米国とイスラエルによるイラン攻撃は、トランプ米大統領にとって重大な転機となった。かつては絶対に始めないと誓った戦争を、自ら引き起こすことで、2期目の政策アジェンダを強化できると読んで賭けに出た形だ。

核協議が大きく進展しているとアラブ仲介国が説明し、大半の米国民が新たな軍事行動に反対していると世論調査が示す中で、攻撃実行の決断は下された。

つい2カ月ほど前にはベネズエラで大胆な米軍作戦を命じており、トランプ氏の外交政策は力による介入へと傾斜を強めている。

支持率は低下し、国外を偏重し、経済をないがしろにしているとの見方が広がる中、11月の中間選挙では共和党が敗北し、下院での過半数を民主党に奪われると予測されている。こうした状況でのイラン攻撃は、トランプ氏にとってかつてない大きなギャンブルだ。

米・イスラエルによる攻撃にイランが報復

トランプ氏がホワイトハウスに復帰して以降、米国は少なくとも7カ国を爆撃したが、今回の対イランはかつてない規模となった。

ジョージタウン大学ドーハ校のポール・マスグレーブ准教授は、政治家が戦争を利用して支持率を高めようとする傾向について「国内で多くの問題に直面しているトランプ氏は、これに魅力を感じたのだろう」と述べた。「ベネズエラ作戦が軍事面で称賛され、トランプ氏にとってここ数カ月で数少ない明るい材料だったことから、より大規模な形での再現を狙った可能性がある」と述べた。

戦争はしばしば、本人が意図しなかった形で米大統領の歴史的評価を塗り替える。ベトナム戦争はジョンソン政権を疲弊させ、イラク戦争はジョージ・W・ブッシュ大統領の時代を説明する上で不可欠なものとなった。戦場で明白な勝利を収めても、政治的には安泰とは限らない。1991年の湾岸戦争を短期で勝利に導いたブッシュ大統領(父)は、経済を重視した有権者に支持されず、再選を逃した。

マスグレーブ氏はトランプ氏が「突如として、より長く、大量の流血を伴う戦争に備えているようだ」と語る。「長期的に国民の関心をそらすことを考えているのであれば、最終的には同氏にとって長期的にも非常に悪い結果になりかねない」と警告した。

支持率と戦争

米国の大統領は国内での支持が落ちるとイラン攻撃に頼るという見方は、トランプ氏自身がかつて繰り返していたものだ。同氏は2011年、「オバマ大統領は再選のためにイラン戦争を始めるだろう」などと投稿。2013年にも同様の投稿を繰り返していた。

トランプ氏は28日に投稿した動画で「勇敢な米国の英雄たちが命を落とす可能性はある。死傷者は出るかもしれない」と述べた。

一方で原油価格は今年に入って20%近く上昇しており、さらなる高騰でガソリン価格が跳ね上がり、国民の財布を締め付ける可能性がある。

かつて外国との戦争に反対を表明していたバンス副大統領は「出口の見えない戦争を何年も続けることはあり得ない」と、イラン攻撃の前日に述べていた。

しかし軍事専門家の間では、空爆だけで体制転換を実現するのは困難、あるいは不可能だとの分析が多い。

トランプ政権内ではかねて、外交ではイランの核開発を止められないとの主張がある。ホワイトハウス外でもグラム上院議員ら共和党タカ派は、体制転換につながる決定的な軍事行動を公然と要求してきた。イランは一貫して核兵器開発を否定している。

イスラエル主導説

こうした議論を注視してきたイスラエルのネタニヤフ首相は、イランの無力化を政治生命の柱と位置付けている。贈収賄で起訴されているネタニヤフ氏を、トランプ氏は「比類なき戦時指導者」だと称賛し、恩赦を求めた。これはトランプ氏の支持層や右派内に亀裂を生じさせた。

右派のコメンテーター、タッカー・カールソン氏は「2003年春のイラク侵攻以来となる大規模な戦争」だとして、「これを導いたのはイスラエルだ。われわれの戦争はネタニヤフ首相の命令と指示に基づいている」と批判した。

フィンランドのストゥブ大統領はイラン攻撃の正当性を疑問視し、「伝統的な国際法を概ね逸脱している」と28日に放映されたテレビインタビューで批判した。

戦争のコストは政治面にとどまらない。昨年はイランの対イスラエル攻撃で迎撃弾が大量に消費された。戦略国際問題研究所(CSIS)によると、米軍は迎撃システム「高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)」のミサイル約150発を打ち上げ、在庫が4分の1ほど減少した。

米・イスラエルの計算は、昨年12月に広がり始めたイラン市民による大規模な抗議活動で変わった可能性がある。

トランプ氏はベネズエラで実行したように、イランでも体制の指導部だけを排除する戦略を追求している可能性がある。つまり体制トップを切り離しても、その後の責任を米国は負わないという戦略だ。

しかし人口9000万人を抱えるイランは、重装備の治安部隊が国民を監視し、体制転換は困難とみられる。また大規模な抗議活動に見られるように、イラン国民は現体制を支持していないとしても、外国からの敵対的行動に対しては結束を固めることが、これまでの歴史が示している。

欧州外交問題評議会(ECFR)の中東・北アフリカ部門副責任者、エリー・ゲランメア氏は「イラン政権指導者らにとって、存亡を分ける瞬間だ。安全保障とイデオロギーの両面で、米・イスラエルを相手に長期的な戦争に備える態勢となっている」と指摘。「その結果、イランによる広範な反撃が進行中であり、中東全域を巻き込んだ大混乱の扉が直ちに開かれた」と述べた。

原題:Trump Gambles New Iran Strikes Will Save Flailing MAGA Agenda(抜粋)

--取材協力:Ethan Bronner、Gerry Doyle、Kirsi Heikel、Golnar Motevalli.

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