(ブルームバーグ):米国とイスラエルがイランに対する戦争を始め、これを受けてイランがホルムズ海峡を封鎖するまで、世界で最も重要な原油・液化天然ガス(LNG)輸送ルートを航行する船舶は、海峡の通航に料金を支払う必要はなかった。
ホルムズ海峡の航行再開が進む今、海峡に面するイランとオマーンは、通航する船舶から恒久的に料金を徴収する制度の導入を示唆している。

戦前の現状には戻れないと欧州当局に伝えているオマーンは、世界の他の主要海上交通のチョークポイント(要衝)がどのように管理されているかを分析してきた。
ホルムズ海峡で通航料が導入される可能性を受け、世界のサプライチェーンが限られた戦略的水路にいかに依存しているかに改めて注目が集まっている。
水路管理の在り方そのものが変わるとの懸念も強まっている。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の地経学シニアアナリスト、アダム・ファーラー氏は、ホルムズ海峡の最終的な取り扱いは世界的な影響を及ぼす新たな前例となる可能性があると指摘している。

国際法では一般に、国際航行に利用される海峡では船舶に通過通航権が保障されており、沿岸国はその権利を行使するだけの船舶から料金を徴収することは認められていない。
ただし、「特定のサービスを船舶に提供」した場合の料金徴収は認められている。オマーンは国連海洋法条約(UNCLOS)の締約国だが、イランは加盟していない。
一方、スエズ運河やパナマ運河のような人工水路は異なる法的枠組みで運営されており、国家のインフラとして管理主体が通航料を徴収できる。

ホルムズ海峡
ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾、アラビア海を結んでいる。サウジアラビアとイラク、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、イランからアジアや欧州などへ向かう世界の原油取引の約2割がこの海峡を通過する。
国際航行に利用される天然の水路であり、船舶は長年にわたり自由通航権を享受してきた。しかし、米国とイスラエルによる対イラン戦争で、その現状は崩れた。
戦闘開始後、イランは船舶への攻撃を実施し、ホルムズ海峡を事実上封鎖した。通航できた船舶に対しては、航海1回当たり最大200万ドル(約3億2500万円)の臨時通航料を要求し、事実上の料金徴収制度を導入した。
米国とイランが6月に停戦で合意して以降、ホルムズ海峡の通航量は回復しつつあるが、散発的な船舶への攻撃が続いているため、船主の警戒感は依然として強い。
イランは現在、商船に対し、ホルムズ海峡を航行する前に明示的な許可を取得するよう求めている。米国との停戦合意の一環として、貿易再開を促すため60日間の猶予期間中は通航料徴収を停止するとしたが、8月に猶予期間が終了した後は再び支払いを義務付ける方針を示している。
イラン政府は、これは海峡通航そのものへの課金ではなく、航行や安全、環境関連サービスなどに対する料金だとしているとバガイ外務省報道官が説明した。
米国と同盟国はイランの計画に反対している。批判派は、名称を変えただけの通航税に過ぎないと主張している。また理論上、支払いを行った企業は、米政府が制裁対象としている組織との金融取引を理由に米国の制裁対象となる可能性もある。ただし、米国はイランに対するすべての制裁を解除することで合意している。
イランがどの程度の料金水準を想定しているかは明らかではない。イランのタスニム通信は3月、徴収額の試算として、船舶1隻当たり200万ドルと、スエズ、パナマ両運河の通航費用と推定した40万ドルの2つのケースを示した。
ボスポラス海峡とダーダネルス海峡
ボスポラス海峡とダーダネルス海峡はトルコ領内にあり、黒海と地中海を結ぶ。ロシアやウクライナ、ジョージア、ルーマニア、ブルガリアなど黒海沿岸諸国にとって重要な海上輸送路で、原油や天然ガス、穀物のほか、コンテナ貨物も輸送されている。昨年は4万隻超の船舶が両海峡を通航した。
トルコの海峡は1936年のモントルー条約に基づいて管理されている。この条約は、第1次世界大戦後に設けられた国際管理体制に代わってトルコの支配権を回復させる一方、商船の自由通航は維持した。
条約では特定のサービスに対する料金徴収が明示的に認められている。トルコは通航そのものへの課金ではなく、灯台や救助サービス、水先案内や航行支援などに対して料金を徴収している。タンカーを含む大型船舶にはタグボートによる護衛の追加料金も課される。
料金は船舶の純トン数に基づき、モントルー条約で基準とされた歴史的会計単位である「金フラン」で算定される。トルコは為替レートを定期的に更新しており、7月1日時点では標準的なスエズマックス級原油タンカーが両海峡を往復する場合、約24万ドルの料金を支払うことになる。
アナトリア通信によれば、トルコの海峡関連収入は2021年以降ほぼ6倍となり、2025年6月までの1年間で2億2300万ドルに達した。
トルコの海峡は地政学的緊張の影響も受けてきた。黒海から地中海へ出る唯一の出口であることから、商業輸送だけでなく、黒海に主要海軍基地を持つロシアをはじめとする地域の軍事大国にとっても戦略的に重要な水路となっている。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、トルコはモントルー条約の規定を発動し、交戦国の軍艦の通航を禁止して戦闘拡大を防いだ。ただし、条約で認められている通り、母港へ帰還するロシア軍艦の通航は例外として認めた。
オーレスン海峡
オーレスン海峡はエーレスンド海峡とも呼ばれ、デンマークとスウェーデンを隔てている。バルト海と大西洋を結ぶ複数の玄関口の一つで、デンマーク海峡の一部と位置付けられている。
この航路はスウェーデンとフィンランド、バルト諸国、ポーランド、ドイツの主要港を結び、自動車や穀物、石油などの貨物が運ばれる。海峡の通航には料金はかからないが、国連機関の国際海事機関(IMO)は水先案内の利用を推奨しており、その費用は発生する。
ロシアのウクライナ侵攻以降、北大西洋条約機構(NATO)がバルト地域を重視したことで、オーレスン海峡の戦略的重要性は高まっている。デンマーク海峡は商業輸送に加え、ロシアのエネルギー輸出を監視する重要な回廊にもなっている。
マラッカ海峡
マラッカ海峡はインド洋と南シナ海、さらに太平洋を結び、中東と東アジアを最短で結ぶ海上ルートだ。インドネシアの島嶼(とうしょ)部を経由する代替航路もあるが、利便性や航行の容易さでは劣る。
全長約800キロメートルのこの水路には、推定2兆4000億ドル相当、世界海上貿易の2割以上が集中。原油やプロパン、自動車などが輸送されている。
マラッカ海峡に面するインドネシアとマレーシア、シンガポールは共同で海峡を管理している。北端に短い海岸線を持つタイとも連携し、海賊対策や共同パトロールを含む安全保障・航行安全対策を進めている。
船舶に通航料は課されていない。一方で、インドネシアとマレーシア、シンガポールは、ブイや標識、灯台など航行支援設備の維持を目的とした基金を通じて自主的な資金拠出を受けている。
日本や中国、インド、韓国、UAEなど政府のほか、業界団体や海事関連財団がこの基金に資金を提供。シンガポール海事港湾庁(MPA)は声明で、拠出金は「通過する船舶に課される料金や通航料、支払いと誤って解釈されるべきではない」と指摘した。
IMOによると、同基金の残高は2025年7-9月(第3四半期)末時点で約411万ドルだった。今年の予算として480万ドルが委員会で承認されている。

