時点で、K3はAIモデルのウェブ開発能力を評価する「Arena」のランキングで首位に立っていた。ストイカ氏は、特にプログラミング分野での初期評価を見る限り、K3はアンソロピックの「Claude Fable」やOpenAIの最上位モデル「GPT-5.6 Sol」と「同じ土俵にある」と指摘した。
アンソロピックはこれまで、ムーンショットなど中国のAI開発企業が、競合製品の性能をより迅速かつ低コストで高めるため、自社AIモデルの出力結果を「不正に取得しようとしている」と非難してきた。ムーンショットは、こうした指摘に回答していない。
K3の登場以前から、米国のAI業界では中国勢の進展に注目が集まっていた。OpenAIのサム・アルトマンCEOは9日、CNBCとのインタビューで、「中国のオープンソースモデルは非常に優れたものになりつつある」と述べた。一方で、「それでもわれわれは世界最高のモデルを提供し続けると思うし、人々も世界最高のモデルを求めている」と語った。
英国のAI安全研究所は17日に公表した分析で、中国のオープンウエートモデルはサイバーセキュリティー分野において、米国との差を前年の6~10カ月から4~7カ月へ縮めたとの見方を示した。
「この差が今後どのように推移するかは不透明だ」とした上で、今後K3の評価も実施する方針を示した。
原題:Moonshot’s Kimi Upends Conventional Wisdom on US Lead Over China(抜粋)
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