世界最大級の腕時計見本市「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ」がスイスのジュネーブで4月半ばに開催され、国際的な65ブランドが新作を披露した。ここ1年、関税の影響で混乱を受けた腕時計市場だが、巨大な展示会場は陽気な雰囲気に包まれていた。

    The H.Moser et Cie. Streamliner Pump Black, and the Reebock model that pairs with it. Photographer: Chris Rovzar/Bloomberg
H.モーザーの「ストリームライナー・ポンプ・ブラック」と同時購入可能なリーボックのスニーカー

創造性は桁外れだった。特筆すべきはH.モーザーの「ストリームライナー・ポンプ・ブラック」だ。黒一色のシンプルさを漂わせながら、左下には小さなオレンジ色のポンプボタンを兼ね備える。プッシュするとムーブメント(時計の駆動部分)を巻き上げる仕組みだ。このポンプボタンはリーボックの人気スニーカー「ポンプシリーズ」に着想を得たもので、リーボック幹部にH.モーザーのファンがおり、コラボレーションを打診してきたという。

高級腕時計の堅苦しさを和らげる試みに前向きなH.モーザーは、ポンプというアイデアを形にした。価格は3万1360スイス・フラン(約636万円)。黒または白のスニーカーと腕時計をセットで購入することが可能だ。

こうした発想を見ると、何世紀にもわたり腕時計を作り続けてきたにもかかわらず、メーカー各社がアイデアに枯渇していない理由が分かる。今年の見本市では文字盤に藁やレザー、羽根を用いたマルケトリー(象嵌)をあしらった腕時計が出展された(それぞれショパール、エルメス、グッチ)。パネライは、通常なら原子炉や潜水艦の建造に使われる極めて希少な金属ハフニウムを使った腕時計を披露した。

IWCは白一色の「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー Ceralume(セラルーメ)」を発表した。日中はほとんど判読できないほどだが、全面的に発光セラミック素材が使用されているため、暗闇での視認性は非常に高い。

IWCの「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー Ceralume(セラルーメ)」、1105万600円

こうした刺激的かつ少し風変わりな新作が毎年多数登場するのは興味深い。一方、実際の購入者の多くはシンプルで服に合わせやすいモデルを求める。ロレックスやパテック・フィリップは毎年、十数本の新作を発表するが、店頭で問い合わせが多いのは同じモデルだ。ロレックスが生産終了を認めた青赤ベゼルのGMTマスターII(通称ペプシ)もその一つ。一方、パテックからは10万ドルを超える新作「ノーチラス」が登場した。

世界最大の腕時計見本市「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ2026」がジュネーブで開催され、世界を代表する65メーカーが独創的な新作を披露した。ロレックスやパテック・フィリップなどがつくる最先端の時計の数々を、現地会場から詳しく伝える。

特に印象に残ったモデルは以下の通り。

パテック・フィリップ「ノーチラス」50周年記念プラチナモデル

    Insiders call the Nautilus the “enfant terrible” of Patek Philippe, because with models coming in and out of production, it never does what you expect it to do. Photographer: Chris Rovzar/Bloomberg
業界関係者らはノーチラスをパテック・フィリップの「アンファン・テリブル(手に負えない子ども)」と呼ぶ。生産が開始されたり中止されたり、先が読みにくいためだ

登場から今年で50周年を迎え、超富裕層が争奪する限定3モデルが発表された。ムーブメントにはセンターローターよりも小ぶりのマイクロローターを採用し、全体の薄型化を実現。注目は最小かつ最も高価なモデルで、ケース厚6.9ミリ、ケースサイズ38ミリのプラチナ仕様だ。マイクロローターには50周年のロゴが刻印され、2000本限定。1832万円。

アルピナ「スタータイマー パイロット オートマティック」

40ミリという絶妙なサイズ感

魅力的な腕時計なのに誰が身に着けるのか想像しにくいモデルも多いが、アルピナの新作「スタータイマー パイロット オートマティック」は身近な人に勧めたくなるようなモデルだ。ラ・ジュー・ペレ製ムーブメントを搭載し、発光素材から削り出された数字が立体的にあしらわれ、視認性に優れているほか、大きな日付表示を備える。40ミリというサイズ感も絶妙だ。24万6800円。

ヴァンガート「オーブ」

6時に位置するトゥールビヨンが重力の影響を軽減する

見本市の会場内ではなく、開催中にジュネーブ各地で開かれたサテライト展示で紹介されたモデル。光沢を抑えた金属の曲線美が印象的で、構造も独創的だ。ムーブメントはスケルトン仕様で文字盤側に露出しており、その外周には腕の動きに応じてゼンマイを巻き上げるリング状の自動巻き機構が組み込まれている。リングにはダイヤモンドが埋め込まれており、巻き上げの動きに連動することで、機構のダイナミズムを視覚的に際立たせる。価格は要問い合わせ(非常に高額)。

