英消費財大手ユニリーバのフェルナンド・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)が社内会議を始めるやり方は、企業競争力の低下を恐れる経営者たちの心理をよく表している。

フェルナンデス氏は昨年参加したイベントで業界アナリストにこう明かした。「私はハローと言う前に『数量の増大、良好な商品構成、継続的な利益率拡大を通じた為替に左右されない利益成長』を口にする」。

奇妙なあいさつの仕方だと認めつつ、フェルナンデスCEOは社員に何が重要かを理解させる方法だと自認している。求めているのは結果であり、その結果に社員が責任を負うということだ。

こうした考え方自体は、ビジネスの世界で目新しくはない。ただ、フェルナンデス氏のようなアプローチは、過去10年の企業文化とは対照的だ。当時は労働力不足を背景に、経営陣は内心は社員にもっと働いてほしいと望みつつ、共感や温かみを前面に出そうとした。

しかし人工知能(AI)の脅威が迫る現在、すでに低迷しつつあるホワイトカラーの労働市場では雇用主の力が強まりつつある。主要業界では、これまで口にしなかった本音を公然と語るCEOが増えており、その姿勢を人員削減で強調するケースもしばしばだ。

世界最大の食品メーカー、ネスレのフィリップ・ナブラティルCEOは昨年の就任早々、投資家とアナリストを前に、「われわれは人材と社員を容赦なく評価する」と誓った。米銀シティグループのジェーン・フレーザーCEOは行員に対し、努力ではなく結果で評価されると念を押した。

「フェイスブック」や「インスタグラム」を展開する米メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグCEOは2025年、社員に対し「厳しい」1年を前に「気を引き締める」よう呼びかけている。

日用品・工業品メーカー、米3Mのビル・ブラウンCEOは、自社文化を語る際に「容赦ない」という言葉を繰り返し使う。肥満症治療薬「ウゴービ」や糖尿病治療薬「オゼンピック」で知られるデンマークの製薬会社ノボノルディスクや英銀HSBCホールディングスなどの経営陣も同様に率直な姿勢を示している。

ネスレのナブラティルCEO

あらゆる業界に共通するコンセンサスはこうだ。平凡な成果に昇給や昇進、フリードリンクで報いる時代は終わった。市場シェアや業績、株主リターンで競合に後れを取る企業においては、なおさらだ。

焦点は「パフォーマンスカルチャー(成果主義文化)」の構築にある。そこでは社員への期待値が引き上げられ、平均的な人材は排除されるリスクにさらされ、経営陣は効率性を阻む官僚的な仕組みにしびれを切らす。

スイスのネスレを率いるナブラティル氏は昨年10月、「われわれは、より迅速かつ機敏に動き、もっと大胆に意思決定する企業になりたい。そして成果主義の一部として、結果を出す人材を会社に残すことを確実にする」と投資家に語った。

ネスレでは1万6000人、ノボノルディスクでは9000人の人員削減が実施されており、会社に残っている社員には警告として機能する。

時には、露骨なメッセージが発せられる。

メタが昨年10月にAI部門で600人を削減した際、ザッカーバーグ氏側近の1人は、残る社員一人一人の「負荷はより大きくなる」と述べたが、重みはさらに増しそうだ。同社は先月、従業員の10%を削減し、6000人の欠員を補充しない方針を発表した。

プレッシャーが高まっている

こうした削減や低パフォーマンス社員への厳格な対応と並行し、経営陣はより野心的な財務目標を掲げることも多い。ユニリーバでは、フェルナンデス氏が新たな売り上げ目標を設定し、管理職向けボーナス(賞与)制度も見直した。

個別事業部門の成果への連動性を高め、現地通貨の相場変動から影響を受けにくくすることで、業績低迷の言い訳をできないようにした。

米S&P500種株価指数を構成する企業で経営陣が決算説明会や企業文書でパフォーマンスカルチャーという表現を使った回数は昨年633回に達し、過去4年平均の約460回から増加した。経営陣が市場や社員に対し、業績改善に本気で取り組んでいることを端的に示す言い回しとなっている。

高まるプレッシャー

こうした企業カルチャーの変化は、CEOの交代で始まることが多い。多くの場合、HSBCのジョルジュ・エレデリー氏のように内部出身者で、行内・社内の問題点を把握し、潜在力の所在や、それを引き出す人材が誰かを理解している場合が多い。

エレデリーCEOは昨年12月のブルームバーグとのインタビューで、「私は20年間この銀行に在籍し、多くの地域や事業で働き、機能を担ってきた。経験と広範な行内ネットワークを築いており、多くの同僚から意見や懸念、アイデアを受け取ってきた。私は複雑性を排除することに容赦がない」と語った。

HSBCのエレデリーCEOが語る

成果主義は、競争圧力や株価低迷がきっかけになることも多いが、業績が順調でもCEOがさらに高い基準を求める場合がある。

プエルトリコの銀行バンコ・ポプラールの親会社の株価は過去5年間、主要株価指数を大きく上回ったが、2014年に入行し昨年7月にCEOへ就任したハビエル・フェレール氏は、成果主義推進に対し行員から驚きの声が上がることがあると語った。

