(ブルームバーグ):北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、米国とイスラエルによるイラン攻撃から危険な結論を導き出すだろう。核兵器こそが体制を存続させる究極の保証だという認識だ。
北朝鮮政府はイランの最高指導者ハメネイ師を殺害した今回の作戦を非難し、恥知らずで違法な侵略行為だと断じた。トランプ米大統領は、イラン政府が核兵器の開発に近づいていたと主張し、戦争を正当化したが、イラン側はこれを否定している。
核実験を何度も実施している北朝鮮の核開発計画はイランよりもはるかに進んでおり、数十発の弾頭を保有していると広く分析されている。今回のイラン危機を受け、米国の歴代政権は独自の強力な兵器を持たない敵対的な独裁者を標的としてきたとの見方を強める公算が大きい。
金氏はイラクのサダム・フセインやリビアのカダフィ大佐の末路を思い出しているだろう。北朝鮮国営メディアは、同じ運命をたどらないためには核抑止力が不可欠だと論じてきた。
米国と韓国は長年、制裁や国際的圧力を通じて金氏に核兵器の放棄を迫ってきたが、その戦略は失敗している。金氏は非核化協議を繰り返し拒否し、核計画の拡大を続けてきた。
中東でエスカレートしている戦争は、兵器開発を推し進めたのは無謀ではなく合理的だったと主張する材料になり得る。
もはや賢明な方策は、金氏に兵器庫の拡張をやめさせることではないのかもしれない。むしろ、それを使用すれば壊滅的な結果を招くと納得させる必要がある。
米カーネギー国際平和財団のシニアフェロー、アンキット・パンダ氏によると、ボールは今やワシントンとソウル側にある。「もし新たな発想をしなければ、平壌は核・ミサイル両計画の野心的で不可逆的な近代化を続けるだろう」と同氏は筆者に語った。
中ロとの協力
金氏はここ数年で最も強い立場にある。北朝鮮とロシア、中国の協力深化により、制裁の圧力は弱まり、妥協する動機も低下している。
ロシアと北朝鮮は2024年の協定で軍事関係を格上げした。相互防衛義務も盛り込んだ。中国の関与はもっと複雑だが、重要な経済・外交支援を提供している点に変わりはない。
昨年9月に北京で行われた軍事パレードでは、金氏は中国共産党の習近平総書記(国家主席)とロシアのプーチン大統領と天安門の楼上に並び立ち、米国に対する示威を演出した。3カ国連携の強さが示された場面だった。
金氏にとって核兵器は単なる交渉材料ではない。保険だ。体制と王朝、そして娘のジュエ氏を軸に始まった後継構想を守る役割を担う。
ジュエ氏は2022年11月に初めて公の場に姿を見せた際、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の前に立った。その象徴性は明白だった。次世代が金王朝の存続を保証する兵器を受け継ぐというメッセージだ。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、北朝鮮は現在、最大50発の核弾頭を保有し、さらに約40発を製造できる核分裂性物質を有しているとみられている。米本土に到達可能なICBMの建造と試験も続けており、敵対的存在と見なす韓国を定期的に威嚇している。
朝鮮戦争(1950-1953)で北朝鮮と戦った韓国は休戦協定を結んだだけだ。厳密に言えば、南北はまだ戦争状態にある。韓国も手をこまねいているわけではない。
対話再開を呼びかける一方で、先進的な弾道ミサイルの配備や原子力潜水艦の計画など、軍事能力を拡充している。戦略の中核を成すのが米国の存在で、米兵約2万7000人が韓国に駐留し、パトリオットや高高度防衛ミサイル(THAAD)などの防衛システムが支えている。
日米韓
米国と韓国、日本は現在、ミサイル警戒データや情報を共有し、統合度を高めた合同軍事演習を実施している。外交の余地はなお残るが、それは金氏次第だ。
今年2月に開かれた5年ぶりの朝鮮労働党大会で、金氏はさらなる兵器開発の構想を示し、より強力な兵器の建造を誓った。同時に、米国が「敵視政策を撤回するなら、関係改善を追求しない理由はない」とも述べた。
恒久的に核武装した北朝鮮という不都合な現実を受け入れる時期に来ている。米韓は非核化ではなく抑止に軸足を移し、安定的な共存を目指すべきだ。定期的な関与を通じた普通の外交関係構築も必要になる。
それには双方が一定の信頼を醸成することに加え、考えを変えやすい金氏の傾向を管理する能力が求められる。金氏の移り気は過去のトランプ氏との会談でも見られた。
新たな枠組みは、その変動性に耐え得る強靱(きょうじん)さを備えなければならない。朝鮮半島における米軍駐留の継続や、北朝鮮の射程圏内にある日本とのミサイル追跡能力拡充も一助となり得る。
金氏がイラン攻撃から得るだろう教訓はシンプルだ。核兵器を持たない専制国家は格好の標的となる一方、核を開発した国家は抑止力という盾を手にするということだ。
そうした認識は金氏の猜疑心(さいぎしん)をさらに強め、核戦力の拡大に向けた決意を一段と固めることになるだろう。結果として、朝鮮半島の安定化は容易になるどころか、むしろ一層困難になる。
(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Iran War Will Harden Kim’s Nuclear Resolve: Karishma Vaswani(抜粋)
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