チューダー「ブラックベイ54」ブルー

魅力的な新色を採用

サイズ感やドーム型の風防などヴィンテージ風の要素が絶妙だ。新色「ブルー」は派手過ぎず、バランスが良い。5000ドル未満のシンプルな時計として非常に優秀だ。ブレスレットタイプが65万4500円、ラバーストラップが62万400円。

ロレックス「デイトジャスト」グリーンオンブレダイヤル

    This Rolex Datejust is mostly the brands proprietary Oystersteel, but has a white gold bezel for a glint of added luxury.  Photographer: Chris Rovzar/Bloomberg
オイスタースチール製だが、ベゼルはホワイトゴールド製で高級感をさらに引き立てている

濃いグリーンのラッカーが施されたダイヤル(文字盤)に、グラデーションが施されている。ミントグリーンのデイトジャストが入手困難となる中、自社のシグネチャーカラーの積極展開は喜ばしい限りだ。ケースサイズ41ミリで173万1400円。スチールベゼルの36ミリは124万1900円。

ヴァン・クリーフ&アーペル「ミッドナイト ユール ディシ エ ユール ダイヨール」

ケースはローズゴールド製で38ミリ

モデル名の「ユール ディシ エ ユール ダイヨール」はフランス語で「ここでの時間と他の場所での時間」を意味しており、デュアルタイム仕様だ。11時と5時の位置に時間表示窓があり、それぞれ異なるタイムゾーンの時刻を表示する。左側にはレトログラード式分針が配置され、0から60まで進んだ後、瞬時に戻る。時刻が切り替わる瞬間にジャンプするように数字が変わる複雑機構「ジャンピングアワー」も採用し、視覚的に楽しい仕組みとなっている。コーヒーブラウンのラッカーダイヤルも印象的。4万8900ドル。

シャネル「J12」

「Coco Game」コレクションで自身の姿が腕時計やジュエリーの至る所にあしらわれていることを知ったら、ガブリエル・シャネル氏は一体どう思うのだろうか

ゲームをテーマとした「Coco Game」コレクションの中で特に印象的だったのは、昔のアーケードゲーム機に登場するようなピクセル化された創業者ガブリエル・シャネル氏が秒針としてあしらわれた「J12 」だ。価格は要問い合わせ。

IWC「インヂュニア」グリーンセラミック

著名デザイナー、ジェラルド・ジェンタ氏の代名詞とも言えるベゼルのビスがゴールドの輝きを放っている

著名な腕時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタ氏がデザインした「インヂュニア」の最新モデルは極めて美しいダークオリーブグリーンのセラミックカラーをまとう。ケースサイズは42ミリだが、着用時は一回り小さく感じられる。352万3300円。

カルティエ「グラン ドゥ カフェ」

カルティエはコレクション「グラン ドゥ カフェ」を2023年に復活させた

ダイヤモンドと金で作られた手彫りの装飾が個別に可動し、身に着けた人の動きに合わせて流れるように揺れ動く。1956年に米女優グレース・ケリーが着用したネックレスで有名になったコーヒー豆のモチーフを再現している。価格は要問い合わせ。

パネライ「アフニオテック ネイビーシールズ」

1000m防水を備える

パネライが主催するネイビーシールズ(米海軍特殊部隊)との特別な「体験」イベントに参加した者だけが入手できる限定モデルで、製造される35本全てが予約済み。一般には入手不可能。ケースはハフニウムを95%含有。

エルメス「ロア」

エルメスの卓越した職人技が生み出す芸術的なダイヤル

レザーのマルケトリーでライオンの顔を表現した。カラーバリエーションは3種類。価格は20万4000ドル。

ヴァシュロン・コンスタンタン「ヒストリーク アメリカン1921」

クラシカルなドレスウォッチの装いと遊び心あふれる独特な斜め配置の文字盤

明るいシルバーの文字盤が、鮮やかなブルーのアラビア数字を華やかに際立たせる。ケースサイズ36.5ミリはスーツの袖口に完璧に収まる絶妙な大きさだ。ブルーのカーフスキンストラップも美しい。36.5ミリが572万円、40ミリが690万8000円。

原題:Rolex, Patek, Cartier Wow at Watches & Wonders 2026: Watch Club(抜粋)

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