22日に就任宣誓したウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長はかねて、新議長として連邦準備制度に「レジームチェンジ(体制の変革)」をもたらす意向を表明してきた。

しかし、ウォーシュ議長単独で変革できることには限界があり、大規模な改革を断行できる分野であっても、控えめに行動する方が賢明かもしれないと、FRBウオッチャーは指摘している。

政策金利の変更や、連邦準備制度の6兆7000億ドル(1064兆円)規模のバランスシートの見直しなど、最も重要な決定事項を巡っては、ウォーシュ氏は連邦公開市場委員会(FOMC)の支持を得る必要がある。

記者会見の頻度のように、FRB議長が全面的な裁量権を持つ分野もあるが、連邦準備制度の対外発信や政策決定の重要な側面を大きく変更する際には通常、他の当局者からも意見の提示がある。

仮にウォーシュ議長がこうした慣例に逆らい、幅広い支持を得ないまま大幅な変更を押し進めれば、重要な局面で味方を欠き、影響力も弱まる可能性があると、複数の元FRBスタッフは論じている。

パウエル、イエレン、バーナンキの歴代FRB議長の顧問を務めたジョン・ファウスト氏はウォーシュ議長について、「彼がまず取り組む主な課題の一つは、適切な場面で利下げに向けたコンセンサス形成を図ることだろう」と話す。

その上で、「それが最優先事項なら、FOMCとの関係をわざわざ悪化させようとはしないだろう」と述べ、「可能な限り良好な関係を築こうとする動機が働くものと考えられる」と語った。

政策金利

ウォーシュ氏を議長に指名したトランプ大統領は、同氏に利下げを期待していることを公言している。ウォーシュ議長は政治からの金融政策の独立を維持すると表明しているが、実際に利下げを望む場合、FOMCで投票権を持つ他の11人のメンバーの過半数を説得する必要がある。

そして現時点では、それは容易ではなさそうだ。

米国とイスラエルによるイランとの戦争を背景にインフレが加速する一方、労働市場には安定化の兆しが見られ、当局者らは金利を据え置くことに安心感を示している。金融当局の次の一手について、利下げと同程度に利上げの可能性もあるとのシグナルを発するべきだとの声も当局者の一部から上がっている。

バランスシート

ウォーシュ氏は以前から、連邦準備制度の資産ポートフォリオ圧縮を支持してきた。ただ、市場の混乱を避けるため、保有資産を減らす計画は段階的に進める必要がある。また、金利決定と同様に、バランスシート政策の変更にはFOMCの承認が必要となる。

連邦準備制度は直近のバランスシート圧縮局面を昨年12月に停止し、その後は短期金融市場が円滑に機能するのに十分な流動性を確保するため、米財務省短期証券(TB)の購入を続けている。保有資産の圧縮再開には、まずFOMCがFRBスタッフに対し、複数の戦略について調査を指示する必要がある。その後、当局者が選択肢を協議し、方針を採決する流れとなる。

FRBはまた、銀行が連邦準備制度に預ける準備預金の水準に影響を与える一部規制を変更するため、他の規制当局と連携する必要がありそうだ。銀行の準備預金需要を引き下げれば、連邦準備制度はバランスシートをさらに圧縮しやすくなる。

フォワードガイダンス

ウォーシュ氏は上院銀行委員会の指名承認公聴会で、一般市民や投資家に向けた連邦準備制度の情報発信には「大きな変更」が必要だと証言した。同氏は政策の方向性を示すフォワードガイダンスについて、事前に定められた道筋に当局を縛ることになるとして、提示すべきではないとの考えを示している。

当局者による経済成長率、失業率、インフレ率の見通しを示す主要な情報発信ツールである四半期経済予測について、ウォーシュ議長が独断で廃止したり、縮小したりできるのかは不透明だ。この件に関する問い合わせに対し、FRB報道担当者はこれまでのところ返答していない。

元FRB調査統計局長で、現在はブルームバーグ・エコノミクス(BE)で米経済調査部門トップを務めるデービッド・ウィルコックス氏によると、バーナンキ元議長が2007年にこの経済予測を導入した際には、他の当局者とのコンセンサス形成を図ったという。

「委員会の中で、自分の意見が聞き入れられず、慎重に検討されなかったケースは1人もなかった」と、ウィルコックス氏は振り返る。連邦準備制度は12年、金利予測分布図(ドット・プロット)と呼ばれ、図表で公表されるフェデラルファンド(FF)金利の適切な経路に関する当局者見通しを経済予測に追加したが、これも広範な内部協議を経て実施された。

また、4月のFOMC会合で示されたように、会合後の声明に含まれるガイダンスが自らの見解を反映していないと判断すれば、当局者は声明に反対票を投じることもできる。このため、FRB議長には可能な限りコンセンサスを形成する役割が求められる。

米ブルッキングズ研究所ハッチンス財政・金融政策センターのデービッド・ウェッセル所長は、FOMC内部の意見対立を招いて、声明の文言を巡り5人もの反対票を招くようなやり方をウォーシュ議長が望むとは思えないと語った。

記者会見

ウォーシュ氏はFRB議長として、記者会見を開く頻度や、公の場で発言する回数、その内容を自ら決めることができる。だが、FRB理事や地区連銀総裁がどの程度発言するかに関しては、同氏にコントロールする権限はない。また、記者会見の頻度を減らせば、連邦準備制度の方針を巡って投資家の混乱を招き、金融市場の変動性を高める可能性があると、アナリストは指摘している。

加えて、ウォーシュ氏には、毎回のFOMC会合後に最初に発言する当局者としてのアドバンテージを維持したいと考える理由もある。元顧問のファウスト氏は、その立場を手放せば、政策を巡る説明の主導権を他者に委ねることになりかねないと説明した。

インフレ指標

ウォーシュ氏は先月の指名承認公聴会で、インフレ測定に用いられているデータは「不完全」だとの見解を示した。

連邦準備制度が12年に正式採用した2%の物価目標は、個人消費支出(PCE)価格指数に基づいている。3月の同指数は前年同月比で3.5%上昇した。

ウォーシュ氏は、価格データの外れ値を除外して基調的な動向を把握しやすくする「トリム平均(刈り込み平均)」を重視していると述べている。ダラス連銀が算出する指標の一つでは、3月のインフレ率は前年同月比2.4%上昇だった。

正式なインフレ目標を修正するには、FOMCによる採決が必要となる。ウォーシュ氏はFRB議長として、インフレ分析でトリム平均指標を一段と重視するようFRBエコノミストに求めることは可能だ。

ただ元FRBスタッフによると、当局者は既にこうした指標を確認しており、エコノミストや当局者が精査する幅広いデータの中から、ウォーシュ氏が都合の良いものだけを選び出すのは難しいという。

さらに、個別のインフレ指標は誤解を招く可能性もあると、ファウスト氏は指摘する。パウエル前議長は21年8月のジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)での講演で、インフレ上昇を「一過性」と考える理由の説明で、トリム平均で見たインフレ率に言及していた経緯がある。

原題:Warsh’s Fed ‘Regime Change’ May Require Patience, Consensus(抜粋)

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