米連邦準備制度理事会(FRB)議長就任からわずか3週間のケビン・ウォーシュ氏は、既に異例なほど大きな試練に直面している。

インフレは3年ぶりの勢いで再燃している。FRB政策当局者の間では、意見の対立が広がっている。投資家は、米国債を売り、米金融当局が12月までに利上げに踏み切る必要があるとの見方に傾いている。トランプ米大統領が求める利下げとは逆方向の動きだ。

今週開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)会合の結果そのものに不確実性はほぼない。イラン戦争に伴うエネルギー価格ショックが米国経済にどう波及するかを見極める中、政策金利は3.5-3.75%のレンジで据え置かれるとの見方が広がっているためだ。

しかし、ウォーシュ議長にとって初の記者会見、そしてFOMC会合後の声明と経済見通しは、次に何が起きるのかを探る手掛かりとして徹底的に分析されることになる。

FRBがインフレ抑制モードへ再び移行する用意があるとの説得力あるメッセージを発すれば、ウォール街では、ウォーシュ議長がFRBの政治的独立性を維持する姿勢を示したとして安心感が広がる公算が大きい。そうしたメッセージが不十分であれば、市場を動揺させるだろう。市場では既に、同議長がホワイトハウスに譲歩してFRBの信認を損なう恐れがあると懸念している。

アンデルセン・インスティテュートのエコノミストで、元FRB金融政策局副局長のジェームズ・クラウス氏は「ウォーシュ氏にとって、あらゆる面で非常に難しい立場だ」と述べた。

新たなFRB議長にとって、就任直後は常に容易ではない。アラン・グリーンスパン氏やベン・バーナンキ氏のように、就任からそう時間がたたないうちに大きな課題に直面した例もある。

ただ、ウォーシュ議長の場合、ホワイトハウスの優先事項と経済の方向性が直ちに衝突している点で、状況は特に難しい。ウォール街の緊張は、同議長の見解を巡る疑問に加え、戦争や人工知能(AI)投資ブームで複雑化した景気見通しによって高まっている。このブームは、予想外に底堅い経済に一段と弾みをつけている。

長い沈黙

ウォーシュ氏は2006-11年にFRB理事を務めた際、強硬なタカ派として知られていた。当時は住宅市場の崩壊が米国を深刻なリセッション(景気後退)に追い込んだ時期だった。

だが、その後はFRBに対する厳しい批判者へと変わった。昨年には、FRBが高インフレの継続を予測し続けているとして批判し、AIが生産性を高めることで「大きなディスインフレ圧力」をもたらすと述べた。先月就任して以降、ウォーシュ議長が沈黙を続けている点も状況を一段と複雑にしている。新議長が足場を固めようとする時期としては珍しい姿勢ではないものの、政策の方向性は読みにくい。

コロンビア・スレッドニードルのポートフォリオマネジャー、エド・アルフセイニー氏(ニューヨーク在勤)は「ウォーシュ議長は今のところ、金融政策についてかなり長い間発言していない」と指摘。「そのためわれわれは、金融政策を巡る同議長の考えを、乏しい手掛かりから読み解こうとしている」と語った。

さらに、イラン戦争で原油価格が上昇して以来、経済情勢は急速に変化した。企業はコスト上昇を受け、消費者に価格転嫁しており、過去5年間にわたりFRBの2%目標を上回ってきたインフレに上乗せされている。インフレ指標の一つとして広く注目される消費者物価指数(CPI)は5月、前年同月比4.2%上昇し、23年4月以来の大きな伸びとなった。

これにより、ウォール街の見方は大きく修正された。トレーダーは、FRBが年内に利下げを再開するとのかつて広く受け止められていた見方を捨て、逆方向を見込み始めている。米2年国債利回りは4%超へ上昇し、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を上回った。30年債利回りは先月、07年以来の高水準に達した。いずれも、金利は上昇に向かう必要があるとのウォール街からの明確なメッセージと受け止められている。

こうした市場からのシグナルは、FRB当局者も見逃していない。4月の直近会合では、多くの政策当局者が、インフレが高止まりすれば利上げを開始する必要が生じる可能性が高いと警告し、利下げ方向のバイアスを削除することを望んでいた。会合議事要旨が示した。3人はFRB声明の文言に反対し、異議を唱えた。

FRB改革を公約

ウォーシュ議長はトランプ政権がFRBに前例のない攻撃を行ってきた中で就任した。これにはクックFRB理事を解任しようとする動きや、パウエル前FRB議長に対する刑事捜査も含まれる。パウエル氏は、これは自身が金融政策を大統領の意向通りにしなかったことへの報復だと主張している。

トランプ大統領はウォーシュ氏が議長に就任した際、同氏の独立性を尊重していると述べた。しかし一方で、パウエル前議長を繰り返し批判し、今月には、ウォーシュ議長が利上げを行えば誤りだと発言。FRBはむしろ利下げすべきだと主張した。

デューク大学の経済学教授で、FRBでの数十年にわたるキャリアの中で当局者に助言してきたエレン・ミード氏は「われわれがこれから目にするウォーシュ議長が、長年にわたり存在感を示してきた、筋金入りの反インフレ派のままであることを望んでいる。インフレがあまりに高いからだ」と述べた。「同氏は、足元のデータが示すメッセージを理解していると、何らかの形で示す必要がある」と語った。

一方、ウォーシュ議長が大統領の意向に沿うためにFRBの信認を損なう恐れがあるとの懸念は、行き過ぎだと見る向きもある。

ケイトー研究所の金融・金融代替手段センターのノーバート・ミシェル氏は「『大統領が低金利を望んでいるから利下げする』とウォーシュ議長が言うとは考えにくい」と指摘。「ウォーシュ議長は、それが物事の進め方ではないと分かっている」と述べた。

それでも、ウォーシュ議長はFRBで大幅な改革を行うと約束している。その中には、財務省とのより緊密な協力も含まれる。同議長は、FRBがインフレの評価方法と国民への情報発信の在り方を変える必要があると述べてきたほか、FRBの巨額の保有債券を削減するよう主張してきた。これは、市場により多くの債券を吸収させることで、長期金利を押し上げる可能性がある措置だ。

ただ、当面の焦点は、ウォーシュ議長が今後数カ月にわたりFRBをどこへ導こうとしているのかについて、どのようなシグナルを発するかだ。

バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNY)のジェイソン・グラネット最高投資責任者(CIO、ニューヨーク在勤)は「最初の会合は、いつまでも最初の会合として記憶される」とし、「声明、議事要旨、記者会見と、今回の会合には検討すべき材料が非常に多い」と語った。

原題:Warsh Caught Between Trump and Bond Market Betting on Rate Hikes(抜粋)

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