英国のスターマー首相は2月にミュンヘンで熱のこもった演説を行い、ロシアの脅威に対抗するため「より多くを、より速やかに支出」すると表明した。

それから4カ月たっても、その公約は実行されず、業を煮やした国防相が辞任。スターマー氏にとって、強力な防衛支出は長く受け継がれる政治的遺産になるはずだったが、最大の機会は失われた格好だ。

スターマー氏とその側近らは長らく、同氏が持つ最大の強みの一つとして北大西洋条約機構(NATO)における指導力を挙げていた。労働党政権下で英国は、ウクライナ支援のための「有志連合」結成を主導し、フランス、ドイツ、ノルウェーとの防衛協力を強化した。ホルムズ海峡の機雷除去計画も策定した。

また、トランプ米大統領の圧力もあり、スターマー氏は他のNATO加盟国とともに、2035年までに防衛費を国内総生産(GDP)の3.5%に引き上げることも約束した。

保守党政権の14年間で縮小した防衛費を拡大するとの公約は、国内経済の問題が山積し、党内の一部から辞任を求める声が上がっているスターマー氏にとって、評価されている数少ない分野だった。

Photographer: Oli Scarff/Getty Images

ところが、党内のライバルたちが首相追い落としの機会をうかがう中で、ヒーリー国防相がスターマー氏を痛烈に批判して辞任したことは、同氏への大きな打撃となり、英国の信頼性も損ねた。

ヒーリー氏は辞表の中で、決断が遅く、国防当局が求める予算を確保できないスターマー氏のせいで、英国は「より危険」で、NATOへの義務にも違反しかねない事態に追い込まれていると警告した。

これに対しスターマー氏は短い返信の中で自身の実績を擁護。「強固な財政こそが英国の安全を守る一部だ」と主張、「無責任な借り入れは危険を招くだけだ」として、防衛費は「持続可能な」形で増額したいと説明した。

11日にはヒーリー氏に続き、カーンズ国防担当閣外相も辞任した。カーンズ氏は12日朝にLBCラジオで、「英国がどのように軍を支援するかは、世界の中での英国の立場に直接関わる」と指摘。「自分にとって、問題が表面化したのは2カ月半前だった。防衛投資計画の策定に自分は関与させてもらえなかった」と続けた。

防衛投資計画は政府による防衛支出のロードマップだ。カーンズ氏は、将来への備えとして適切ではない計画を擁護することはできなかったと語った。

統合軍兵士の話に耳を傾けるヒーリー前英国防相(2024年、キプロス)

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のケビン・ローランズ教授は、「直ちに生じる影響は首相官邸の政治的な恥だけではない。何にいつ資金が投じられるのか、英国軍や国防省、防衛業界が明確さを求めているこの時期に、計画の確実性が大きく損なわれることが重大な打撃だ」と指摘した。

忠実な支持者

ヒーリー氏はこれまで、ウクライナとイランで戦争が続くなど世界的に不安定な局面で、首相を交代させるのは賢明ではないとしてスターマー氏を擁護してきた。スターマー氏はこれまで、主要閣僚の忠誠心を維持しながら、相反する要求を行うヒーリー氏とリーブス財務相の間でバランスを取ろうとしてきたが、最も信頼できていた支持者の1人すら離反したことで、内閣の団結を図るスターマー氏の試みはもはや絶望的に見える。

ある政府顧問は、タイタニック号に乗っている気分だと語った。

政治的野心から辞任したストリーティング前保健相らとは異なり、ヒーリー氏の辞任は首相にとって深い意味を持つ。ヒーリー氏は有能で、写真撮影さえ避けるほど目立つことを嫌い、首相の座への野心を見せたこともなくスターマー氏の忠実な支持者だと見られていたためだ。

英民間軍事会社4GDのマネジングディレクター、ロブ・テイラー氏は、「大げさな約束をしながら裏付けとなる計画はなく、十分な財源を取り付けられないパターンが再三繰り返されている。英国が再軍備を加速させるべきこの時期に、それが防衛産業全体の信頼感を損ねている」と指摘した。

原題:UK Defense Secretary’s Ugly Exit Shatters Starmer’s Legacy (3)(抜粋)

--取材協力:Alex Wickham、Lucy White.

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