米国の長期金利が上昇傾向にある。10年国債利回りは22日終了週に一時、4.70%をわずかに下回る水準に達した。これは2025年1月以降で最も高い。金利の押し上げ要因は何か、景気循環的な理由か、それともシステミックでより深刻な懸念と捉えるべきか、素朴な疑問が湧く。

利回り上昇はおおむね景気循環によるものだが、三つの要因が主に作用している。まず予想以上に力強い経済成長だ。関税引き上げとエネルギー価格高騰という二重のショックで実質所得が圧迫される状況でも、個人消費は持ちこたえている。

AIインフラ整備を中心に企業の設備投資が急増し、結果的に金融政策の見通しは利下げから利上げにシフトした。数カ月前までは米連邦準備制度が年内に1、2回の利下げに動くと予想されていたが、今は年内の金融引き締めの見方が支配的だ。

中立的金融政策と整合的な短期金利の長期見通しについて、景気動向が市場参加者に上方修正を促した。これが次に挙げられる要因だ。

短期金利が現行水準を3年余り上回り続け、失業率が完全雇用および物価安定と引き続き整合的な水準だと金融政策担当者が判断する状況では、金融政策を「景気抑制的」と評価することは説得力に欠ける。

短期金利の今後数年の道筋を反映する担保付翌日物調達金利(SOFR)先物は、2026年より後の金利が4%前後だ。米政策金利のフェデラルファンド(FF)金利誘導目標は3.5-3.75%であり、短期金利が上昇すれば、債券利回りも同様に上昇せざるを得ない。

債券投資家が短期国債でなく長期国債を保有するために要求するタームプレミアムも、過去数年間一般的だった水準を上回っており、これが3番目の要因だ。

世界的な金融危機後のタームプレミアムが異常に低かったことを考えれば、それは驚くべきことではない。09年から21年にかけ、短期金利がゼロ近辺に固定され、米連邦準備制度が金融政策による景気刺激を行う能力を失うのではないかという懸念すらあった。

そうした環境下では債券は魅力的であり、タームプレミアムはゼロに近いかそれ以下だった。だが金融危機以前の現在に似た状況では、3カ月物の財務省短期証券(TB)と10年国債の利回りの格差(スプレッド)は100ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)前後と、現在のスプレッドと同じくらいの水準だった。

こうした楽観的な評価に比べ、より深刻な懸念を抱くべき理由も幾つか存在する。米国の財政は持続不可能な軌道を引き続きたどり、状況は悪化しつつある。

歳出面では、イラン戦争が防衛費を押し上げ、トランプ大統領は27会計年度(26年10月-27年9月)国防支出の5000億ドル(約79兆円)増額を目指し、金利上昇が政府の債務返済コストを押し上げる。慢性的な財政赤字が連邦政府の債務負担を増大させ、09年から22年にかけ低い借り入れコストで発行された国債がより高い金利で借り換えを迫られており、米議会予算局(CBO)は債務返済コストの急増を予想した。

CBOの10年予測によると、債務返済コストは26年の国内総生産(GDP)比3.3%から36年には4.6%に増える見込みだ。さらにCBOの想定(3カ月物TBとFF金利が3.2%前後、10年国債利回りが4.3%)を金利が著しく上回る場合、債務返済コストはずっと高くなる。CBOによれば、金利水準が想定を1ポイント上振れするごとに36年の債務返済コストは6000億ドル、今後10年では3兆8000億ドル増える。トランプ政権の関税措置の合法性に関する最近の司法判断も新たな歳入不足を生むことになった。

米連邦準備制度が金融政策の遂行で独立性を維持できるか不安視されれば、債券のタームプレミアムはさらに著しく拡大しかねない。インフレ率を物価目標の2%に抑えられないのではないかと投資家が懸念すれば、インフレ期待の抑制が外れ、債券のリスクプレミアムはさらに拡大するだろう。インフレ率が既に5年にわたり2%を上回り続ける現状は、信頼喪失と債券利回り上昇のリスクを高める。

ここでは自己強化的な力学が作用する。財政赤字拡大は金利上昇を招く。CBOの推計によると、連邦債務のGDP比率が1ポイント上昇するごとに長期金利は2bp上昇する。CBOは今後10年で連邦債務のGDP比率が20ポイント上昇するとみており、それは長期金利の40bp上昇を意味する。債務負担が増大するにつれ、財政政策に金融政策が支配される「財政従属」という解決策に陥るのではないかと投資家は不安を募らせる。

著名な経済学者ルディガー・ドーンブッシュ氏が指摘する通り、金融危機が到来するには予想よりずっと長い時間がかかるが、いざ発生すれば、予想以上に急速に進行する。実際にそれが起きれば、信頼喪失と長期金利急騰で財政状況は持続不可能となり、1990年代以降見られなかった「債券市場の自警団」が再び姿を現すことになるだろう。

(ニューヨーク連銀の前総裁、ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。米暗号資産交換業者コインベース・グローバルの諮問委員会メンバーでもあります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Ignore This Bond Market Slump at Your Own Peril: Bill Dudley(抜粋)

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