最近になって、マラッカ海峡の通航に料金を課すという構想が浮上した。インドネシアのプルバヤ財務相は4月、イランがホルムズ海峡を事実上封鎖したことを受けて通航料導入の可能性に言及したものの、その後すぐに発言を撤回し、波紋を呼んだ。
インドネシアのプラボウォ大統領は7月初旬にシンガポールのウォン首相と会談した後、UNCLOSに準拠し、マラッカ海峡における船舶の妨げのない通航を確保するため、両国が引き続き協力していくと述べた。
バブルマンデブ海峡
バブルマンデブ海峡は紅海の入り口に位置し、インド洋とスエズ運河を結ぶ水路。アラビア語で「涙の門」を意味するこの海峡は、何世紀にもわたり横方向の潮流や予測困難な風、岩礁や浅瀬によって多くの航海者が被害を受けたことから、その名で呼ばれるようになった。
海峡は東側をイエメン、西側をジブチとエリトリアに挟まれている。数年前まで世界海上貿易の約15%を担い、原油やLNG、穀物、消費財を積載した年間2万2000隻超の船舶が通航していた。
しかし2023年後半以降、イエメンの一部を支配する親イラン武装組織フーシ派が紅海で商船への攻撃を断続的に開始したことを受け、多くの船舶がアフリカ南端経由へ航路を変更し、この水路の通航量は大幅に減少した。
バブルマンデブ海峡の通航に現在、料金は課されていない。ただ、船舶情報のロイズリストは今年4月、イランがホルムズ海峡で前例を作ったことを受け、フーシ派がこの海峡を通過する船舶への通航料導入を検討していると報じた。
台湾海峡
台湾海峡は台湾と中国本土を隔てる水路で、北東アジアと東南アジア、欧州、中東を結ぶことから、自国経済を輸出に頼る日本と韓国、台湾、中国にとって極めて重要な航路となっている。
毎年約2兆4500億ドル相当、世界海上貿易の2割超に当たる貨物がこの海峡を通過する。商船に通航料は課されていない。
船舶は台湾本島の東側を航行することで台湾海峡通航を回避できるが、太平洋側への迂回(うかい)は航行時間や距離、燃料コストの増加につながる。台湾の海上貿易はほぼ全面的に台湾海峡に依存している。
台湾を自国領土の一部と主張する中国は、台湾海峡は国際水域ではないとしているが、米国をはじめ多くの国はこの解釈を認めておらず、中国の抗議にもかかわらず、各国の軍艦は台湾海峡通航を継続している。
台湾海峡は世界が注視する地政学的緊張の火種となっている。商業航行への影響はこれまでのところ限定的だが、中国はここ数年、台湾周辺で海軍演習を拡大し、政治的な動きに合わせて軍艦を展開するケースも多い。こうした活動は、軍事衝突が世界有数の海上貿易ルートを脅かす可能性への懸念を高めている。
ジブラルタル海峡
欧州とアフリカの間に位置するジブラルタル海峡は、地中海と大西洋を結ぶ重要な商業航路だ。スペインとモロッコに挟まれ、最も狭い地点の幅はわずか13キロメートルしかない。
地中海への玄関口として、西欧・北欧諸国がアジアと貿易を行う上で欠かせない海上輸送路となっている。毎年10万隻を超える商船がこの海峡を通航し、国際海上交通量の約1割を占める。ジブラルタル海峡の通航に料金は課されていない。
喜望峰
アフリカ最南端に位置する喜望峰は海上交通のチョークポイントではないものの、アジアと欧州を結ぶ船舶にとって重要な代替航路となっている。
南アフリカを回る外洋ルートは、アジアと米州を結ぶ主要航路を接続している。この航路を利用する船舶は、大西洋とインド洋の荒天海域を避けるため、アフリカ沿岸寄りを航行する傾向がある。通航料は課されていない。
スエズ運河や紅海、ホルムズ海峡で地政学的混乱が生じて通航リスクが高まると、一般的にこの外洋ルート利用が増加する。ホルムズ海峡の最近の混乱を受け、アフリカ南部を回る航路の通航量は最大90%増加した。
喜望峰ルートはより安全な代替航路となる一方、アフリカを周回することで航海距離が数千マイル延びるため、運航コストは大幅に膨らむ。
パナマ運河
全長80キロメートルのパナマ運河はパナマを横断し、大西洋と太平洋を結ぶことで、アジアと米東海岸を結ぶ最短の海上ルートを形成している。また、欧州・米西海岸間の航海時間も短縮している。
主に米国によって建設されたパナマ運河は1914年に開通した。2025年度の通航実績は1万3404隻と、前年から19%増加した。世界海上貿易の約6%がこの運河を通過している。
1999年に米国がパナマへ管理権を移管して以降は、パナマ政府機関であるパナマ運河庁が運営している。
海洋法の適用を受ける天然の国際水路とは異なり、パナマ運河はパナマが所有・運営する国家インフラと位置付けられている。そのため、運河庁は船種や積載能力、貨物に応じた通航料を徴収している。
中型の原油タンカーが通航枠を確保する場合の料金は約35万-40万ドルだが、干ばつや地政学的混乱時には通航枠の競売により約100万ドルまで上昇することもある。パナマ運河庁の2025年度収入は57億ドルだった。
パナマ運河も地政学的緊張とは無縁ではない。香港の長江和記実業(CKハチソン・ホールディングス)が運営していたバルボア港とクリストバル港を巡り、トランプ米大統領が中国の影響力拡大に懸念を示したことで、昨年以降、運河は米中対立の焦点となっている。
パナマの最高裁判所は2026年1月、CKハチソンの港湾運営契約を違憲と判断した。

