国内のパワー半導体メーカーを巡る再編が動き出す機運が高まっている。再編の中心となるのはロームだ。デンソーから買収提案を受けている一方で、27日には東芝と三菱電機の3社で事業・経営統合交渉を始めると発表した。再編が必要な背景とは何なのか。

なぜデンソーはローム買収に動いたのか?

デンソーは24日、ロームに対して株式取得に関する提案を行っていると発表し、買収へのプロセスを進めていることを明らかにした。

両社を巡っては今月6日、デンソーが株式公開買い付け(TOB)でロームの全株取得を目指し、買収額は1兆3000億円規模になる見通しとの報道があり、両社が声明を公表した。ロームもその際、報道された買収提案の内容を含む株式取得の提案をデンソーから受けたことを認めていた。

デンソーは2025年5月にロームとの提携を発表。ブルームバーグのデータによると4.76%のローム株を保有しているが、関与の度合いを一気に強めることを目指す。

ローム取得を目指すデンソーの本社(愛知県刈谷市)

半導体業界に詳しいフォーテージステクノロジーズの杉山和弘バイスプレジデントは、独ボッシュや中国BYDなど海外の競合がパワー半導体を自社で手掛け、垂直統合化を進める中、デンソーとしても今後トヨタ自動車が掲げる電動化での全方位戦略に対して製品を供給する責任を踏まえ、「体制強化が求められる局面にある」と指摘する。

パワー半導体とは?

パワー半導体は高い電圧や大きな電流を扱えるのが特長で、電力の制御や変換用途で使われる。これまでシリコンが主要な材料だったが、近年は電力損失が小さく、高耐圧で動作可能な炭化ケイ素(SiC)の需要が拡大している。特に電力効率の向上が航続距離や充電性能を左右する電気自動車(EV)向けではSiCの採用が広がっている。

省エネ効果が大きく、再生可能エネルギーや送配電などエネルギー分野でも不可欠な存在となっている。

デンソーは24年、富士電機とSiCを使ったパワー半導体の生産を共同で行っていくと発表するなど強化に動き出した。だが富士電機はシリコン製のパワー半導体が主流で、杉山氏は「SiCに強みを持つロームのようなプレーヤーが戦略上注目されたのではないか」との見方を示す。

他社はどうする?

ブルームバーグインテリジェンス(BI)の若杉政寛アナリストによると、国内ではこのほか、三菱電機やサンケン電気、ミネベアミツミなどもパワー半導体を手掛ける。

電子情報技術産業協会(JEITA)会長も務める三菱電機の漆間啓社長は、パワー半導体の国内再編について、急成長する中国勢に勝つためにも早急な対応が必要との認識を示し、自ら競合他社に呼び掛けていると明かしていた。

ロームは東芝の半導体子会社である東芝デバイス&ストレージ、三菱電機などと事業・経営統合協議に向けて基本合意書を結んだ背景について、持続的な成長には、技術力・生産規模・供給体制の強化が必要不可欠だと説明している。

3社が統合した場合、用途別のポートフォリオがほぼ3分の1ずつとなりメリットがある点も示した。3社が強いパワー半導体のシェアは2位に浮上するという。ただ最終契約の時期のめどなどは立っていない。

一方、パワー半導体を手がけるルネサスエレクトロニクスの柴田英利社長は25日の定時株主総会で、パワー半導体を巡る再編について「誰が主導権を握っているのかはっきりした段階で、パートナーシップについて議論を進めていきたい」と述べ、現時点での再編参入には慎重な姿勢を見せた。

ロームはどうする?

ロームは23年、東芝の非公開化に伴い、投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする国内連合に参加し、3000億円を拠出。両社でパワー半導体を共同生産する案件で経済産業省から最大1294億円の補助金も決まるなど関係を深めていた。

だが、24年6月から始まった両社の半導体事業の業務提携に向けた協議は時間がかかっている。ロームがEV市場鈍化などの影響を受け、業績が低迷していたことも影響したとみられる。ロームの東克己社長は2月の決算会見で、東芝との業務提携は現在も協議中と述べていた。

フォーテージスの杉山氏は、人員削減や設備投資の縮小など構造改革を進めているロームにとって、反転攻勢に向けて構造改革の途上にある中で、「提携先の選定は極めて重要になる」と指摘する。

再編機運が高まったきっかけは?

欧米と異なる国内市場の状況が背景にある。欧米はパワー半導体企業として各地域に1-2社主要な企業が存在する一方で、日本だけが「市場規模の割には会社の数が多く、競争環境としてはいいといえない」と、BIの若杉氏は指摘する。

米調査会社オムディアによると、24年の世界のパワー半導体市場は推計710億ドル(約11億3000億円)で、独インフィニオンや米クアルコムなど上位5社の売り上げが全体の3分の1強を占めると推計される。個社の規模では海外勢に太刀打ちできない中、国内勢が再編することによって研究開発や生産への投資規模を拡大し、経営効率を高めることで海外勢に追いつきたい狙いだ。

経産省は昨年末に公表した「半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性」で、パワー半導体市場は中長期的には大きく拡大する見込みで、この領域における「規模」の確保は「引き続き重要な課題」だと言及。ロームと東芝、富士電機とデンソーといった認定案件もベースに「さらなる国内連携・再編の促進を後押しする」としている。

再編で海外勢に勝てるのか?

BIの若杉氏は、パワー半導体を含むトランジスタ全体では、デンソーとローム、東芝のシェアを合算するとインフィニオンに次ぐシェア2位になる可能性も出てくると話す。

ただ、単純に再編しただけで競争力が強化できるわけではない。国内では過去にソニー(現ソニーグループ)、東芝、日立製作所の中小型ディスプレー事業を統合したジャパンディスプレイ(JDI)や、NECや日立のDRAM事業を統合したエルピーダメモリが誕生した。いずれも経産省の強い関与のもとで再編されたが、エルピーダは12年に経営破綻、JDIも長年にわたって経営不振に陥っており成功とは言いがたい。

欧米勢が自動車メーカーとの長期共同開発体制や次世代半導体で先行するのに加え、中国勢も政府支援や国産化政策を後ろ盾に技術を磨いており、楽観視はできない。

(情報を追加します)

--取材協力:清原真里.

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