(ブルームバーグ):海外の債券運用者が再び日本国債市場から距離を置き始めている。国債利回りが投資家を呼び戻す水準まで上昇してから1年余りがたった今も、日銀の金融政策正常化に対する懐疑的な見方は根強い。
ティー・ロウ・プライス・グループやシュローダー、ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントは最近、日本の超長期債への投資を削減、ないしは機動的な売買を狙ったポジションに絞った。日本証券業協会の公社債店頭売買高統計によると海外投資家は4月、超長期国債を2024年12月以来初めて売り越した。
こうした動きの背景にあるのは、日本銀行が今週利上げしても、インフレ抑制と市場安定化に十分なペースで金融政策の正常化を進めることは難しいといった懐疑的な見方だ。数十年ぶりの高水準に達した利回りは魅力的に映るものの、多くの投資家は日銀がインフレ対応で後手に回り、政治的圧力にもさらされやすいと懸念している。
ブランディワイン・グローバルは最近、日本国債のエクスポージャーを減らし、30年債のポジションを手じまうとともに資金の一部を英国債に振り向けた。ポートフォリオ・マネジャーのキャロル・ライ氏は「実質金利が大幅なマイナスであることを踏まえると、日銀はややビハインド・ザ・カーブ(後手)にある」とみる。日本国債のバリュエーションは改善したものの、「構造的な需給環境は依然として複雑なままだ」と話した。
利回りの上昇は、長年の大規模緩和で日本の債券市場から離れていた海外投資家を呼び戻すと期待されていた。しかし、多くの投資家が、日本の超長期債への投資をためらわせる最大の要因は、バリュエーションではなく政策運営への信頼だと指摘する。
海外投資家が慎重姿勢を強める中、国債市場は微妙な局面にある。日銀が国債買い入れを減額し市場への関与を弱める一方、生保など国内の主要な買い手はなお本格的には戻ってきていない。
ティー・ロウ・プライスのポートフォリオマネジャー、ビンセント・チョン氏は、過去1年にわたりアンダーウエートとしていた日本国債を1月に買い増したが、財政悪化懸念の高まりを受け、1カ月後にポジションを縮小した。「財政支出の拡大や超長期ゾーンの需要構造の変化、日銀のバランスシート縮小継続などが逆風だ」と言う。
多くの投資家にとって、懸念は日銀だけにとどまらない。高市早苗首相が進める積極財政路線は、原油高に伴うインフレや金融正常化ペースを巡る不安を増幅させている。補正予算の編成や物価高に苦しむ家計への支援策など、市場は財政政策と金融政策のちぐはぐさを警戒する。高市首相は金融緩和を支持する立場で知られる。
アムンディ・ジャパンの有江慎一郎債券運用部長は、高市政権の日銀に対する圧力や積極財政姿勢への懸念は完全には消えていないと指摘。日本国債をアンダーウエートとしている自身の投資方針を見直すには、日銀が政府の影響を受けずに政策判断を行っていることを確認する必要があると話す。
高まるキャリー妙味
日本国債への投資は一見すると魅力的に見える。ドルベースの投資家は為替ヘッジを行うことで、米国債に匹敵する利回りを確保でき、一部の年限ではそれ以上の利回りを得ることができる。為替ヘッジ後の日本の30年国債利回りは足元6%を超え、同年限の米国債を約170ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上回る。
もっとも、魅力的なキャリー収益も価格変動リスクを相殺するのに十分ではない。超長期国債は流動性が乏しく、需給や財政を巡る動向に左右されやすい。高市政権の積極財政への警戒から市場が不安定化する中、30年国債利回りは今年に入り40bp超上昇し、多くの投資家が評価損を抱えることになった。
フィデリティ・インターナショナルのアジア債券運用責任者、朱蕾氏にとって、超長期国債への投資拡大を阻む最大の要因はボラティリティーの高さだ。「われわれは引き続き中期ゾーンを選好しており、特に3-5年ゾーンを有望視している。政策の先行きが比較的見通しやすく、利回りとボラティリティーリスクのバランスも良いからだ」と話す。
円安も日本の政策運営に対する市場の疑念を映していると言える。本来、国債利回りの上昇は日米金利差の縮小や国内資産の魅力向上を通じて円を支える要因となるはずだ。しかし、米国との経済環境格差が埋まらない中、日銀の段階的な利上げや過去最大規模の為替介入にもかかわらず、円は下落基調をたどっている。
「最も混み合った取引」
懐疑的な見方は市場のポジショニングにも表れている。BofA証券によると、日本国債のデュレーションに対する弱気ポジションは「最も混み合った取引」の一つだ。また、日銀の利上げが緩やかなペースにとどまるとの見方が広がる中、円安見通しに対する確信が強まり、ドル買い・円売りポジションが積み上がっているという。
国債市場にとって、問題は海外投資家の動向だけではない。日銀の国債買い入れ減額により、国債の消化はこれまで以上に民間需要に頼らざるを得ない。しかし、国内金利の上昇により生命保険会社や年金基金が海外資産の国内回帰を本格化させる兆候は少ない。市場では増加する国債供給を誰が吸収するのかという懸念がくすぶる。
強気の見方もある。RBCブルーベイ・アセット・マネジメント債券部門の最高投資責任者(CIO)、マーク・ダウディング氏は、4%を超える30年国債の利回り水準は魅力的だとし、同社はデュレーションを長めにする方針だと明かした。「日銀が正しい対応を取り、今月利上げを実施した上で年後半も正常化を続ける方針を示せば、超長期ゾーンは売られ過ぎの水準からさらに持ち直す可能性がある」とみる。
それでも、市場全体では利回り上昇を好機と捉え積極的に投資する動きは乏しい。シュローダーの債券ポートフォリオマネジャー、ジェームズ・リンガー氏は、同社は日本国債そのものへの投資でなく、イールドカーブ取引に注力していると説明。より強気になるには、日銀がさらなる金融引き締めに前向きな姿勢を示す必要があり、「そうしたシグナルがなければ超長期国債が持続的に大きくアウトパフォームするのは難しいだろう」と語った。
--取材協力:近藤雅岐.
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