日本銀行の小枝淳子審議委員は21日、中東情勢の緊迫化を受けた物価の上振れリスクは既に企業間で顕在化しており、今後は消費者段階への波及を注視していく必要があるとの見解を示した。福岡市内で講演後に記者会見した。

小枝氏は、原油価格の上昇や円安などを反映して輸入物価が上昇しており、物価の上振れリスクは「既にB to B(企業間取引)では顕在化している」とした。その上で、先行きの「B to C(企業と消費者の取引)への波及やマグニチュードを緊張感を持って見ている状況だ」と語った。

日銀の小枝淳子審議委員

中東情勢の緊迫化が長引く蓋然(がいぜん)性が高まっているとしつつ、現段階で景気の大幅な悪化は想定していないと説明。足元では「物価の上昇リスクの方が、景気後退リスクよりも大きくなっている」とし、適度なペースでの利上げで物価高に対応していくことが適切な政策だとの考えを示した。

日銀は4月会合で0.75%程度の政策金利の維持を決めた。9人の政策委員のうち中川順子、高田創、田村直樹の3人の審議委員が反対し、1.0%程度への利上げを提案した。増一行審議委員も14日の講演で早期利上げの必要性を主張。物価上振れへの警戒感が強まる中、小枝氏も利上げに前向きな姿勢を示した。

景気を刺激も抑制もしない中立金利に関しては、「下限は1%より上だと足元では認識している」と指摘。ベースとなる自然利子率の推計値の平均が「上がっていく蓋然性は、それなりにある」とも述べ、実質金利のマイナスかい離の拡大を意識した金利の正常化が一段と重要になると語った。

実質金利

午前の講演では、日銀が政策運営で重視している基調的なインフレ率について「既に2%ぐらいになってきている」とし、中東情勢を受けて2%を超えてくる可能性を指摘。適切なペースの利上げの必要性に言及していた。

マイナス領域にある実質金利を均衡状態に戻していく必要性も指摘。今後、インフレ率や予想物価上昇率が上昇する場合、実質金利は自然利子率からマイナス方向に一段とかい離しうるとし、「利上げを通じて金利の正常化を進めることが、より重要になる」と述べた。

植田和男総裁は4月の決定会合後の会見で、中東情勢の混乱を受けても大きな景気の下振れがなければ利上げに踏み切る可能性があるとの見解を示した。

日銀政策委員会内で利上げに積極的な姿勢が広がっていることもあり、市場では早期利上げ観測が強まっている。足元の金利スワップ市場が織り込む日銀の利上げ確率は、6月会合が約81%、7月会合までは約98%となっている。

景気の落ち込み

小枝氏は、需給ギャップがプラスの領域にあり、グローバルなIT需要の強さや政府の各種施策の効果などを踏まえれば、現時点で「世界金融危機やコロナ禍のような景気の大幅な落ち込みが、見通し期間で生じる蓋然性は低い」との見方を示した。

物価動向に関しては、企業の価格転嫁のペースが数年前より速い可能性は相応にあるとし、国内企業物価の伸びが拡大を踏まえて「今後、エネルギー価格の上昇が川下まで伝わっていくことは予想される」と指摘。原油高が長期化するリスクシナリオの可能性にも「十分注意する必要がある」と語った。

小枝氏は、昨年3月に早稲田大学政治経済学術院教授から日銀審議委員に就任した。前回の昨年11月の講演では、極めて低い水準にある実質金利を均衡状態に戻していく金利正常化を進めることが、「将来に意図せざるゆがみをもたらさないためにも必要だ」と語った。

(記者会見での発言を追加し、見出しやリードなどを差し替えて更新しました)

--取材協力:横山恵利香.

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