対話型人工知能(AI)「ChatGPT」を手掛けるOpenAIは、イーロン・マスク氏との裁判に勝訴し、新規株式公開(IPO)に向けて前進する環境が整いつつある。ただ、競争や経営を巡る課題は残っており、不透明感はなお払拭されていない。

マスク氏によるOpenAIへの法廷闘争は2年以上にわたり、同社の営利企業としての再編やIPO計画に影を落としていた。訴えが退けられた今、同社は数日から数週間以内にIPOを申請し、今秋の上場を目指していると、事情に詳しい関係者が明かした。

年内上場が実現すれば、競合のAIスタートアップ、アンソロピックに先行することになり、投資家獲得競争で優位となる可能性がある。ただ、裁判が終わったとはいえ、OpenAIは依然として法務、競争、事業面での課題に加え、インフレや地政学的不確実性といったマクロ経済要因も重なり、IPO計画に影響を及ぼしかねない。

過去1年でOpenAIを巡る競争は激化した。かつて劣勢とみられていたアンソロピックは、AIエージェントツールの進歩を背景に売上高を急速に伸ばし、企業向け顧客の市場シェアを奪っている。

AIツール「Claude(クロード)」を手掛けるアンソロピックは9000億ドル(約143兆円)超の評価額で新たな資金調達に向け協議しており、OpenAIの直近の評価額を上回る見通しだ。AIスタートアップ勢に後れを取っているとみられていたグーグルも巻き返しつつあり、これが一因となってOpenAIは昨年末に「コードレッド(非常事態)」を宣言し、ChatGPTの改良を急いだ。

アンソロピックが年換算売上高を80倍拡大させたとして話題を集める一方、OpenAIは製品ラインアップの見直しや経営陣の大幅変更を進めている。また、一部の売上高目標やユーザー目標を達成できなかったとの報道を受け、成長を巡る新たな疑念にも直面している。

ただ、OpenAIのサラ・フライアー最高財務責任者(CFO)は、同社は目標を達成しており、自社製品には「垂直の壁」を上るような需要があるとブルームバーグに語った。

OpenAIはAIコーディングエージェント「Codex」で勢いを得ており、ユーザー数は週400万人を超える。最新モデル「GPT-5.5」もおおむね好評で、ChatGPTは依然としてAIの代名詞だ。また、膨大なコンピューティング能力の確保に早くから動いたことが強みになっていると説明している。一方、アンソロピックは制約に直面し、対応可能な顧客数が限られていた。

ただ、AI業界で時に言われるように、最終的には全て「空気感」次第だ。この1年のさまざまな局面で、OpenAIを巡る空気感は悪化しているように見える。マスク氏との裁判はOpenAIが勝訴したとはいえ、数週間にもわたる証言で同社上層部の内部対立が蒸し返されたことも追い打ちとなった。

Photographer: Daniel Heuer/Bloomberg

複数の同社元幹部が、サム・アルトマン最高経営責任者(CEO)の経営手法や信頼性への懸念を語り、これが2023年に同氏がCEOを一時解任される原因となった問題を再浮上させた。同氏はOpenAIに直接の持ち分はないと長く説明してきたが、裁判では同社と取引のある企業に対する同CEOの金融資産保有も新たに明らかになった。この問題は、共和党が主導する米下院監視・政府改革委員会も調査している。

アルトマン氏はCEOとして同社の目覚ましい成長を率い、OpenAIにとどまらずAI業界全体の顔となってきた。一方、OpenAIを上場企業として運営する上での経営業務の一部にはほとんど興味がないとも以前に語っており、同社の次なる成長段階について「優れた人材を一人もしくは数人採用するか、違うやり方で進める方法を見つける必要がある」と述べている。

経営のかじ取りを支える最有力候補とみられていた幹部陣にも変化が見られる。OpenAIの事業運営を率いていたフィジー・シモ氏は、4月上旬、健康上の理由で休職を発表。復帰時期は明かされていない。

また、ブラッド・ライトキャップ元最高執行責任者(COO)は、特別プロジェクトを担当する新たな役割に移った。同社では現在、フライアーCFOやグレッグ・ブロックマン社長、デニス・ドレッサー最高収益責任者(CRO)ら複数の幹部が日々の運営を担う。ドレッサーCROは比較的最近採用された人物で、以前は職場コミュニケーションツールを手掛けるスラックのCEOを務めていた。

さらに複雑なことに、マスク氏はOpenAIへの攻勢をまだ諦めない可能性が高い。マスク氏の弁護士マーク・トベロフ氏は控訴する構えを示している。マスク氏はほかにも、競合するAIスタートアップxAIの立ち上げから、OpenAIを支配する非営利組織を974億ドルで買収する提案まで、OpenAIの事業を揺さぶる手段を講じてきた。ただ、この買収提案は最終的に不成立に終わっている。

マスク氏は今回敗訴したものの、間近に控えるxAIの上場でOpenAIに先んじる格好だ。この上場は、赤字のAI事業をロケット企業と組み合わせるという、OpenAIにはない選択肢を使った。とはいえ、OpenAIもIPO計画が具体化したことで、マスク氏から注目を奪う可能性がある。

原題:OpenAI Faces IPO Unknowns Even After Victory Over Elon Musk(抜粋)

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