イラン戦争に伴うナフサ不足について、政府は日本全体として必要な量は確保していると繰り返し訴えている。一方で、樹脂やシンナーなどの供給不足を訴える声が絶えないほか、ナフサ由来の製品で値上げの動きも広がっている。政府と産業界での温度差の背景には、ナフサといっても企業によって必要な種類が異なるなど、生産や調達の現場はより複雑なメカニズムで動いていることがありそうだ。

高市早苗首相は30日、X(旧ツイッター)への投稿で、中東以外からの輸入拡大や在庫の活用により、ナフサ由来の化学製品の供給は「年を越えて継続できる見込み」だと述べた。供給に不安を感じた一部の事業者が通常よりも多く石油製品を発注し混乱を招いた事例もあったとし、前年同月と同じ量を基本とした調達をしてもらうよう周知することを指示したという。

一方で全国建設業協会は同日、ナフサを原料とする建設資材の供給不足などが発生し、「工事の中止や遅延が避けられない状況も発生している」として、政府に対して需給改善などについて要請したと明らかにした。塗料をはじめ、断熱材、防水剤、ポリ塩化ビニル管を中心に出荷制限や受注停止が広がっている。

イラン戦争後に浮上した原油やナフサの供給懸念に対して、これまでに日本政府は迅速に手を打ってきた。備蓄石油の放出を決め、業界団体への安定供給の要請を通じた流通過程での目詰まり解消にも取り組む。ただナフサのサプライチェーン(供給網)は裾野が広く、複雑だ。

神奈川県内の住宅街(25年7月)

原油を精製して作られるナフサを熱分解するとエチレンなどの基礎化学品が得られる。それらの基礎化学品からプラスチック、合成繊維、ゴム、洗剤、塗料などの原料が生産されており、供給不足の問題は建築業界から食品業界まで次から次へと発生し、いたちごっこの様相を呈している。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、「マクロとミクロではずれがある」と指摘。政府が主張するように国全体としてナフサの必要量が確保されていても、企業が必要とする成分や種類と一致しているとは限らないと説明する。

また、ナフササプライチェーンの上流や中流の企業は価格転嫁が十分できなかったり、値上げによって販売量が減少する可能性があるため減産を続け、「一番の下流の部分での日用品などの生産量が急速に細ってしまうのはなかなか収まらない」と指摘した。

木内氏は長期的な対策として異なる種類のナフサにも対応できるよう設備改良を行い柔軟な生産体制の構築を挙げる。また、サプライチェーンの中で情報共有の枠組みを作り、「不要な不足懸念が起きないようにしていく」ことも必要との考えを示した。

値上げラッシュ

ナフサ不足に起因する値上がりは、今後より身近になりそうだ。帝国データバンクが公表した飲食料品の価格動向調査によると、中東情勢の影響で食品包装などで大幅な値上げが相次いでおり、早ければ夏以降に「ナフサ不足を要因とした値上げラッシュの可能性がある」という。

また、企業・消費者団体などが加盟する国民生活産業・消費者団体連合会が実施したナフサの供給不安に関する調査では、食品・飲料メーカーなど102社のうち、44%の企業が既に影響が出ていると回答した。現在の状況が続いた場合、約7割の企業が製品の値上げが必要になるとしている。

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