中国本土で投資家の海外株投資ニーズ拡大と当局による資本流出抑制策がぶつかっている。

推計1兆米ドル(約159兆円)規模の未承認資金が昨年、国外へ流出したことを受け、当局は投資家による中国資本規制の回避を支援したとして、海外取引プラットフォームに対する大規模な取り締まりに乗り出した。

この動きはすでに証券会社や投資家に動揺を与えており、本土投資家による海外市場へのアクセス手段を変える可能性がある。

海外株取引を巡るルールはどうなっているのか

中国政府は数十年にわたり国外への資本流出を制限してきた。特に資本逃避によって外貨準備が減少する懸念が高まる局面では、大規模かつ急激な越境資金移動を防ぐ狙いがある。

個人には年間5万米ドルの外貨購入上限が設けられており、主として海外旅行や教育など、投資以外の用途を想定している。

また、中国国内の個人や企業は、海外証券取引を目的とした人民元の外貨両替も制限を受ける。本土の投資家が海外投資を行うには、厳格な政府監督下にある特別な制度を利用する必要がある。

例えば、香港株や特定金融商品への投資を目的とした南向き「ストックコネクト」や、香港とマカオ、広東省にまたがる粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)対象の「ウェルスマネジメントコネクト(理財通)」といった制度がある。

これとは別に、適格国内機関投資家(QDII)制度では、本土投資家が投資信託を通じて世界市場に投資できる。また、越境のトータル・リターン・スワップ(TRS)は、機関投資家が証券会社経由で海外証券を取引する際によく利用されている。

個人投資家も、中国本土・香港ファンド相互承認制度を通じて、一部の香港上場株式に投資できる。

こうした認可済みルート以外で、中国証券監督管理委員会(証監会)など規制当局の承認を得ずに行う海外取引は違法と見なされており、今回の取り締まり対象となっている。

中国当局はどのように違法な海外取引を取り締まっているのか

無認可の海外証券会社は2022年以降、中国本土の投資家に対し新規口座開設を支援することが禁じられている。

5月22日には、8つの政府機関が共同で法執行キャンペーンを開始し、規則違反を行った証券会社に厳しい処分を科すと警告した。当局はこうした企業に対し、マーケティングや資金決済、技術支援、顧客サポートを含む事業チェーン全体で、中国本土顧客との接触を禁止した。

主導するのは証監会で、消費者保護や銀行監督を担う国家金融監督管理総局も加わる。中国人民銀行(中央銀行)や中国のインターネット・情報技術当局も関与している。

香港の富途店舗

今回の取り締まりでは、この分野で最大級かつ最も活発な証券会社3社がすでに対象となった。富途控股と長橋証券に加え、シンガポールのUPフィンテック・ホールディングが傘下に置く老虎証券だ。新たな購入や追加入金が認められなくなり、2年以内に中国本土向けウェブサイト・アプリ・サーバーを全面閉鎖する必要がある。

現時点では、香港やシンガポールの永住権を持つ中国人や、投資・就労ビザ(査証)保有者に対して、取引の強制終了は求められていない。

中国はなぜ違法な海外取引を取り締まるのか

違法ルートを利用することで、投資家は中国の資本規制を回避できていた。資本規制は為替変動を抑制し、金融安定を維持するために導入されている。

越境資本移動を管理する多くの国と同様、中国も資産バブルと、その後に起こりがちな急落を警戒している。いわゆるホットマネーの流出、すなわち資本規制を回避した資金流出は昨年、1兆400億米ドルに達した。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)がまとめた指数によれば、これは2006年の統計開始後最大。

当局はまた、こうした証券プラットフォームが中銀による取引データ監視能力を損なっているとも主張。その結果、マネーロンダリング(資金洗浄)や詐欺など違法行為が見逃される恐れがあり、紛争発生時に規制当局が投資家を保護する余地も小さくなるとしている。

中国政府は国内市場への資金回帰も促している。2025年にはキャピタルゲインなどの海外所得を対象とする大規模な徴税強化策を打ち出した。

投資家はどのように規制を回避しているのか

2022年に海外証券会社による本土投資家の受け入れが禁止された後も、抜け穴は残っていたようだ。

最も簡単な方法の1つが、5万米ドルの年間外貨購入枠、いわゆる「コンビニエンスクオータ」の利用だ。銀行は顧客に資金用途に関する誓約書提出を求めているが、執行は徹底されておらず、最終的に富途などのアプリを通じた海外株取引へ流入する送金が見過ごされていた。

より大きな資金を海外へ移すため、地下銀行ネットワークを利用する投資家もいる。当局は数十年にわたり根絶を試みてきたが、最近の全国的な摘発では100を超えるネットワークが閉鎖された。

これらは越境資金をマッチングする仕組みで運営されている。利用者は本土で人民元を仲介業者へ支払い、本土外のパートナーが同額の外貨を提供することで、国内銀行システムを回避する。

別の方法としては、香港拠点の保険会社の商品を人民元で購入し、その後解約して外貨で返戻金を受け取る手法もある。

投資家と市場への影響は

取り締まり対象となった証券会社への影響は即座に表れた。富途の米国預託証券(ADR)は5月22日の米市場で28%急落し、UPフィンテックのADRも25%余り値下がりした。

ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、富途の創業者で最高経営責任者(CEO)の李華氏の資産はわずか1日で17億米ドル減少し、47億米ドルとなった。

中国企業のADR全般が売り圧力にさらされ、ナスダック・ゴールデン・ドラゴン・チャイナ指数は、当局の取り締まり強化発表後に下落した。

香港に上場していない企業のADRは特に脆弱(ぜいじゃく)とみられる。本土投資家はこれまで、中国の格安通販アプリ「Temu」を運営するPDDホールディングスなどの株式購入にグレー市場のルートを利用してきた。

一方、アリババグループなど多くの中国大手企業は香港にも上場しており、ストックコネクトなど認可済み制度を通じて投資できる。そのため今回の取り締まりは、米国に上場している中国企業に対し、本土に近い市場への上場を促す圧力を高める可能性がある。

香港株式市場への影響は比較的限定的となり得る。中信証券(CITIC証券)は、本土投資家が富途と老虎の取引アプリ経由で保有する香港資産を2000億-2500億香港ドル(約4兆-5兆円)と推計しているが、株式投資に充てられているのはその一部に過ぎない。

これに対し、香港株式市場では1営業日当たり約2600億香港ドルの株式が売買されている。

原題:Why China Is Tightening Controls on Overseas Trading: Explainer(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.