同氏は今年3月のインタビューで、「『非常にうまくいっているのに、なぜ変える必要があるのか』と彼らは言う。それも1つの考え方だが、私としては『うまくいっているが、もっと良くできたら素晴らしいのではないか』と言いたい」と述べた。

「ネスプレッソ化」

ネスレでナブラティルCEOが引き継いだのは、膨らんだコストや鈍化する売上高、長年の株価低迷、さらに前CEOが社内恋愛問題で解任されたことに動揺する社員だった。

同社は長年、市場シェアの低下を容認し、社員が「平凡な成果で報われる」文化を続けていたと、ナブラティル氏は昨年10月に公開された動画で語った。

ナブラティル氏を含め「ネスプレッソ」事業の出身者は以前から、自分たちはネスレ本体とは異なる働き方をしていると考えていた。より速く、より創造的で、より起業家的であり、その結果、家庭でバリスタ品質のコーヒーを飲める製品を提供することで業界を変革した。ナブラティル氏主導で、ネスプレッソは米国への投資を3倍に増やし、比較的若い顧客の獲得にも成功した。

今では「キットカット」やペットフード「ピュリナ」、「マギー」製品などを製造する335工場、27万1000人の従業員を抱える巨大組織全体に、ネスプレッソのような緊張感と革新文化を浸透させようとしている。「ネスプレッソは、会社全体としてやるべきこと、そしてより速く実行すべきこと全ての比喩だ」とナブラティル氏は動画で指摘した。

ネスプレッソのイノベーション文化を導入しようと同氏が挑んでいるのは、社員が目標を達成できなくてもほとんど問題視されず、ボーナスも満額かそれに近い水準で支給されるのが当たり前だったシステムだ。

現職および元ネスレ幹部によると、従来は数値目標以外の主観的評価や、外部要因に左右されることも多かった。そのため、多くの社員は自身のパフォーマンスがどのように評価されているのか分からず、成績不振の社員も容易に釈明できる環境だったという。

現在では、人事評価で最低ランクの「不満足」と判定された社員は、ボーナス目標額の最大半分しか受け取れず、場合によってはゼロとなる。

一方、優秀な社員は目標額の最大150%を受け取る資格を得る。従来の上限は130%だった。ハイパフォーマンスを重視するCEOが、評価によって社員の報酬格差を大きくするのは一般的な手法だ。

ネスレ関係者によれば、目標をどう達成させたかは以前ほど重視されなくなる。従来は社員が何を達成したかと同じくらい、行動や振る舞いも重要視されていたと制度変更に詳しい関係者は説明。メッセージは明確だという。結果を出せ、そして周囲とうまくやろうと以前ほど気にするな、ということだ。

ナブラティル氏は動画で「私は少し競争心が強い。ネスレにはその競争心を取り戻す必要がある」と訴えた。

改革を歓迎するネスレの関係者もいる。ナブラティル氏と1日を過ごしたあるアナリストはブルームバーグに対し、「彼は本物のリーダーだ」と話した。

一方で、前途は厳しいとみる向きもある。これまでのところ、ネスレの株価はスイス取引所の主要指数を下回るパフォーマンスとなっている。

パリにあるESCPビジネススクールの経営学教授で、企業文化と戦略の関係に詳しいフレデリック・フレリー氏は、「ナブラティル氏はネスレをネスプレッソ化しようとしているが、会社全体にその準備ができているかは分からない」と分析。「こうした変革を実行するには、危機感を醸成する必要があるかもしれないが、それはネスレの企業風土ではあまり一般的ではない」との見方を示した。

社員により速く、より懸命に働くよう求めるだけでは不十分だ。フレリー氏によれば、パフォーマンス重視の文化は、具体的に何をすべきかの指針なしには理想から現実へ移行できない。

ネスプレッソ店舗(スイスのベルン)

フレリー氏は、「CEOが『企業文化を変える』と言うのを聞くたびに驚かされる。それはCEOにとって、最も成し遂げるのが難しい仕事の1つだ」と話した。

自分にはそれが可能だと考えているのが、ノボノルディスクのマイク・ドゥスターCEOで、組織のフラット化と意思決定の迅速化を進めている。

同社は400億ドル(約6兆4000億円)規模の肥満症治療薬市場で先行者利益を得ていたが、米イーライリリーとの激しい競争や、より安価な後発薬の登場によって、株価は過去1年で3分の1余り下落した。

ノボノルディスクの経営権を握る財団は昨年8月、当時のCEOを解任し、勤続33年のベテラン、ドゥスター氏を同社初の非デンマーク人トップに起用して、挽回を図った。

同氏はすぐに社内のカルチャーが硬直化していると診断した。昨年11月の投資家会議では、「なぜ会議を5回も開かなければならないのか。なぜ意思決定に3つの委員会が必要なのか」と述べた。今年2月にはブルームバーグに対し、社員は「会議資料の枚数ではなく、患者へのインパクト」で評価されるようになると語った。

