米国とイスラエルの対イラン戦争で、漁夫の利を得るのはロシアだとの見方が広がりつつある。ロシアの利益が短期的なものだとしても、欧州やペルシャ湾岸諸国の当局者は警戒感を示している。

ロシアのプーチン大統領にとって、中東の混乱は苦境にある経済が息を吹き返す願ってもない好機だ。石油・ガス供給を巡って欧州が降参、ロシアがより大きな交渉力を確保し、ウクライナとの戦争で一段と有利な立場に立つとの懸念もある。

イラン戦争が始まる前、ロシア政府はウラル原油が長期的に1バレル=40ドルの水準にとどまり、財政赤字が深刻化する事態を覚悟していた。実際、1月の原油販売収入は過去5年余りで最低の水準に落ち込んでいた。

それが、エネルギー輸送で世界で最も重要な水路であるホルムズ海峡が事実上閉鎖され、ロシア西部の港から輸送される原油の取引価格は9日にほぼ2倍に跳ね上がった。ガス価格も急騰した。

欧州の一部の供給国の間で懸念されているシナリオの一つは、欧州連合(EU)がロシアからの燃料供給を完全に脱却する計画の一環として、来月予定する新規のロシア産液化天然ガス(LNG)短期契約禁止を、延期せざるを得ない状況に追い込まれることだ。

ガス市場の変化とそれが欧州、ロシア、ペルシャ湾岸諸国に及ぼす影響を大手エネルギー企業が分析したところ、ホルムズ海峡を通るLNG供給がほんの数週間途絶えるだけで、欧州のエネルギー政策は向こう何年にもわたってロシア有利に傾く可能性がある。この分析をブルームバーグ・ニュースは確認した。

また、ブルームバーグが確認した英国政府の内部評価によると、イラン戦争が4月半ばまで長引けば、原油価格は130ドルまで上昇し、LNG価格は急騰を続ける可能性がある。戦争でカタールからの供給が失われる一方、ロシアは中国にLNGを販売している。

欧州理事会のコスタ常任議長(EU大統領)は10日、「この戦争の勝者はただ一人、ロシアだ」と、加盟国大使との会合で指摘。「エネルギー価格の上昇で、ウクライナに対する戦争の資金を賄う新たな財源をロシアは得ている。さらに、ウクライナに送られる可能性があった軍事能力が他に回されてしまうことでも利益を得る」と語った。

湾岸協力会議(GCC)諸国も今回の展開を懸念していると、GCC加盟国の当局者は述べ、「この状況が長引けば長引くほど、世界への影響は深刻かつ広範に及ぶ」と警告した。

 

好機捉えるよう既に指示

2022年2月にウクライナへの全面侵攻が始まって以来、EUは域内エネルギー市場に対するロシアの影響力を排除しようと取り組んできたが、ロシアはそれを回復する機会も手にする可能性がある。プーチン氏は既に、この好機を捉えるようエネルギー企業に指示を出し、9日には欧州に再び石油やガスを売る用意がロシアにはあると示唆した。

EUの推計によれば、EU全体のロシア産ガス購入で、短期契約が占める割合は昨年時点で3分の1に満たない。残りは長期のLNG契約で、これは今年も認められる。

現時点では、EUがロシア産エネルギーの脱却計画を延期する兆しはなく、停止または損傷した欧露間のガスパイプラインは依然として稼働していない。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は11日に欧州議会で、ロシア依存への逆戻りは戦略的な誤りになると主張した。

しかし、戦争が長期化し、ペルシャ湾岸地域からの供給縮小が続く場合、一部の加盟国が安価なロシア産エネルギーの誘惑に駆られる可能性はあるだろうと、一部の欧州当局者は懸念する。

警戒を強めているのはウクライナも同じだ。

ウクライナはペルシャ湾岸諸国との防衛協力を急ぐ。一方、ウクライナ中銀のピシュニー総裁は、エネルギー価格上昇でロシアが受ける恩恵を打ち消すよう訴え、それには米国がインドに施したような対ロシア制裁の免除ではなく、制裁強化が必要だと論じた。

現時点でロシアは、イスラエルおよび米国とイランの戦争に公然とは関与しないまま、恩恵に浴している。事情に詳しい2人の関係者は、ロシアがイランに情報を提供していると語り、ワシントン・ポスト(WP)紙が先んじて報道した内容を裏付けた。

トランプ米大統領はプーチン氏と9日、中東危機について長時間にわたる電話会談を行った後で記者団に対し、プーチン氏は「助けになりたいと考えている」と語った。だが、プーチン氏はその数時間前、イランの新たな最高指導であるモジタバ・ハメネイ師に対し、「揺るぎない支持」を約束していた。

原題:Putin’s Iran War Dividend Raises Alarm Among Some US Allies(抜粋)

--取材協力:Volodymyr Verbianyi、Nicholas Larkin、Rachel Morison、Elena Mazneva、Ellen Milligan.

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.