イラン戦争勃発後の数日間、戦闘が市場にもたらす影響を読み解こうと奔走したマクサンス・ヴィソー氏は、人工知能(AI)を投資プロセスの中核に据えた。

投資会社アルケビウムの創業者であるヴィソー氏は、大規模言語モデル(LLM)の活用により、調査に費やす時間を約8割削減した。米アンソロピックのAIツール「クロード」を利用して複数のシナリオを同時に検証。過去の類似事例と比較しながら、資産クラス全体への波及効果の見通しをまとめたという。

「アラブ首長国連邦(UAE)における迎撃状況をモニターしながら、同時にシナリオ分析を走らせ、市場の寄り付きに備えていた。ほぼ48時間、ずっと眠れなかった」と、ドバイを拠点にマクロ戦略を専門とするヴィソー氏は振り返る。「まさにこういう局面でAIが不可欠になる」と語った。

ヴィソー氏はAIによって人間の判断力を確実に代替できるわけではないとしながらも、戦争に揺さぶられる市場を乗り切る上で、AIによる時間短縮の恩恵はますます欠かせなくなっていると話す。

世界各地の投資家やストラテジストへの取材からは、今回の紛争を機にAIツールが業務に一段と深く組み込まれつつある実態が浮かび上がった。一方で、不適切なプロンプトや不正確な結果といった落とし穴を指摘する声もあった。

ATグローバル・マーケッツのシドニー在勤のチーフ市場アナリストで、市場取引歴25年のベテランであるニック・トゥイデール氏は、「われわれは歴史の転換点を目の当たりにしている。AIが戦闘に使われ、トレーダーもまたAIを駆使してかつてない手法で戦況を分析している」と指摘した。

米OpenAIの「ChatGPT」、米グーグルの「Gemini」、中国の「DeepSeek」といったAIツールを使う最大の利点の一つは、時間管理の劇的な改善にある。

GAMインベストメント・マネジメントのチューリヒ在勤ファンドマネジャー、ジアン・シー・コルテシ氏は、以前は最新情勢を把握するためにさまざまなソースからの情報を30分かけて読んでいたが、今では戦況の要約を数秒で得られるようになったと話す。特定企業の情報収集も、従来は数日を要したものが1日で済むようになった。

「以前はシャベルで穴を掘っていたようなものだった。今は巨大なショベルカーで掘削しているのと同様だ。スピードはおそらく5倍に上がった」とコルテシ氏は語った。

もう一つの利点は、市場のボラティリティーが高まる中で、次に何が起きるかを探るために過去の事例をほぼ瞬時に掘り起こせることだ。北海ブレント原油は19日、中東の主要エネルギー施設への報復攻撃がエスカレートするとの懸念で急騰。一時は1バレル=119ドルを上回った。

瞬時に情報アクセス

ヴァンエックのクロスアセット投資ストラテジスト、アンナ・ウー氏(シドニー在勤)は、ChatGPTとクロードを使い、過去100年にわたる戦争起因の原油急騰をすべて追跡し、それぞれの局面でどの資産クラスが優れたパフォーマンスを示したかを分析した。回答の精度を高めるため、中央値のインフレ率や世界経済の成長率など他のデータとの照合もAIに指示した。

「確実に効率は上がった」とウー氏は語る。「歴史分析にかかる時間は大幅に短縮された。以前はグーグル検索の最後のページまで延々と調べていた」という。

サンパウロのレガシー・キャピタルの創業パートナー、グスタボ・ペソア氏にとって、AIツールはかつて入手が困難だった情報への瞬時アクセスを意味する。ホルムズ海峡の事実上の封鎖が投資判断にとってますます重要になる中で、その有用性は増している。

「船舶の種類の把握から、原油需要の価格弾力性の分析、さらには供給を安定させるために必要なバレル数の推計まで、あらゆる場面で活用している」とペソア氏は話す。

AIは万能ではなく、人間の経験や意思決定に取って代わるものでもない。ゲーム開発からニュースコンテンツの表現に至るまで、AIが誤りを犯した事例は枚挙にいとまがない。イングランド銀行(英中央銀行)の政策委員は、取引におけるAI導入が市場のショックや群集行動を増幅させる恐れがあると警鐘を鳴らしている。

アルケビウムのヴィソー氏は、AIから得た回答は常に正確性を検証する必要があると指摘する。「反復的なプロセスだ。アウトプットに疑問を投げかけ、前提を改良し、新たなデータを加えていく」と話す。

ジュニアアナリスト不要論

AIを最大限に活用するには知識が不可欠だと語るのは、ペッパーストーン・グループのシニアリサーチストラテジスト、マイケル・ブラウン氏(ロンドン在勤)だ。同氏はAIが「万能薬」ではないとくぎを刺す。

「最終的な取引判断を下し、AIモデルが不正確な情報を出していないかを見極めるには、市場参加者自身が状況を深く理解していなければならない。AIが誤った情報を出すことがあるのは周知の事実だ」と語る。

それでもAIツールの有効性が高まるにつれ、エントリーレベルの調査アナリストのような職種は存在意義を問われかねない。コルテシ氏はAIを自身の「最良の」リサーチアシスタントと表現。ジュニアアナリストなしでもやっていけると明言する。

「AIに『ウォーレン・バフェット氏のアプローチでこの企業のポイントを整理して』と頼めば即座にやってくれる。ジュニアアナリストに同じことを頼んでも、バフェット氏のアプローチとは何かすら分かっていないかもしれない。こうした複雑な要求には、間違いなくAIのほうが優れている。しかも圧倒的に速い」とコルテシ氏は語った。

AIがこうした補助的な役割にとどまり続けるかどうかは不透明だ。イラン戦争の開戦前から、AIの効率性によってどの業界が打撃を受けるかという投資家の警戒感が、ソフトウエア企業からフードデリバリーまで幅広い銘柄の売りを誘っていた。

シンガポールのヴァルヴェルデ・インベストメント・パートナーズの創業者、ジョン・フー氏は、AIが人間の思考プロセスを再現するのは、少なくとも現時点ではまだ程遠いと語る。

「AIは人間のリサーチ活動を補完する追加的なリソースだ。代替ではなく補完と言うのは、意思決定には優れた判断力や経験がなお必要であり、今の段階のAIには、おそらくあと2、3年はそれを理解することはできないからだ。その先は誰にも分からない」​​​​​​​​​​​​​​​​とフー氏は語った。

原題:Traders Overwhelmed by Iran News Are Turning to AI for Help(抜粋)

--取材協力:Abhishek Vishnoi.

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