トランプ米大統領が対イラン攻撃の拡大を示唆し、中国の戦略的パートナーを「非常に激しい」打撃を与えると警告してから数時間後、中国の王毅外相は世界中から集まった報道陣を前に2026年が米中関係にとって節目の年になり得るとの考えを示した。

王氏は8日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の会期中に行われた年次記者会見で、米中が「誠意と信義をもって向き合えば、26年を中国と米国の関係にとって健全で安定的かつ持続可能な発展の画期的な年にできる」と述べた。

この発言は、王氏自身が5年前に署名したイランとの関係強化を維持しつつも、米国が主導しているイラン攻撃にもかかわらず米政府との関係を守る意向を中国側が示したこれまでで最も明確なシグナルだ。

中国は中東情勢の激化に対し脆弱(ぜいじゃく)だ。中東での生産や輸送の混乱がエネルギー価格を急騰させている。また、海上輸送による中国の原油輸入の約13%を占めていたイランが不安定化すれば、供給源の多角化を進める中国の取り組みに打撃となる。

王氏は停戦を求め、イランを巡る紛争は「決して起きてはならなかった」と論じた。

一方、31日-4月2日に予定されるトランプ氏の訪中に合わせ、習近平国家主席が開く首脳会談の計画に、この紛争が影響することはないとの見方を示唆した。

北京を拠点とする独立系シンクタンク、ホライズン・インサイツ・センターのエグゼクティブディレクター、チュー・チュンウェイ氏によると、米中関係の安定と改善の重要性は強調してもし過ぎることはない。

イランや中東全体で何が起きても、米中関係が不安定化したり首脳会談が中止されたりする可能性は低いとの見方を示した。

王氏の記者会見前から、米中が首脳による発表を想定した潜在的な合意の準備を進めている兆しがあった。そこには大規模な商業取引が含まれる見通しだ。

ベッセント米財務長官とグリア米通商代表部(USTR)代表が来週末、中国の何立峰副首相とパリで会合を開き、地ならしを行うとみられている。

王氏のイランに関するスタンスに見られる自制は、世界一の経済大国である米国との関係安定が最優先との計算に基づくものだ。

中国は国内での成長鈍化と、自国の輸出に対する世界的な反発の高まりに直面。首脳会談が成功すれば、関税対立の棚上げ延長や貿易を巡る対外環境の安定化につながる可能性がある。

ユーラシア・グループのシニアアナリストで元米外交官のジェレミー・チャン氏は、中国との結び付きが深いベネズエラのマドゥロ大統領を米国が拘束した際の中国の対応にも触れ、中国はイランやベネズエラを守ることよりも、米国とのデタント(緊張緩和)維持により大きな関心を持っていると指摘した。

ただし、こうした計算には中国の信頼性を損ねるリスクも伴う。

中国は、自らが提唱する「グローバル・セキュリティー・イニシアチブ(GSI)」を、弱肉強食の論理や米国の介入主義的アプローチより優れた枠組みと位置付けてきた。

友好国への実質的な支援が乏しければ、中国が米国の力に代わる信頼できる選択肢を提示しているというメッセージ自体が損なわれかねない。

チャン氏は「ウクライナやパレスチナ自治区ガザ、そして今回のイランでの世界を巻き込む紛争は中国の構想の限界を示している」と分析。「パートナー国に準安全保障上の保証を提供したいのであれば、GSIよりも強力な手段を打ち出す必要がある」と述べた。

台湾巡り譲らず

中国政府は修辞を駆使し、信頼性の欠如を埋めようとしている。王氏は、中国をルールに基づく世界秩序の管理者として描き、「力こそ正義」だとするアプローチへの対抗軸だと主張した。これは米国の外交政策を念頭に置いた発言とみられる。

米中が世界を共同で主導する「G2(グループ2)」構想を支持するか問われると、王氏はそうした枠組みを退け、世界は大国だけで運営されるべきではないと強調し、より多くの国々の発言権拡大を訴えた。

軍事演習に参加する台湾海軍艦艇

しかし、王氏は台湾に対する中国政府の主張を改めて取り上げ、台湾独立の追求はいずれも「失敗に終わる」と警告した。

王氏は、「台湾問題の解決と祖国の完全統一の実現は止めることのできない歴史的プロセスだ」と述べ、「これを支持する者は歴史の正しい側に立ち、逆らう者は滅びる」と付け加えた。

習氏はトランプ氏と先月行った電話会談で台湾問題を取り上げ、台湾向けの武器売却を「最大限慎重」に扱うよう米国に求めた。米国は昨年、台湾の防衛力強化を目的に過去最大級の111億5000万ドル(約1兆7700億円)に上る武器売却を承認した。

王氏は台湾を中国の「核心的利益の核心」と呼ぶなど、日本に対しても干渉しないよう警告を繰り返し、中国政府の神経質さを裏付けた。

高市早苗首相は25年10月に習主席と会談しているが、同年11月の国会答弁で台湾有事が起きた場合、米国の介入を念頭に自衛隊派遣の可能性に言及し、中国の反発を招いた。

華東師範大学(上海)のジョセフ・グレゴリー・マホニー教授(国際関係学)は、イラン情勢がさらに悪化し、とりわけ米国が自らの苦境の責任を中国に帰した場合や、台湾を巡る米国の行動次第では首脳会談が脅かされる可能性があると分析。台湾に関連する新たな挑発、例えばさらに200億ドル規模の対台武器売却の可能性が出てくれば、会談は危うくなるという。

原題:China Hails ‘Landmark’ Year in US Ties Despite Widening Iran War(抜粋)

--取材協力:Lucille Liu、Jing Li、Josh Xiao、Nectar Gan.

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