(ブルームバーグ):トランプ米大統領が先に次期連邦準備制度理事会(FRB)議長に指名したケビン・ウォーシュ元FRB理事は、米東部時間21日午前10時(日本時間同日午後11時)から、上院銀行委員会の公聴会で証言する予定だ。
ウォーシュ氏はかねて連邦準備制度について、中央銀行としての本来の役割を見失ったとして、「レジームチェンジ(体制転換)」が必要だと主張してきた。公聴会はそのための具体的なプランを示す機会となる。
連邦準備制度は現在、過去数十年ぶりとなる政治的に厳しい立場に置かれている。トランプ氏は、自身の利下げ要求に応じないパウエルFRB議長を強く批判するとともに、クックFRB理事の解任を目指している。
このほか、首都ワシントンにあるFRB本部の改修プロジェクトを巡り、司法省はFRBと昨年6月のパウエル議長の議会証言について刑事捜査を続けており、連邦準備制度の独立性が脅かされているとの懸念が生じている。
連邦準備制度の独立性を研究するジョージ・ワシントン大学のサラ・バインダー教授(政治学)は、「今回の公聴会は極めて重要度の高いものとなる」と指摘。「トランプ大統領とその支持者は、どんなことがあっても、ウォーシュ氏が利下げにコミットすることを期待している」と話す。
その一方で、共和・民主両党の上院議員は「ウォーシュ氏が連邦準備制度の独立性保護にコミットすることを望んでおり、バランスを取る言動が求められる」とバインダー氏は指摘した。
さらに、ウォーシュ氏が実際に次期議長に就任する時期も見通せない状況にある。
上院銀行委メンバーのティリス議員(共和)は、司法省の捜査が続く限り、いかなるFRB人事も阻止する意向を表明。これにより、ウォーシュ氏の就任に必要な本会議での承認が阻まれ、パウエル議長の任期が満了する5月15日までにウォーシュ氏がFRBに加わることができるのか、疑問が生じている。
ウォーシュ氏はこのため、二つの課題に同時に対応しなければならない。一つ目は金融政策を巡るトランプ氏の要求にある程度の忠誠を示すことであり、もう一つはインフレ抑制の維持にコミットしていると、投資家を安心させることだ。
利下げ支持
ウォーシュ氏に対する議員からの質問で、まず想定されるのはトランプ氏からの圧力にどう対処するかというものだろう。トランプ氏は政権1期目に自身が指名したパウエル議長を公然と批判するとともに、連邦準備制度に影響を及ぼそうとして異例の措置を講じている。近年の歴代大統領の慣行を破るものだ。
上院銀行委の民主党筆頭理事、ウォーレン議員は2月、ウォーシュ氏に書簡を送り、トランプ氏が次期議長選考プロセスの一環として、忠誠を誓うよう要求したかどうか尋ねた。同議員はウォーシュ氏がトランプ氏に操られることになるとの見方も示した。
金融政策を巡るウォーシュ氏の過去の見解は民主党議員の格好の餌食となりそうだ。同氏はかねて、インフレ抑制のため金利を高めに維持することを主張してきた。その後、トランプ政権2期目が発足し、パウエル議長の任期満了が近づくと、姿勢を変化させたように見受けられる。
ウォーシュ氏は昨年7月、FOXビジネスのインタビューで、連邦準備制度が金利を引き下げるべきだとの見解を表明した。
近いうちの利下げ主張困難に
ウォーシュ氏が次期議長に指名されて以降、金利政策について公に発言するのは21日の公聴会が初めての機会となりそうだ。イランでの戦争はエネルギー価格の上昇を招き、インフレ率を押し上げている。
米金融当局者は昨年12月までの3会合連続で利下げに踏み切ったが、最新の石油ショックを受けて、様子見の姿勢を維持する考えを固めている。今月28、29両日に開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)会合では3会合連続の金利据え置きが見込まれている。
戦争に伴うエネルギー価格の上昇を踏まえると、ウォーシュ氏が市場の信認を得られる形で近いうちの利下げを主張するのは困難となりそうだ。
ドイツ銀行の米国担当チーフエコノミスト、マシュー・ルゼッティ氏はウォーシュ氏について、人工知能(AI)や規制緩和、住宅市場の価格圧力緩和などの潜在的なディスインフレ要因を指摘して今から1年後の金利低下シナリオを提示することはできるだろうと論じた。
