香港で前例のない規模に膨らんだ不良債権の処理を担う銀行員が、従来の穏便な対応をやめ、強硬手段に踏み切っている。

そうした役割を担うバンカーは200人未満だ。香港の金融業従事者の0.07%にも満たないが、いわゆるスペシャルアセット担当の銀行員が直面する課題は大きく、総額2000億香港ドル(約4兆円)に上る焦げ付き債権の削減を迫られている。

香港の不良債権比率はここ20年で最悪の水準に上昇している。十数人の関係者によると、こうした専門家が舞台裏で担保資産の売却や借り手の清算手続きへの移行といった最終手段に頼るケースが増えている。

背景には商業用不動産での損失があるという。金融機関は景気回復局面で新規融資の原資を確保するため、評価損計上の好機と捉え、これらの部門の拡充を進めている。こうしたチームはスペシャルクレジットや回収・債権管理、ワークアウトチームなどとも呼ばれる。

事情に詳しい関係者によれば、香港では少なくとも6行がスペシャルアセット担当の人員を増やしている。

このうち東亜銀行とユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB、大華銀行)香港支店は2024年以降に人員をほぼ倍増させ、中国銀行(香港)と恒生銀行(ハンセン銀行)も、すでに10人強だったチームに数人を追加した。関係者はいずれも非公開情報であることを理由に匿名を条件に語った。

UOBの広報担当者は、課題を抱える顧客と建設的に協力しつつ、利害関係者の利益を守っていると説明した。中国銀と恒生銀はコメントを控え、東亜銀は取材要請に応じなかった。

空室と供給過剰

シンガポール国立大学(NUS)東アジア研究所(EAI)の客員シニアリサーチフェロー、ジェイソン・ベッドフォード氏によれば、こうした専門的バンカーの業務は借り手が「最も厳しい状況」にある局面に向き合うため、精神的に厳しいものになりがちだ。

中国系銀行に勤務するある銀行員は個人情報に関わるとして匿名を条件に、チームが同時に最大20件の問題債権案件を抱え、数年前の2倍超に増えていると話した。そのため深夜まで働くことが多く、週末も出勤する機会が増えているという。

銀行が最終的に打ち切りを決める案件の多くは商業用不動産に関係している。住宅市場が数十年ぶりの大幅な下落から回復しつつある一方で、商業部門は空室と供給過剰に苦しんでおり、投げ売り的な処分が状況を悪化させている。

こうした環境は、不良債権の処理を進め、新規融資のための余力を確保するために、貸し手がより迅速に行動する必要があるとの認識を強めている。特に大型インフラ案件が控える中で、その重要性は高まっている。

最近数カ月の事例2件が、その緊急性を浮き彫りにしている。銀行側が高級オフィスビルの管理・売却を担う管財人の任命を支援した。

中国銀の香港部門は、九竜地区の旧啓徳空港近くにある25階建ての「HK NEO」の売却を進めるため、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)のパートナーを管財人に指名した。ブルームバーグ・ニュースが確認した資料によると、同行は総額55億香港ドルの融資に関与しており、回収を図っている。

また九竜の別の地域では、東亜銀がオフィスタワー「ワン・ベッドフォード・プレイス」を差し押さえ・売却するため、EYパルテノンのパートナーを起用したことが、同様に資料から明らかになった。

EYパルテノンのグローバル再編チームのシニアパートナーで、30年以上にわたり不良債権に携わってきたデレク・ライ氏は、「待つ段階から行動する段階へと明確にシフトしている」と指摘。「判断は個別案件ごとだが、特に商業用不動産融資では損失を受け入れて前に進む方向に傾いている」と語った。

香港はアジア通貨危機後、規制当局が「困難に対する香港アプローチ」として企業を支援するスタンスを制度化。しかし、不良債権比率が昨年末に2.01%と2004年以来の高水準に上昇したことで、忍耐は限界に近づいている。

イラン戦争

銀行は国際的な最低基準を大きく上回る自己資本比率を維持している。資本は潤沢だが、新たなリスクも浮上している。その一つがイラン戦争で、エネルギー価格の上昇を通じて金利を押し上げ、すでに苦境にある借り手の債務返済負担をさらに悪化させる恐れがある。

各行は人員の強化を進めており、数人規模から数十人までのチームを整備する中で、他行や再編アドバイザリー企業から人材を採用している。関係者によれば、信用リスクの専門家やリレーションシップマネジャーを配置転換する動きもある。

幾つかの大型案件を経て一定の進展は見られるものの、新規オフィス供給の波により空室率は高止まりしている。CBREグループによると、3月末時点の空室率は16.8%と過去最高に近い水準だ。香港取引所への上場ブームに支えられる他のセクターとは対照的だ。

スペシャルクレジット担当のバンカーは融資余力の確保を急ぐ中、破産管財人や弁護士との協働に割く時間を増やしている。中には借り手を提訴するために裁判所に足を運ぶといった新たな経験を積む行員もいる。

EAIのベッドフォード氏は「信用環境が悪化すると、仕事は回収や再編、損失抑制が中心になる」と述べ、「複雑で労働集約的だが、絶対的に重要な機能だ」と強調した。

原題:Hong Kong Bad-Debt Bankers Ramp Up Fire Sales, Liquidations (1)(抜粋)

--取材協力:Janice Huang、Shawna Kwan、Aileen Chuang、Kiuyan Wong.

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