円がドルに対し約40年ぶりの安値水準まで下落する中、日本が当面は静観する十分な理由がある。もともと為替相場を反転させるのは容易ではないが、ドルが改めて支持を集める環境では、その難しさが一段と高まっている。高市早苗政権も、容易に成果を上げられる状況にはない。

最も成功する為替介入には意外性があり、運にも恵まれれば市場心理を転換させる効果も期待できる。追加介入によって苦境に陥っている円を一時的に押し上げることは可能だろうが、市場参加者の見方を根本的に変える見込みは低い。

新たに就任した米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長が、インフレ抑制に強く取り組む姿勢を明確に示したことで、ドルは当面、底堅く推移しそうだ。円は少なくとも当面、軟調な展開が続くとみられる。日本にとって、その流れに過度に逆らうメリットは小さい。

政府と日本銀行はこの1カ月間、口先介入を除けば実際の行動を控えてきた。ただ、外国為替を巡って米当局と緊密に連携しており、為替介入は依然として有効な手段と考えている。

片山さつき財務相は、円を守るために適切な措置を講じる用意があると繰り返し表明し、為替政策についてベッセント米財務長官とも協議してきた。

片山氏は、円買い介入を本当に大きな効果のあるものにするには、日本単独では不十分であり、米国との協調が不可欠だと理解している。しかし、その実現へのハードルは極めて高い。

日本は5月末までの4週間で過去最大となる740億ドル(約12兆円)を投じ、その多くは4月30日とその直後に円買い介入として実施された。政府は一定の成果も得た。

大型連休中の流動性が低く、市場参加者が少ないタイミングを狙ったことで、大きなインパクトを与えることができたためだ。ただ、その効果は長続きしなかった。円相場は7月1日時点で1ドル=162円70銭前後と、4月下旬の約160円よりも円安水準で推移している。

しかし、ここ数週間でドル高が進む中、日本は市場に姿を見せていない。それでも市場関係者は、政府・日銀が介入に踏み切る新たな円安水準を予想し続けた。

だが、その水準は次々と通過した。当局が介入を見送ったのは、市場の期待があまりにも高く、実際に行動しても得られる効果が限定的だと判断したためだろうか。

「爆発的」 

こうした自制は評価に値し、その背景には厳しい現実がある。ドル高はより広範な流れに支えられている公算が大きい。ウォーシュ氏が6月半ばに米連邦公開市場委員会(FOMC)の会合を初めて主宰して以降、ドルはほぼ全ての主要通貨に対して上昇している。

FOMC会合後の記者会見でウォーシュ氏が繰り返し強調したのは、自らが率いるFRBはインフレ抑制を最優先するという姿勢だった。当面は物価安定を重視し、完全雇用はそれに次ぐ目標となる。この衝撃は2つの要因によって一段と大きくなった。

一つは、トランプ大統領がホワイトハウスの意向として利下げを期待してウォーシュ氏を指名したとの見方が広がっていたことだ。

そのため、ウォーシュ氏がタカ派的なスタンスを示したことは市場にとって意外だった。二つ目は、FOMC参加者が示した政策見通しが、今年は利下げよりも利上げに傾いていたことだ。世界の金融システムの基盤であるFRBの独立性が改めて確認された形となった。

起きているのは円安だけではない。ドルは主要通貨の大半に対して値上がりしており、その動きは始まったばかりかもしれない。英銀HSBCホールディングスは今週、ドル高の勢いが「爆発的」に強まる可能性があると警告した。

これは、1年前に市場を席巻した米国資産離れを意味する「米国売り」という見方から大きく転換したことを示している。ドルの終焉(しゅうえん)を早々に語るべきではないことを改めて示すとともに、日本に難しい問いを突き付けている。この勢いにどこまで逆らうべきなのか、という問題だ。

国際決済銀行(BIS)によると、外為市場の1日当たり取引は現在9兆6000億ドルに達し、3年間で28%増加した。

市場規模がこれほど拡大した以上、各国政府は介入のタイミングを極めて慎重に判断する必要がある。タイミングの重要性はかつてないほど高まっている。日本はドル高と円安がもうしばらく進むのを見極めた上で介入する方が得策ではないか検討するのが賢明だろう。

参考までに、日本が対峙(たいじ)する市場規模を振り返ると、1998年の外為市場は1日当たり約1兆5000億ドルに過ぎなかった。この年は、米国が日本と協調して円買い介入を実施した最後の年でもある。

当時はアジア通貨危機のさなかで、日本では金融機関の危機も深刻化していた。今年もアジア通貨は下落圧力にさらされているが、当時に匹敵する規模には到底及ばない。

日本は多額の資金を投じても大きな成果を得られない可能性がある。一方、待つことでより大きな効果を得られるかもしれない。経済や金融システムは危機的状況にはなく、足元では円安だけでなくドル高の影響も大きい。

片山氏の忍耐にも限界はあるだろう。しかし、その忍耐こそが美徳になるとも考えられる。

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(ダニエル・モス氏はアジア経済を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はブルームバーグ・ニュースの経済担当エグゼクティブエディターでした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Fighting Yen Psychology Is a Losing Game: Daniel Moss(抜粋)

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