(ブルームバーグ):米国とイランは21日、イラン核問題の解決とホルムズ海峡の恒久的な開放を目指す包括的な和平協議をスイスで開始した。一方、トランプ米大統領は同日、レバノンの親イラン派武装組織ヒズボラがイスラエルへの攻撃を続ける場合、対イラン攻撃に再び踏み切る可能性があると改めて警告した。
トランプ氏による警告を受けて、イランが協議を中断したとの報道が同国メディアから伝わり、一時情報が錯綜(さくそう)した。ただ、事情に詳しい関係者によると、協議は継続していたという。
協議はスイスで22日未明まで続き、ホルムズ海峡の航行を維持するための衝突回避の仕組みや、レバノン南部におけるイスラエルとヒズボラの停戦をどのように履行するかなどが議題となった。協議に参加している米高官が明らかにした。
今回の協議は、今後継続される技術的な協議の出発点と位置付けられていると高官は説明した。
米国とイラン、および仲介国であるカタール、パキスタンの代表らによる最初のハイレベル会合は、スイスのリゾート地ビュルゲンシュトックで始まった。出席者にはバンス米副大統領やイランのアラグチ外相らが含まれる。
協議が進められている中、トランプ氏は「レバノンで資金提供を受けている代理勢力が問題を引き起こすのをイランが直ちに止めなければ」、再びイランを攻撃するとソーシャルメディアに投稿した。
トランプ氏はまた、イランと合意に至らなければ、米国がホルムズ海峡の通航料徴収を開始するかもしれないと、FOXニュースに語った。イラン指導部と自身が直接言葉を交わし、イランがホルムズ海峡を封鎖したら「お前たちはイランに戻ることさえできなくなる」と、罵倒の言葉を交えて話したという。
トランプ氏の発言を受け、アジア時間22日の原油相場は上昇した。北海ブレント原油は取引開始時に一時2.2%上昇し、1バレル=82.30ドルを付けた。米ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は77ドル近辺で推移した。
レバノンでの戦闘終結が最大の焦点
米国とイランの敵対関係は、暫定合意を受けてひとまず収束の兆しが見られた。しかし、今回の協議は、イランの核開発能力や同国への経済的救済措置など、幅広い議題に関して長期化が予想される交渉の出発点に過ぎない。
バンス氏はパキスタンとカタールの当局者と並んで記者団に対し、「きょうは意見の相違を全て解決する場ではなく、実務レベルの交渉を始める第一歩だ」と述べた。トランプ政権の国際交渉担当であるジャレッド・クシュナー氏とスティーブ・ウィトコフ氏は、継続的な実務協議に関与している。
協議に詳しい当局者によると、レバノンでの戦闘終結がスイスでの米・イラン協議の成否を左右する最大の焦点となる。同当局者は機微な情報であることを理由に匿名で語った。交渉が前向きな結果に至るかどうかは最終的にイスラエルの協力にかかっており、レバノンからの撤退が実現して初めて暫定合意を前進させる条件が整うという。
イスラエルは、暫定合意につながった協議には参加していなかった。
このほか、ホルムズ海峡や米国の対イラン制裁、凍結されているイラン資産も重要な問題となっている。スイス当局は必要に応じて交渉を継続できるよう、22日午前まで会場を確保している。
関係者によると、イラン側代表団は今回の協議が国内でどう受け止められるかを強く意識している。そのため、協議開始前にテレビ中継された冒頭発言には姿を見せなかった。合意前に米国代表団と握手を交わす場面が映し出されるのを避けたかったためだという。
この関係者はまた、イランと米国の代表団の間には認識や期待を巡る大きな隔たりがあり、その溝を埋める試みが協議を複雑にしていると指摘した。
バンス氏は、今回の会合によって「双方のチームが歴史上初めて顔を合わせ、それぞれにとって何が最も重要なのかを見極めることができる。その上で懸案の解決を進め、より良い未来につなげたい」と語った。
準国営イラン学生通信(ISNA)は、協議の主要議題はレバノンでの「包括的な停戦」と、国外で凍結されているイラン資産の扱いになる見通しだと報じた。イランは停戦に加え、イスラエル軍のレバノンからの撤退を要求している。
イランは20日、イスラエルがレバノンでの停戦に違反したと非難し、世界のエネルギー供給の要衝であるホルムズ海峡を再び閉鎖すると表明した。ただその発表後も数百万バレルの原油が同海峡を通過し続けた。
17日にトランプ氏が署名した覚書では、米国とイランに60日間の交渉期間が与えられている。ただ、合意には延長条項も盛り込まれている。
イランによるホルムズ閉鎖の影響は不明
イランによるホルムズ海峡閉鎖の発表は協議に影を落としたが、船舶航行への即時の影響は不明だった。最近の停戦以前からも、同海峡では毎日数百万バレルの原油輸送が続いた。
ブルームバーグがまとめた船舶追跡データによると、19日に海峡通過を試みたことを示していたインド関連の超大型タンカー3隻が21日にオマーン湾で再び姿を現した。
これらの超大型タンカーは、それぞれインド所有またはインド向け貨物を示しており、イラク産およびクウェート産原油計約600万バレルを積載している。ゲシュム島方向への航行を試みたことから、イランが承認した航路を利用した可能性がある。
米中央軍は20日、ホルムズ海峡を通航する商船が増加したと発表。55隻の商船が貨物を輸送し、1700万バレル超の原油が運ばれたと発表した。
2月28日に始まった対イラン戦争で米国と協力したイスラエルは、隣国レバノンでヒズボラに対する並行作戦も展開している。数千人が死亡し、100万人超のレバノン人が避難を余儀なくされた同地の紛争について、イランは一貫して米国との広範な交渉と結び付けようとしてきた。
イラン外務省のバガエイ報道官は、IRNA通信が伝えた発言で、レバノン情勢とイスラエルの軍事行動について、米国には「直接的な責任」があるとの認識を示した。
イスラエルは撤退しない方針
イスラエルは、ヒズボラがもはや脅威ではないと確信するまで国境地帯に部隊を駐留させる方針を示している。イスラエル国防軍(IDF)は、ヒズボラ戦闘員の潜伏先とみられる地下壕(ごう)ネットワークを最近の攻撃では標的にしていると説明している。
イスラエルのカッツ国防相は21日、「レバノンで脅威を除去するために行動するイスラエル軍兵士に対する制約は、これまでもなく、現在もない」と述べた。
さらに、「われわれの部隊はレバノンのイエローライン沿いの安全地帯に引き続き展開し、そこからテロリストやテロインフラに対する作戦を行っている」と述べ、撤退しない方針を改めて示した。
トランプ氏は、イスラエルによる攻撃が米イラン協議を損なう恐れがあるとして、ネタニヤフ首相に不満を示していた。
バンス氏は18日、記者団に対し、「イスラエルには自衛権がある。しかし根本的には、イスラエルも他の全ての関係者と同様、この和平プロセスを尊重しなければならない。それは彼ら自身にとっても、この地域全体にとっても有益なものだ」と述べた。
原題:US, Iran Meet in Switzerland as Trump Threat Angers Tehran (1)(抜粋)
(第3段落以降に米高官からの情報を追加して更新します)
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