ノボノルディスクのドゥスターCEO

イラン生まれのドゥスター氏は、キャリアの大半をノボノルディスク本社から遠く離れた海外部門の運営に費やしてきた。同社で働いた経験のある関係者によると、コペンハーゲン近郊の居心地の良い本社では、社員は7月の大半を休暇に充て、午後4時には終業することも珍しくなかった。

他社から転職してきた社員には、肥大化して閉塞(へいそく)的な企業文化にみえることも多かったと、元幹部は話す。意思決定は伝統的に合意形成によって行われ、反対意見は胸の内にしまっておくのが望ましいとされていた。一部では皮肉を込めて「ノボ・ナイス」と呼ばれていたという。

しかし、今それが変わりつつある。ドゥスター氏は最近のインタビューで、「間違っているかもしれないと分かっていても決断できる。私は決断する」と述べ、「全会一致の意見は不要だ」と語った。

マスク氏のように

スピードを高めるため、ドゥスター氏は前任者の下で分離されていた研究部門と開発部門を再び統合した。同氏によれば、この措置によって部門間の壁が取り払われ、医薬品が研究室から市場へ至る各段階の間に生じる時間が短縮された。また、上級副社長の数を半減し、社員に週5日の出社を命じた。

リモートワークが広く受け入れられていた会社にとって、新たな出社義務は衝撃だった。

全社会議で一部社員が出社義務化の合理性に疑問を呈すると、ドゥスター氏はアマゾン・ドット・コムやテスラの週5日出社方針を引き合いに出したという。電話会議に参加し、その後退職した2人の関係者が明らかにした。別の元社員は、ドゥスター氏について「イーロン・マスク氏のように話そうとしている」と語った。

ドゥスター氏は、自らを「勝利を目指す戦士」と位置付けており、その戦略には米国人のジェイミー・ミラー氏や、中国生まれでドイツ国籍のホン・チョウ氏ら非デンマーク人を上級幹部職に登用することも含まれる。

ESCPビジネススクールのフレリー氏は、成果主義文化を浸透させようとするCEOにとって、人材刷新は常套(じょうとう)手段だと説明する。「頭の中身を変えるより、頭そのものを入れ替える方が簡単」とのことだ。

改革の成果として、ドゥスター氏はウゴービの錠剤版を米市場へ速やかに投入できたことを挙げた。イーライリリーに数カ月先んじたという。

ノボノルディスク本社

しかし、ドゥスター氏にとってここまでは試練の連続だった。ノボノルディスクは肥満症の次世代治療薬の試験結果が期待外れに終わり、今年の売上高が減少するとの見通しを示した。

さらに、過去30年間にわたり同社を支えてきた糖尿病および肥満症事業への依存から脱却し、多角化を進めるよう求める声も強まっている。

同社の株価は今年1月に400クローネを超えた後、大きく下落しドゥスター氏就任時とほぼ変わらない水準にある。

コペンハーゲンの一般社員らは、ドゥスター氏が繰り返しメディア対応を控えるよう警告していることから、目立たないようにしているという。そうした警告を聞いた後で退社した元社員が語った。

ビジネス向けSNS「リンクトイン」ではレイオフ(一時解雇)対象となったノボノルディスク社員グループの参加者が4000人近くに増え、求人や助言、社会的支援の情報を共有している。

最近辞めたある社員は、もはや以前と違う会社になったと感じていると打ち明けた。それこそがドゥスター氏の狙いなのかもしれない。

従業員の理解

企業社会全体に成果主義文化が広がることで長期的にどのような影響が生じるかは、まだ分かっていない。しかし、その変化は大きな衝撃を伴う可能性がある。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期にようやく企業経営者が関心を強めた社員のメンタルヘルスは、再び軽視されるかもしれない。

仕事と生活の両立を求める人々は、より多くを会社に差し出す意思のある働き手に押し出され、キャリアの機会を失う公算が大きい。スイスのIMDビジネススクールでリーダーシップと組織論を教えるベン・ブライアント教授は、「本当の問題は、成果を追求する中で何が犠牲になるのかだ」と論じた。

ポプラールのフェレール氏は、さらなる努力に価値があると行員に理解してもらおうとしていると言う。「まず、彼らにこう伝えなければならない。私はあなたにより多くを期待している。挑戦を与える。同時に支援もする。私はあなたを信じている。あなたならできる。だが、やり遂げられなければ結果が伴う」。

昨年7月に就任したフェレール氏によると、この緊張感を受け入れた行員もいれば、すでに十分努力していると感じていた行員もいた。しかし、行員は想像以上に変化を受け入れるものだという。主要部門の制度変更では当初不安が広がったものの、その部門の従業員エンゲージメント調査のスコアは上昇した。

その背景について、チーム自らが課題を認識し、より高い基準で評価されることを望んでいたからだというのがフェレール氏の見立てだ。同氏は「従業員自身が変化を求めているケースもある。彼らは『ようやく誰かが自分の話を聞いてくれた』と言うかもしれない」と述べた。

原題:CEOs Drop Warm and Fuzzy in ‘Ruthless’ Push to Squeeze Workers(抜粋)

--取材協力:Fabienne Kinzelmann、Sanne Wass、Sonja Wind.

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