(ブルームバーグ):米国の優先順位が変わったら何が起こるのか。韓国は今、厳しい現実を目の当たりにしている。長年の同盟ですら、都合の良い関係に思えてくるということだ。
インド太平洋地域における米国の信頼性が揺らげば、米国への信用は下がる。さらに、関心が別方向に向かうと米国は関与を維持しないとの中国側の主張に説得力を与えることにもつながる。
地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)など防空システムの一部が、対イラン戦争のために朝鮮半島から中東へ移転されたとの報道を受け、にわかに警戒感が高まっている。米韓両国は2016年、北朝鮮による核・ミサイルの脅威の高まりに対応するためTHAADの配備で合意していた。
トランプ大統領は日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)などの同盟国に加え、中国に対しても、ホルムズ海峡に艦船を派遣し、商船の安全な航行を支援するよう求めている。
韓国はトランプ氏の要請に応じるかどうかをまだ決めておらず、深刻化する危機に引きずり込まれる展開に神経をとがらせている。李在明大統領は先週、議会でTHAAD問題に言及。政府は移転には反対しているとしつつも、それを阻止する手段はないとも認め、慎重な姿勢を示した。
韓国にとっては厳しい局面だ。最も重要な同盟国が提供する安全保障の確約が、必ずしも信頼できるものではないことを改めて思い知らされた。トランプ政権による関税措置ですでに打撃を受けていたところに、今回の問題が重なった。傷口を広げないためにも、トランプ政権は矛盾するメッセージや難しい要求ではなく、韓国に安心感を与える必要がある。
北朝鮮はすでに間隙を突いている。14日には10発以上の弾道ミサイルを発射。その数日前にも新型駆逐艦から巡航ミサイルを試射したばかりだった。米軍が韓国から防空システムを移転しても、北朝鮮に対する防衛能力に重大な影響はないとの見方を示していた李大統領だが、北朝鮮の動向は懸念材料となっている。
筆者がこれまで指摘してきたように、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記はここ数年で最も強固な立場にある。イランとの軍事衝突は、米国の関心が分散しているとの金氏の認識をさらに強めるだけだろう。
とはいえ、こうした状況は米韓同盟が崩壊しつつあることを意味するわけではない。米国は1953年に締結した相互防衛条約に基づき、約2万8500人の兵力を韓国に駐留させている。この同盟は、軍事的な対峙(たいじ)が続く朝鮮半島で、長年にわたり抑止力の基盤となってきた。
韓国は協力的なパートナーであり、負担拡大を求めるトランプ氏の要求に応じて防衛費を増額してきた。また、関税合意の履行状況を巡るトランプ氏の不満を和らげる狙いで、3500億ドル(約55兆6600億円)の対米投資に関する特別法も成立させた。
しかし、これは中国の持論を裏付けることになる。オックスフォード大学で国際関係学を教えるエドワード・ハウエル氏によると、約10年前のTHAAD配備に中国は強く反発した。
中国当局者はかねて、THAADが台湾有事の際に中国のミサイルを追跡するために利用され、中国の核抑止力を弱める恐れがあると主張してきたという。その一部が他の地域に移転されれば、「インド太平洋地域において米国との同盟関係がどれほど信頼に足るものなのか、各方面から疑念が生じるだろう」とハウエル氏は述べた。
韓国はTHAAD配備を巡る中国との関係悪化により、長らく経済および政治的な影響への対処を余儀なくされた。最大の貿易相手国との関係が記録的な水準まで冷え込んだことで、損失は数十億ドル規模に上った。
それでも韓国はマイナスの影響を吸収し、進化する北朝鮮のミサイル脅威に対抗するにはTHAADが不可欠だと主張してきた。だが、今回の米国の対応は、そうした犠牲は無駄だったのではないかとの疑念を韓国に抱かせている。
韓国国民もこの厳しい教訓を身をもって学んでおり、米国への依存を減らし、防衛力を強化するよう政府に要求し始めるかもしれない。具体的には、国内での兵器開発拡大や独自の核戦力保有といった議論が含まれるだろう。
世論調査では、独自の抑止力構築への広範な支持が一貫して示されている。米国の信頼性に対して懐疑的な見方が広がれば、こうした圧力はさらに強まりそうだ。
そうなればアジア地域で軍拡競争を招き、米国が数十年にわたり維持に努めてきた核不拡散の枠組みを損なう恐れがある。また、李大統領は中国にも接近を図っており、中国が影響力を拡大する余地が広がりかねない。
米国が自国の優先順位の間でどうバランスを取るかは、安全保障の確約に対する長期的な懸念を強めることになる。アジアで最大規模の駐留米軍を抱える日本は、米国の確約が条件付きになりつつある兆しを嗅ぎ取れば、とりわけ敏感になるだろう。小泉進次郎防衛相は16日、ホルムズ海峡への自衛隊の派遣について「何ら決まっていることはない」と述べた。
はっきりとした対応が示されない中、米国は伝えられているTHAAD移転が一時的なものかどうかを明確にすることができる。韓国の防衛や朝鮮半島の抑止力維持に向けた追加措置を示すことも、不安の緩和につながる。
監視体制の強化、部隊のローテーション配備、合同演習の拡充などの詳細を提示することも有効だろう。また米韓共同声明で、条約上の義務が揺るぎないものであることを明確に示すべきだ。
明確さが欠如すれば、疑念がその空白を埋めることになる。
(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBCのアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:South Korea Learns Hard Truth on US Promises: Karishma Vaswani(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.