(ブルームバーグ):脂肪肝は数十年にわたり、医学上の厄介なパラドックスとして存在してきた。非常に一般的でありながら、危険なほど症状が現れにくいためだ。医学上の正式名称では代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)と呼ばれ、世界人口の約30%が何らかの形でこの疾患を抱えている。現在の傾向が続けば、2040年までに世界人口のほぼ半数が影響を受ける可能性がある。
現在、アリババの達摩院が開発した新たな人工知能(AI)モデルが、この気づきにくい疾患に挑もうとしている。英科学誌ネイチャーに2月に公表されたこのシステムでは、病院が既に蓄積している膨大な臨床データを活用し、AIを大規模に適用した場合に予防医療がどう進化し得るかを示している。その意義は大きい。従来の診断よりもはるかに早い段階で警告サインを捉えることで、介入の余地を広げ、これまで早期発見が難しかった疾患の進行を抑制できる可能性がある。
MASLDが特に厄介なのは、その潜行性にある。この疾患は筆者の身近な家族や友人の間でも増えつつあるが、問題は個人の範囲にとどまらない。南アジアおよび東南アジアでは、脂肪肝の急増が公衆衛生上の静かな時限爆弾となっている。多くの場合、2型糖尿病やメタボリック症候群を併発しつつ進行した後に初めて発見されるためだ。
患者は通常、自覚症状がない。痛みもなく、明確な初期の兆候もないまま、肝臓に脂肪が徐々に蓄積し、やがて線維化や肝硬変、さらにはがんへと進行する可能性がある。血液検査や画像診断、生検といった従来の方法で医師が疾患を特定する時点では、簡易な措置が可能な機会は既に狭まっていることが多い。
スクリーニングプログラムは、費用面の制約や専門的診断へのアクセスの偏りといった課題に直面しがちだ。日常的に実施されるコンピューター断層撮影(CT)画像に付加して活用するAIシステムは、この状況を変える可能性がある。高価な検査インフラを新たに構築するのではなく、既存の検査にソフトウエア解析を重ねることで、本来は活用されない付随的な画像データから予防的な知見を引き出すことが可能になる。
これがアリババの新モデルの基本的な考え方だ。脂肪肝の機会的スクリーニングのためのマルチモーダルAI(MAOSS)と呼ばれ、腹痛や外傷、がん検査などさまざまな目的で毎年撮影される数多くの非造影CT画像を活用する。通常、これらの画像は当面の臨床目的に限定して読影されるが、MAOSSはより深い解析を行う。
CT画像に現れる微細なパターンを解析し、年齢や体格指数(BMI)、血液マーカーといった患者の基本情報と組み合わせることで、このシステムは脂肪肝の初期兆候を検出し、疾患の進行リスクを推定できる。ある目的で実施された検査が、別の潜在的なリスクを静かに浮かび上がらせる可能性がある。
この手法は機会的スクリーニングと呼ばれ、AIが公衆衛生を変革し得る最も現実的な手法の一つとして注目が集まっている。新たな検査や高額な画像診断プログラムを必要とせず、病院が既に保有するデータからより深い洞察を引き出す点が特徴だ。
アリババのモデルは、脂肪性肝疾患が確認された患者2071人の匿名化された大規模データセットを用いて訓練された。データにはCT画像に加え、人口統計情報、身体検査の指標、血清マーカーが組み合わされている。
達摩院のアルゴリズム専門家、ユアン・ガオ氏が主導した大規模な後ろ向き検証研究では、生検で肝疾患が確認された1000人超の患者を用いてシステムの評価が行われ、その結果は顕著だった。従来の検診では中・高リスク症例の検出率は17%超にとどまっていたが、AIを組み合わせた手法では52%にまで高まったと、ガオ氏は述べている。また、このモデルは低リスク患者の除外にも有効で、不必要な追加検査を減らし、医療資源の負担軽減につながる可能性がある。
脂肪性肝疾患向けのこのシステムは、応用例の一つに過ぎない。アリババの研究者は、中国国内のほか、パキスタンやシンガポール、サウジアラビアの病院で展開されている多がん種スクリーニングプログラムを通じて、基盤技術の改良を長年にわたり進めてきた。
こうしたモデルを取り巻く第2の技術層も登場している。画像や検査結果、患者データを解析するマルチモーダル診断システムは、人間の言語を理解・生成・操作するために膨大なデータで訓練された大規模言語モデル(LLM)と組み合わされつつあり、臨床的知見を実務的な指針へと変換できるようになっている。OpenAIの「GPT-4」やグーグルの「Med-PaLM」に類似したアーキテクチャーに基づくツールは、リスク報告の要約や「なぜ肝臓の脂肪が重要な意味を持つのか」といった患者向け説明の生成、さらには進化する治療ガイドラインに沿った臨床判断の支援を行うことができる。
その結果として生まれるのは、二重構造の知能だ。人間の目には見えないパターンを検出するアルゴリズムと、それが何を意味するかを説明できるシステムの組み合わせである。
ただし、一般的な留意点は当てはまる。後ろ向き研究は示唆的ではあっても決定的な証拠とはならない。前向き研究やより広範な地域での検証によって、このモデルが多様な医療システムにおいて同様に機能するかが明らかになる。またデータ品質や規制の枠組み、医師の信頼も、こうしたツールが研究段階から日常の臨床現場へと移行する速度を左右する。
AIモデルは技術的評価に焦点を合わせているが、診断された患者に対する責任を誰が負うかが問題だと、インド経営大学院で医療提供システムを研究するサラン・デオ教授は指摘する。「これは公的医療システムの中で慎重かつ意図的に設計されなければならない」と述べ、「問題を解決するのはAI単独ではなく、医療専門家の協力が必要だ」と語った。
方向性は次第に明確になりつつある。これまで医療は、慢性疾患に対して症状が現れてから対応することが大半だった。しかし新たな臨床AIの波は、異なるモデルを示している。アルゴリズムが日常診療の背後で静かに機能し、病気が顕在化する何年も前からリスクを検出するという形だ。
こうしたツールが成熟すれば、長らく沈黙の病とされてきた脂肪肝も、そうではなくなる可能性がある。
原題:Alibaba AI Takes Aim at Silent Liver Epidemic: Tech In Depth(抜粋)
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