イスラエル紙タイムズ・オブ・イスラエルの軍事記者エマニュエル・ファビアン氏は、奇妙なメールには慣れっこだ。だが、エルサレム近郊で発生したイランによるミサイル攻撃に関する記事を執筆した後、同氏でさえ目を疑うような内容のメッセージが届くようになった。

複数の読者が記事の一部訂正を求め、攻撃はイスラエルに迎撃されたミサイルの破片によるものであり、完全な飛翔体ではなかったと修正するよう要求した。ファビアン氏の記事はそうは報じていなかった。「それは取るに足らない、どうでもいい細部だ。一般の読者には重要ではない」と同氏はインタビューで語った。

ところが、その情報は予測市場ポリマーケットの参加者にとっては極めて重要だった。

ファビアン氏は程なく、これらのメールの送信者がポリマーケットに関連していることを突き止めた。そこではイランがイスラエルを攻撃する確率を巡り数百万ドル規模の賭けが行われており、ミサイルが迎撃された場合は攻撃とみなさないとの条項が含まれていた。

賭けに敗れた参加者は、ファビアン氏の記事を修正することで結果を覆せると考え、脅迫に動いた。ファビアン氏の説明によると、ハイムと名乗る人物は「お前のせいで90万ドル(1億4300万円)を失った。お前を終わらせるために、それ以上の金を投じるつもりだ」と脅してきたという。

現実世界の出来事の結果について現金や暗号資産(仮想通貨)で賭けるポリマーケットのような予測市場は、ここにきて急速に人気を集めている。スポーツベッティング(賭博)の構図を塗り替え、米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見のような日常的なイベントすら賭けの対象にしてきた。今やポリマーケットは、極めて深刻な戦争報道の領域にも踏み込んでいる。

まだ黎明(れいめい)期にある予測市場業界において、軍事衝突に関連する金融契約は物議を醸している。イランへの攻撃開始直後には、内部情報を持つ人物が取引を行い、利益を得たのではないかとの疑念が即座に浮上した。

ポリマーケットは16日、ファビアン氏への脅迫に関与したアカウントを凍結し、関係当局に通報したとX(旧ツイッター)で明らかにした。それでも、同業界を規制が存在しないカジノとみなす批判派は警鐘を鳴らしている。米民主党のクリス・マーフィー上院議員はファビアン氏の事例を引き合いに出し、政府の行動に関する賭けを全面的に禁止することを求めた。

ポリマーケットはコメントの要請に応じていない。

米国の法律は一般に、戦争に関連する金融契約を禁じていると解釈されている。だが、ポリマーケットは国際プラットフォームでこうした市場を提供しており、強い批判を浴びている。これらの市場は一般市民に有用な情報を浮き彫りにする点で価値があると同社は唱えている。

今回の一件を受け、ファビアン氏は予測市場がインサイダー取引や誤情報の拡散を助長しかねないと懸念している。機密情報が漏洩(ろうえい)するリスクもある。2月にはイスラエル当局が、機密扱いの軍事情報に基づいてポリマーケットで賭けを行ったとして2人を訴追した。

イスラエル国防軍から機密ブリーフィングを受ける限られた記者の1人であるファビアン氏は、こうしたプラットフォームが報道の現場にも誘惑をもたらしかねないとみている。同氏によれば、ある記者は、ミサイルに関する記事内容を修正するようファビアン氏に説得できれば、ポリマーケットの利益の一部を分配するとの提案を受けたという(その記者は拒否したと同氏は述べた)。

だが、より倫理観の低い記者であれば、「こうした過激な仮想通貨マニアから圧力を受け、報道内容を変える恐れがある」とファビアン氏は語った。

中東で議論を呼ぶ問題を多く取材してきたにもかかわらず、殺害を示唆する脅迫を受けたのは今回が初めてだという。

だが、巧妙な犯罪者ではなかったようだ。ある人物はグーグル検索で容易に身元が分かる電話番号を使ってファビアン氏にメッセージを送ってきた。警察は少なくとも1人の容疑者を特定しているとファビアン氏は述べた(イスラエル警察はコメント要請に応じていない)。

昨年終盤にも、訂正を求める依頼が相次いだ時期があったという。今思えば、それもポリマーケットに関連していた可能性があるとファビアン氏はみている。ただ、その時は暴力的な脅しはなかった。

「戦争といった実際に人々の生活に影響を与えるような現実の出来事への賭けはやや不快だ」とファビアン氏。その上で「賭けはスポーツだけにしておいた方が良さそうだ」と語った。

原題:Prediction Markets Get Tangled In the Iran War: Tech In Depth(抜粋)

--取材協力:Nathaniel Popper.

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