イランを巡る中東地域での戦争が3週目に突入した中、世界の半導体業界は、半導体チップの製造に不可欠な資材の供給断絶や、テクノロジー産業の基盤である台湾の電力コストの急騰といった脅威に直面している。

台湾積体電路製造(TSMC)や政府当局者は安心材料を示している一方、投資家やアナリスト、業界幹部らは、戦争の長期化に伴いリスクが高まっていると警告している。台湾経済の約5分の1を占める巨大な半導体製造セクターは、今年売上高約1兆ドル(159兆円)に達すると予測される世界の半導体市場を支えている。

ただ、この産業は海外からの多種多様な化学薬品、部品、機械などの資材に依存している。

この中には、約3分の1がカタールで処理されるヘリウムや、石油・ガスの精製過程で生成される硫黄も含まれる。こうした資材の供給源や、燃料の3分の1を中東に依存している台湾の電力網に深刻な支障が生じれば、TSMCの事業に影響が及ぶことになる。

TSMCはエヌビディアの高度な人工知能(AI)アクセラレータやアップルのiPhone用プロセッサーの唯一の半導体メーカーで、世界最先端のロジック半導体の約90%を生産している。AIチップの需要はすでに生産能力を上回っており、生産に支障が生じれば、大手テック企業が今年計画している6500億ドルのAI関連支出に支障を来す。

供給の途絶は、ハイテク業界にとどまらず、家電から自動車製造に至るまで幅広い産業に波及する。多くの企業はすでに、現代のほとんどのデバイスに必要なメモリチップの価格高騰に苦しんでいる。

モルガン・スタンレーのアジア技術調査責任者ショーン・キム氏は、先週のポッドキャストで「ホルムズ海峡での混乱が即座に半導体チップ生産を停止させるわけではないが、電力コストや材料供給、そしてAIインフラの構築に波及する可能性がある」と語った。同氏は、大規模データセンターのようなエネルギー集約型施設を建設する企業が、運営コストの上昇と収益の低迷に直面する可能性があるとも述べた。

LNG依存

事態の行方は、戦争がどれほど長く続くかに大きく左右される。しかし、最大の懸念は、台湾の液化天然ガス(LNG)への異常に高い依存度にある。

海上輸送への過度な依存と、約11日分のLNG備蓄しか持たない台湾は、供給途絶に対して特にぜい弱だ。エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)によると、近隣の韓国は少なくとも52日分のLNGを貯蔵できる能力を持つ。日本も現在、約3週間分のLNG備蓄がある。モルガン・スタンレーの推計によると、台湾には、同地域へ向かう船舶に、さらに数週間分の在庫がある。

ゴールドマン・サックス・グループのアルビン・ソー氏率いるアナリストチームは15日のリポートで、台湾のエネルギー需要の97%が輸入に依存していると推計した。LNG供給の約37%は中東からだ。同チームは、台湾が代替のエネルギーに大幅な割増料金を支払うことになる可能性が高いとみている。

リポートは「ホルムズ海峡を通る商業輸送は深刻な混乱が続いており、カタールはフォースマジュール(不可抗力)を宣言した。台湾にとっての主要なリスク要因は、原油価格だけでなく、ガスの物理的な供給量、価格、納入時期にもある」としている。

台湾経済部は14日、現時点ではカタールからの出荷制約を補うため、3、4月分のLNGを確保しており、電力供給は十分と発表した。同省は別途、現地企業は米国やオーストラリアを含む複数の供給源からヘリウムを調達する能力があり、供給は特定の地域における状況の影響を受けることはないとも強調した。

台湾は3、4月の原油も確保しており、現在5月の船積みについて調整中だ。台湾エネルギー局の陳忠賢副局長はブルームバーグ・ニュースに「半導体は台湾の戦略産業で、チップ工場への電力供給の安定を確実にする」と語った。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のアナリスト、マイケル・デン氏は、供給の混乱が長期化した場合、ヘリウム不足により、半導体メーカーは収益性の低い部品よりも、利益率の高いAIチップの生産を優先せざるを得なくなる可能性があると指摘する。

中東での戦争開始以来、TSMCの株価は約7%下落している。世界的な株価の下落率は約6%だ。TSMCは16日、現時点では事業に重大な影響はないと見込んでいると発表した。

欧州も  

世界のハイテクサプライチェーンの中では、欧州も、時間の経過とともに弱さが露呈する可能性がある。欧州大陸の半導体メーカーもヘリウムの輸入に依存しており、EU内で生産を行っているのはポーランドだけだ。

シンクタンク「インターフェース」のグローバル・チップ・ダイナミクス・プログラム責任者、ジュリア・クリスティーナ・ヘス氏によると、ポーランドの生産量は、欧州の需要の約8%で、欧州連合(EU)圏で使用されるヘリウムの約40%はカタールから調達されている。

ロシアによるウクライナ侵攻や、米国立ヘリウム備蓄機構の濃縮施設の閉鎖を受け、欧州は戦略的備蓄能力を強化してきた。

EU域内の半導体メーカーは、現時点では懸念していないとしている。欧州半導体産業協会の広報担当者は、加盟各社はヘリウムの全体的な供給状況に差し迫った脅威はないとみていると電子メールで述べた。ドイツの半導体メーカー、インフィニオン・テクノロジーズの広報は、同社は複数の地域からヘリウムを調達しており、備蓄も確保しているため、ホルムズ海峡の影響は緩和されるとしている。

ただ、サプライチェーンに対するその他の圧力が、より早期に課題となる可能性がある。ドイツの業界団体「シリコン・ザクセン」のフランク・ボーゼンベルク代表は、キャセイパシフィック航空の貨物部門が世界のウエハー輸送の30%を担っていると明かした。キャセイパシフィックのドバイ地域ハブは現在、完全には機能しておらず、供給混乱の可能性があるという。

世界で多岐にわたるサプライチェーンのリスクを考慮すると、戦争が継続した場合の経済的影響の深刻さが、より広範な問題として浮上する。特に台湾の半導体エコシステム全体への混乱は、世界最大級である同産業の一部に、波及効果をもたらす恐れがある。そうなれば、現在ある歴史的なメモリチップ不足も、さらに悪化することになる。

原題:Iran War Chokepoints Begin to Cast Doubt on Global Chip Supply(抜粋)

--取材協力:林妙容、Sing Yee Ong.

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