(ブルームバーグ):大企業の大半では、単純な意思決定プロセスが、委員会や小委員会での検討、さらに会議の連続という苦痛のプロセスに変わっていきがちだ。しかも段階を踏むごとに、当初あった勢いはそがれ、責任の所在もあいまいになる。これに対してリーダーはどう対処すべきか。
世界中の経営者や意思決定者にインタビューするポッドキャスト番組「Leaders with Francine Lacqua」は、グローバルバンクの一角を占めるHSBCホールディングスのジョルジュ・エレデリー最高経営責任者(CEO)をゲストに迎えた。
従業員の約10%に相当する約2万人が影響を受ける大幅人員削減の検討が伝えられる同行を率いるエレデリー氏は、組織の「複雑性と足かせを排除することに容赦はない」と話し、業績向上の戦略は、統制と俊敏性のバランスをいかに取るかに尽きると指摘した。
潜在力を解き放つ方法
アジアにルーツを持つHSBCは、本社がロンドンにある。事業は諸大陸に広がり、世界最大級の銀行でもあり、運営が最も複雑な企業の一つとも言える組織の中で、エレデリーCEOは大幅な合理化を進めてきた。
レバノンで子供時代を過ごし、日本や欧州、中東などでキャリアを築いてきたエレデリー氏は真のグローバル市民でもある。8カ国語を話し、1860年代に設立された香港上海銀行が母体のHSBCにおいては、中国語を話す初のCEOだ。
「HSBCで20年を過ごしてきたが、地球上で私がこれほど長くとどまった場所は他にはない。HSBCへの私の帰属意識は、特定の場所に対する物理的な愛着を上回る」という。つまり、HSBCが同氏にとっての「ホーム」だ。2024年のCEO就任以降、大規模な改革を進めている。
HSBCには「巨大な潜在力」があり、それを「解き放つ」必要があるとエレデリー氏は語る。これを邪魔する組織の官僚主義や肥大化を抑えるため採用している4段階のアプローチは以下の通りだ。
ステップ1:集中
エンジニアを目指した経験があるエレデリー氏に大企業が官僚主義に陥りがちな理由を尋ねると、学校で学んだエントロピー(システムの複雑性を増す無秩序)の話に言及した。「何もしなければ、減少するどころか増大する傾向にある」という。「つまり、物事は意図的に複雑になるわけではない。焦点が定まらないことで、結果として複雑になってしまう」と説明した。
複雑性を排除して簡素化に注力すると宣言するだけで、「これに対処し始めることができるようになる」と話した。
ステップ2:簡素化
ここでもエンジニアとしての訓練に立ち返り、第一原理に戻って「何が複雑さを生み出したのか?どうすれば体系的に対処できるのか?」と問う必要があると述べる。そうして初めて、簡素化に着手できるという。
「シンプルにする方法の一つは、特定のことをやらないと決めることだ。だからこそ、私たちは多くの活動から撤退した」と語った。リーダーがこうした決定を下すために必要な情報は、通常、現場から上がってくるものだと付け加えた。
ステップ3:改革を実行する
事業全体を体系的に精査し、簡素化すべき部分を特定したら、次は実行に移す段階だ。物事を第一原理にまで分解するプロセスとは異なり、構造的な変革に関する意思決定にはトップダウンのアプローチが必要だと述べた。
エレデリー氏がまず実施した構造改革は、HSBC運営委員会の簡素化だった。「20名以上から12名へと縮小した」という。
さらに重要なのは、HSBCが「責任の所在が不明確な状態」から脱却した点だと語った。以前の経営体制下では、各事業部門を共同責任者が率いるため、「あらゆる業務において二重あるいは多重の責任体制」が存在していた。
現在、同行の収入の約6割は、単独で責任を負うリーダーが率いる各事業部門から生み出されているという。
ステップ4:忍耐強くあること
エレデリー氏による改革に後押しされ、HSBCの株価は2月に過去最高値を更新した。しかし、そこに到達するまでには18カ月を要した(エレデリー氏は2024年9月にCEOに就任)。同氏には、まだ成し遂げたいことが残っている。
改革の渦中にいるリーダーたちには忍耐を説きつつ、エレデリー氏は人工知能(AI)を活用して改革を加速させる道筋が見えていると語った。 AIツールのおかげで、コードの修正といった作業は1年前と比べて10倍の速さで完了できるようになった。12月に取材した際、HSBCではすでにコンタクトセンターからウェルスマネジメント、マーケティングに至るまで、17万人以上の従業員に生成AIを導入していると述べていた。
さらなるステップ
大企業では組織構造の抜本的な見直しを行う場合、通常よりもさらに多くの会議が必要になる可能性が高い。エレデリー氏のアドバイスは、たとえ焦りを感じても、その都度決断を下すことだ。
「稚拙な決断であっても、下さないよりは常にましだ。なぜなら、稚拙な決断ならいつでも修正し、方向性を合わせ、適応させることができるからだ。決断がなされなければ、組織の麻痺を招く」。

原題:HSBC CEO’s Plan for Dismantling a Bureaucracy: Management & Work(抜粋)
--取材協力:Andrew D'Ercole.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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