イラン戦争が教えていることが一つあるとすれば、それは海上輸送ルートの武器化が今や軍事行動の常とう手段になりつつあるということだ。アジアでは台湾海峡に注目が集まっているが、米中対立が激化する今、マラッカ海峡も同様に重要だ。

この「シーレーン」は、世界貿易の約4割、中国による原油輸入の約8割が通過するとされ、長らく混乱に対して脆弱(ぜいじゃく)と見なされてきた。東南アジアの分断は、いかなる危機の封じ込めも一段と困難にする。

ホルムズ海峡を巡る米国とイランの対立は、チョークポイント(要衝)がいかに容易に軍事化され、経済的影響がいかにハイペースで広がるかを示した。同じ論理はマラッカにも当てはまるが、ここでは影響がアジア経済の中枢にまで及ぶ点が異なる。

インドネシアとマレーシア、シンガポールの3カ国がマラッカ海峡に面し、共同で管理しているが、自国水域での圧力に対処する共通の枠組みは持たない。現時点での協力は海賊対策や安全確保といった運用面にほぼ限られており、これは地政学的圧力には適していない。

インドネシアと米国との間で進む防衛協力拡大の話し合いは、トランプ政権がこの地域でより大きな役割を模索している可能性を示している。

両国は4月に入り大規模な防衛パートナーシップを発表し、インドネシア領空を通過する米軍機の飛行拡大の可能性について協議した。インドネシア政府は何も最終決定されていないと強調しているが、限定的なアクセスであっても、太平洋とインド洋を結ぶこの回廊において米国の監視能力と戦力投射能力を高めることになる。

ホルムズ海峡を巡る東南アジアの対応は依然としてばらばらだが、シンガポールの姿勢は検討に値する。航行の自由と国際法順守の原則を強調し、イランが求めているホルムズ海峡の安全航行のための通航料支払いは、マラッカ海峡にとって危険な前例になると主張している。

マレーシアのスタンスは異なる。自国船の一部がホルムズ海峡を通過できるよう交渉した。

インドネシアは中国と米国の間でバランスを取り続ける一方、米国との防衛関係強化も模索している。ただし、これは中国にとっては対米協調と受け取られる可能性があり、これまで回避してきた米中対立に、さらに直接的に引き込まれる恐れもある。

マラッカを巡り差し迫った脅威はないが、その地理的位置と世界経済における役割のため、この海峡は米中の緊張に対して特有のもろさを抱えている。

中国のアキレス腱

中国の戦略家は長年、紛争時に米軍が原油輸入の大半を運ぶこの海峡を脅かす可能性を懸念してきた。この脆弱性は、胡錦濤前国家主席が「マラッカ・ジレンマ」と呼んだことで知られている。

米国は海軍力の展開範囲と同盟・友好国のネットワークにより、この地域で中国よりもはるかに大きな戦力投射能力を持つ。

イラン戦争は中国のアキレス腱を浮き彫りにした。台湾や南シナ海、あるいは米中間にある他の緊張を巡り危機が起きれば、マラッカ海峡は米中の争いに巻き込まれ得る。

その影響が及ぶのは中国にとどまらない。混乱は世界のサプライチェーン全体に波及し、エネルギーコストを押し上げ、貿易の流れを遅らせ、世界的な経済ショックを強めるだろう。

中国政府はこのリスクを軽減しようと数十億ドルを投じ、ミャンマー経由のパイプライン建設や中国・パキスタン経済回廊(CPEC)への投資、さらには北極航路の活用まで進めてきた。しかし現時点で、マラッカ海峡の現実的な代替となるものはない。

インドネシアとマレーシア、シンガポールは今こそ、マラッカ海峡の海洋安全保障ガバナンス(統治)に関して統一的なアプローチを採用すべきだ。

東南アジア各国は選択肢の多様化を進めつつあり、これを続ける必要がある。例えばタイは、インド洋と太平洋を結ぶ「ランドブリッジ」を構想しており、理論上はマラッカ海峡を完全に迂回(うかい)することが可能になる。

しかし、こうした取り組みも、マラッカ海峡を管理する国々の結束に代わるものではない。今ある枠組みを強化し、より強固に共同で哨戒を実施するとともに、紛争発生時の対応メカニズムを明確化すべきだ。

何よりも米中双方に対して統一した姿勢を示し、各国が単独で取引する誘惑にあらがう必要がある。個別に取引すれば、集団としての交渉力が弱まってしまう。

それができなければ、マラッカ海峡は国際貿易の新たな争点の一つになるだろう。地政学的競争が激化する時代において、そうした分断のコストは東南アジアをはるかに超えて波及する。世界経済はこれ以上の衝撃に耐えられない。

(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:How Asia Should Deal With the Malacca Dilemma: Karishma Vaswani(抜粋)

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