スエズ運河
全長193キロメートルのスエズ運河はエジプトを横断し、地中海と紅海を結ぶことで、欧州とアジアを最短で結ぶ海上ルートを提供している。1869年に開通したスエズ運河は、欧州と中東、アジア間の貿易を支える重要な大動脈で、船舶がアフリカ南端を迂回する必要をなくしている。
2023年には過去約50年で最多となる2万6434隻が通航した。通常は世界海上貿易の約15%を担っている。
運営はエジプトのスエズ運河庁が担い、航行管理や通航規則の策定を行っている。パナマ運河と同様、スエズ運河も国家インフラと位置付けられており、同庁は船種や積載貨物に基づき商船から通航料を徴収している。世界で最も一般的な船型の満載タンカーの場合、片道通航料は約38万ドルとなる。
スエズ運河庁のラビア長官はテレビインタビューで、2025/2026年度の運河収入は46億7000万ドルだと述べた。
スエズ運河は幾度となく世界的な海上輸送混乱の中心となってきた。1956年のスエズ危機では、エジプトが運河を国有化したことを受け、イスラエルと英国、フランスが軍事介入したものの、国有化を覆すことはできなかった。
最近では2021年に貨物船が運河を斜めにふさいで座礁し、6日間にわたり通航不能となった。2024年の運河収入は、フーシ派による攻撃リスクを避けて多くの船舶が紅海を迂回した影響で61%減少した。その後、運河を利用する船舶が増加し、2025/2026年度は23%増収となった。
原題:Iran Wants Hormuz Fees. How Do Other Waterways Work?: Explainer(抜粋)
--取材協力:Shadab Nazmi、Jon Herskovitz、Isabelle Chong、Peter Millard、Alaric Nightingale、Mirette Magdy、Julian Lee.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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