(ブルームバーグ):国内3メガバンクが「トランザクションバンキング」と呼ばれる業務の強化に乗り出している。大企業の決済や資金管理を支えるサービスだ。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(FG)、みずほFGの3メガ銀グループは新年度に相次ぎ新サービスを投入し、人材採用と育成にも注力している。新しい領域ではなく、古くからあった銀行の基幹業務だが、なぜ今、改めて注目が集まっているのか。
決済の困りごとを解決
顧客が必要とする資金取引を網羅的にカバーするのがトランザクションバンキングだ。銀行員の間では略して「トラバン」と呼ぶこともある。
大企業は日々、さまざまな支払い、すなわち決済を行っている。原材料や部品の購入代金からオフィス賃料・光熱費・税金の支払い、グループ会社間の送金まで幅広い。海外展開する企業なら必要な通貨も円だけでなく、ドル、ユーロ、アジア各国の現地通貨など多岐にわたる。
決済を繰り返すと、世界の拠点間でお金の偏在が生まれる。例えば、「フィリピンで定期的な支払いが、しかも現地通貨で必要。でもお金が余っているのはヨーロッパの本部、しかもユーロでしか持っていない」といった困りごとが起きる。
メガバンクのトラバン機能が、こうした問題を解決し、顧客のスムーズな事業運営を支援している。
海外では「花形バンカー」も
一見、派手さはないが、海外で「トランザクションバンカー」といえば、企業買収などを手掛ける「インベストメントバンカー」と同様に花形の1つだ。
国際的な決済業務は、資金洗浄(マネーロンダリング)やテロ資金の規制から税制面での対応まで複雑さを増している。これらの知識や経験を武器に、大企業と強い信頼関係を結び、決済や資金管理まわりの取引を獲得できる営業力を備えた人材は引く手あまただ。
世界でトランザクションバンキングに強いのは、米銀では最大手のJPモルガン・チェースやシティグループ、欧州勢では英HSBCホールディングス、英スタンダードチャータード銀行などだ。こうした巨大銀行の存在感は日本勢が主戦場とするアジアでも大きい。
日本はトラバン戦国時代
MUFGは4月に「MUFG Unity(ユニティ)」というブランドを立ち上げて企業に売り込む。MUFGに口座があれば、タイやベトナムなどアジアの4か国へ、即時送金が可能となる。アジアで現地銀行に出資を進めてきたMUFGのネットワークを生かした。三菱UFJ銀行の松本雅弘トランザクションバンキング部長は、「外銀もまねできない仕組みだ」とした。
三井住友FGも今年、企業向け決済の新ブランド「SMBC Connect(コネクト)」を始める。サービスの全容は明らかになっていないが、中島達社長は「相当投資してプラットフォームを作っている。まずは日系企業のトランザクションを捕捉したい」と意気込む。今後3年で外貨預金600億ドル(約9兆6000億円)の積み増しを目指す。
みずほFGの広報担当者は、「26年度には重点領域と位置付けるアジア太平洋地域で新サービス導入を予定している」と電子メールで述べた。また、25年度に新卒採用でトランザクションバンキングの専門コースを新設しており、これまでに15人以上を採用したという。
「古くて新しい業務」
預金・貸し出し・為替という銀行の3大基幹業務のうち、預金と為替の2つを扱うのがトランザクションバンキングだ。企業が資金決済を依頼するには銀行口座に預金が必要で、ここに預金獲得のチャンスが生じる。銀行にとって「決済が預金獲得の肝」と言われるのはこのためだ。
日本銀行の超低金利政策により、日本の銀行にとって預金集めは長らく重要性を失っていた。貸出金などの利ざやは薄く、預金の運用先に悩むこともあった。ところが、日銀の政策転換を受けて「金利のある世界」が復活したことで、預金獲得は3メガ銀の最重要課題となった。
顧客である大企業はグローバル展開を加速させ、外貨の貸し出し需要も増している。日本の銀行が欧米の主要行と世界で渡り合うには円だけでなく外貨預金の獲得も待ったなしだ。トラバン歴25年以上のキャリアを持つ三菱UFJ銀行の松本氏は「古くて新しい」業務分野だと表現する。
膨らむ資金需要
銀行にとってトラバンの重要性が増しているのは、足元で資金需要が膨らんでいるためだ。
政府は、官民投資の戦略17分野を掲げて日本企業の競争力強化に力を入れる。トランプ米大統領と日本の関税交渉で合意した、5500億ドル(約87兆円)の対米投資も案件の選定が進む。また、日本企業は資本効率の改善を急いでおり、企業の合併・買収(M&A)や非公開化がかつてないほどの盛り上がりを見せている。
日本のメガバンクは融資を通じて、こうした案件を支える必要がある。資金需要は大きくなるばかりだが、一方で日本では全体的に銀行が「預金減少時代」に突入したという見方が多い。あるメガ銀の首脳は、このギャップが、日本経済の好循環に深刻な悪影響を及ぼしかねないとの懸念を示した。
メガバンクによるトランザクションバンキングの強化を通じた外貨と円の獲得は、融資を通じて企業のチャレンジを支えるという、社会における銀行の役割そのものに関わる。
みずほ銀行の加藤勝彦頭取は1日、全国銀行協会長としての記者会見で、預金が集まりにくくなっているとした上で、減少が続くと「信用創造機能や流動性管理に影響が生じる。大変重要なところだ」と述べた。
--取材協力:浦中大我.
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