ウォーシュ氏はトランプ氏に指名されるまでの数カ月間、利下げに向けた複数の論拠を提示していた。具体的には生産性向上や連邦準備制度のバランスシート圧縮などを列挙した。ただ、これらが効果を発揮するにはしばらく時間がかかる。
ドイツ銀のルゼッティ氏は、「それと同時に連邦準備制度の独立性への強力な支持表明も市場は期待している」と指摘。ウォーシュ氏からそうした支持がないか、同氏が拙速に利下げに動くとの不安が生じれば、インフレ高進懸念から長期金利が押し上げられ、裏目に出る恐れがあると、ルゼッティ氏は話した。
ベッセント財務長官は15日、CNBCとのインタビューで、金融当局者が利下げを待ちたいと望むのであれば理解すると述べ、ウォーシュ氏に対する圧力を一部和らげる姿勢を示唆した。
しかし、トランプ氏は翌日、ベッセント氏の考えに同意するかとの記者団の質問に対し、「ノーだ。賛成しない。金利を引き下げるべきだ」と回答した。
法廷闘争
ウォーシュ氏は、FRBとパウエル議長に対する司法省の捜査や、クック理事解任を目指すトランプ政権の取り組みについても、議員から質問を受ける可能性がある。クック理事と政権の係争は連邦最高裁で審理されている。
また、FRB本部改修プロジェクトの費用が、当初見積もりを大幅に上回る25億ドル(約3970億円)に膨らんだことに関し、司法省は大陪審への召喚状をFRBに送付したが、パウエル議長はこれについて、金融当局がトランプ氏の利下げ注文に応じていないことへの不満が動機だと指摘している。
上院銀行委のティリス議員は、司法省による捜査は連邦準備制度の独立性を脅かすと批判するとともに、捜査が決着するまでいかなるFRB人事も支持しないと繰り返し強調。これに対しトランプ氏は捜査継続を望む考えを示しており、事態打開の兆しに乏しい。
バランスシート
ウォーシュ氏は6兆7000億ドル規模の連邦準備制度のバランスシートを圧縮したい考えを示しており、この件も議員から質問がありそうだ。同氏は短期金融市場の流動性に混乱を来すことなく、どのように圧縮を進める計画なのか、ほとんど詳細を示していない。
一部の当局者や学識経験者が幾つかの案を提示しているものの、ウォーシュ氏に対し、野心的になり過ぎたり早急に進めようとしたりすることがないよう警告するものが多い。
民主党議員は、ウォーシュ氏の資産開示に関しても、不十分だとして疑問を呈する可能性がある。ウォーシュ氏は先に、妻ジェーン・ローダー氏と合わせて少なくとも1億9200万ドルの資産を保有していることを開示した。ただ、実際の保有額はこれを大きく上回るとみられる。
FRBは現在、他の連邦当局と共に規制緩和を推進しており、ウォーシュ氏は銀行監督へのアプローチについて議員の質問を受ける可能性があるほか、同氏が提唱する連邦準備制度と財務省の連携強化のアイデアも質問の対象となりそうだ。
ウォーシュ氏はまた、体制転換の一環として、金融当局が用いる経済モデルや、コミュニケーションの手法なども見直す意向を示唆している。
カンザスシティー連銀のジョージ前総裁は、ウォーシュ氏が示している案について、「不安はない」としつつも、「もっと明確にする必要がある」と語る。
ジョージ氏はさらに「連邦準備制度がかつて想定されていた通りの役割を果たし続けられるようにし、その枠組みやガバナンスに対するいかなる変更も、信頼できる中銀をわれわれが求めていることを明確に示す形で調整することが重要だ」と指摘した。
そうした信頼性は、米国以外でも重要だ。トランプ氏の影響を受けて、他国・地域の政府が自国の中銀に干渉しようとする可能性がある点が挙げられる。
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は先週、ワシントンで「ある方向へ進むか別の方向へ進むか、政治的圧力によって決定が下されているとの印象を投資家や市場が抱くのであれば、それは明らかに機関の信頼性を損なうと考えられる」と語った。
原題:Fed Pick Warsh to Get Senate Grilling With Confirmation in Limbo(抜粋)
--取材協力:Jana Randow.
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